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干支っ娘!  作者: kure
26/71

不動龍陥落 4

――浴宮神社――


 石段を上がり、静かな神社の境内を抜ける。

「修司さん、まだ起きてるみたいですわね」

 二階の窓に灯る明かり。彼の部屋だ。一階にも人の気配がある。

 もしさっきのが彼の母なら、急いで来た私達より早く戻っているとは考えがたい。


「訪ねてみますか?」

「いや、いいだろう。戻ろうか」

 夜も遅いし、わざわざ訪ねる必要もあるまい。

 帰ろうと背を向けた時、玄関の扉が開いた。

「あら。蓮ちゃんに、龍ヶ崎さんじゃない。こんなところでどうしたの?」

 扉を開けたのは、白襦袢に身を包んだ彼の母。

 もう休むところだったのだろう。やはりアレは見間違いか。

「こんばんは母上殿。ちょっと近くまで来たもので――お騒がせして申し訳ない」

「あら、いいのよ。疲れたでしょ? お風呂沸いてあるから入っちゃいなさい」

「え? いや、私達は――」

「ほらほら、綺麗にしないと嫌われちゃうわよ」

 彼の母は私達の腕を抱え、家に引きず――招き入れた。

 

「ふぅ。気持ちいいですわね」

 言われるがまま――私達は神崎家のお風呂に浸かっていた。

 どうやら泊まって行く事になったらしい。

「ああ。沸かしたての新湯さらゆとは、何だか申し訳ない気分だよ」

「私の後に……修司さんが浸かるのですね」

 何を考えているのか、龍ヶ崎が恍惚とした表情を浮かべる。

 私の入ったお湯に……彼が入るのか――。

「今、ふしだらな事を考えていましたね?」

「なっ!? 何を言うか! 変な事を考えていたのはお前のほうだろう!」

 龍ヶ崎がドキッとした顔をする。湯気と共に、気まずい空気が風呂場に漂った。


「どっ、どこまでしましたのですかっ」

 横を向いたまま龍ヶ崎が口を開く。

「何の事だ?」

「その――修司さんと――」

 遠慮がちなトーン。その瞬間、私はその言葉の意味を理解した。

「わっ、私は何もしておらん!」

 思わず立ち上がる。動揺しているのは、自分が一番分かっていた。

「丸見えですわよ。はしたない人ですね」

「おっ、お前が変な事言うからだろう! 全く……」

 再び湯に浸かると、龍ヶ崎が考え込むように呟いた。


「じゃあ一体誰と……」

「な、何の話だ……?」 

「お母様が言っていましたわ。女の子とヤりたい放題で困ってるって」

「やっ、やりたい放題だと!?」

 まさか! 彼に限ってそんな事あるはずない!

「だから……見えてますわよ」

「……すまん。だが、それは母上殿の勘違いではないのか?」

「いえ……修司さんもそういう行為は大好きだとおっしゃってましたわ」

「なん……だと……?」

 彼が……そんな事をしていたのか? 一体誰と!? 

 交友関係は全て把握しているつもりだった。女の影はおろか、親しい友人すらいないはず。

 茜? いや、あいつはまだそこまでの仲ではないはずだ。確かにボディタッチは多々あるが、それは茜が一方的にしているだけ。彼はそこまで喜んではいないはず。


「百合子……?」

「まさか! 百合子ちゃんはそんな子じゃありませんでしょう?」

「そうだ。百合子はそんな子ではない。だが、何も知らないからこそ、言われるがままに……」

「そんな……」

――真偽を、確かめねばなるまい。   


 部屋のドアを開けると、彼は電気をつけたまま気持ち良さそうに寝ていた。

「よし、起こそう」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! まずは証拠を集めるのが先決じゃありませんこと? いくら問い詰めても、シラを切り通されたらそこまでですわ」

 ベッドに手をかけた私を龍ヶ崎が止めた。

 確かに、彼女の言う事も一理ある。百合子に堅く口止めをしている可能性も。

 まずは退路を塞ぐのが先か。


「よし、ではこれより捜索に入る。私は机を調べるから、お前はタンスを頼む」

「分かりました。でも、何を探すのかしら?」

「百合子は彼と同い年だが、見た目は幼い。もし彼にそういう趣味があるのなら、その片鱗が隠されているはずだ」

「鋭い推察力ですわね。では早速探しましょう」

 極力物音を立てぬように、私達はミッションに取り掛かった。


「見つかりませんわね……」

 机の隅からタンスの裏まで、どこを探してもそれらしい物証は出てこなかった。

「いや待てよ。余りにも不自然だとは思わないか? 健全な男子なら一冊くらいはあってもよさそうなモノではないか?」

「確かにそうですわね――そういえば聞いた事がありますわ……。男子は、ベッドの下によく隠すと」

 言われてみればそうだ。それは私も聞いた事がある。

「龍ヶ崎――それだ」

  

「よし、せーので上げるぞ」

 決して起こさぬように、二人がかりで彼を持ち上げる。

 今まで試合で感じた緊張とはまた違った感覚。それは龍ヶ崎も多分同じであろう。

 下の布団にゆっくりと彼を下ろし、ついに本丸に辿り着いた。

「め、めくるぞ……」

「え、ええ……」

 期待と不安を指先に乗せて、マットレスに手をかけた。


「あっ! あっ! あ――」

「ばっ、馬鹿! 声が大きすぎた!」

 とっさに龍ヶ崎の口を押さえる。

 彼女が驚くのも無理は無い。マットレスの下、確かにソレは存在した。

「そ、そんな……修司さんが……」

『美少女コレクション』と題されたその本の表紙には、女の子が一人写っていた。

 ランドセルを背負った幼子――。


 心に穴が開いた気分。

 勘違いであってほしいと思っていた。だが、全てはこの本が物語っている。

「……そんな趣味があったとは――こっ、これは!?」

「どうしたのですか?」

 失意に暮れながら開いたページに思わず声を上げる。

 そこにはブレザーを着た、少し大人びた少女の姿があった。

『先輩』と大きく書かれた見出し。その構図から、先輩の女子に興奮を覚えるシチュエーションである事は明白。


「わ、私の事じゃないか!? なぁ! これ私の――」

「声が大きいですわ! ちょ、ちょっと見せなさい。次のページはどうなっていますの」

 龍ヶ崎がめくった次ページ。気品溢れる女性が、見下すように足を組んでいた。

「こっ、これは私じゃないですか!? ほら、お嬢様って書いてありますわよ!」

「お嬢様はお嬢様だが、金髪の巻き髪はまるで正反対ではないか。どれ、次は――」

 タンクトップを着た、ボーイッシュな女の子。思わず顔を見合わせ、またページをめくった。

 女医。猫耳。不良娘。外国人――。

「誰でも……いいのではないか……?」

 のんきに口を開けて眠る彼の顔を見る。何だか、凄く疲れた気がした。


「もう寝ようか――って何をしているんだお前は」

 龍ヶ崎がベッドに寝転がり、食い入るように本を見つめていた。

「いっ、いえ。後学のために少し……」

「そ、そうか。でっ、では私も少しだけ……」

 肩を並べ、二人でしばし本を見る。ページをめくる手が止まる事は無かった。

「これは――凄いな……」

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