第二十話
次に訪れたのは、カッターナイフフロアだった、ここでは手首を切った後の浴槽の血の海を見る事が出来る、体験の所だ。
受付の所でまた説明を受けた。
「ここでは、浴槽のお湯の中に手を入れていただきます。そうすると時間は大体、二十分くらいでしょうか?だんだんお湯が赤く染まっていきます。手首を切ったあとの気持ちを味わえます。」
例の如く、また一人で通された。少し大きい脱衣所を抜けて、浴槽がある風呂場に入った。
またこれも、リアルな作りだった。身体を洗う洗面台、棚にはシャンプーやリンス、ボディーソープ、等が置いてある。床に、すでに赤く染まったカッターナイフが一つ転がっていた。浴槽をみると、まだ透明なお湯がはられていた。どんな方法でこのお湯を真っ赤にするのだろう。
ここでも僕は例の如く、スマホを開いた、今度は美雪のメッセージを確認をする、通知が一番溜まっていた。
「竜ちゃんあれから元気かな?返信がないの分かってるけど、何だか連絡しちゃうんだよね、あれからスナックは順調で時間がとれるようになってきたよ、デートまたしたいなセックスすることだけが、スキンシップじゃないよね?私がいつも身体を求めてるから嫌になったんだよね?本当にごめん、あのね一緒に仕事をしている、男の人いたでしょ?覚えてる?よっちゃん、あの人にも相談したんだけど、ED治療に通うのも一つの手だよって教えてくれた。よっちゃんは私たちの良き理解者なの、だから竜ちゃんも、よっちゃんにいろいろ相談したほうが、いいと思った。また連絡するね、」
どうでもよくなった気持ちを右手にゆだねた、ゆっくりとその場にしゃがみ込み、手を湯船の中に恐る恐る入れた。暖かい、しゃがんでいた足は力が抜けてその場でお尻が付いた。心地がいい。
僕の中から、悲しみや苦しみが、このお湯が赤く染まっていくようにだんだんと溶け出していくようだった。ラブホテルのベッド眠っている美雪の横顔を思い出した。あの言葉が蘇る。
「 ごめんね、私、魅力的な女の子じゃなくて、おやすみ」
悲しみと苦しみが赤く染まり、完全にお湯の中に溶け込んだ頃、僕は心の中でつぶやいた。
「ごめんね、僕こそ男として、喜ばすことができなくて、結婚しても美雪の赤ちゃんを作ってあげられないし、いいパパになる自身もないよ、こんな僕に話をかけてくれて、ありがとう、こんな僕とデートをしてくれてありがとう。」
そんな呟きも、浴槽の中の赤に溶けていった。
「そこまでです。」
またいつの間にか、隣に白い女が立っていた。
「なんか、悲しみと苦しみ、寂しさ、虚しさが溶けていったみたいで、心地よかったです。」
僕はだんだんこの施設こそが死んだ後の楽園に感じてきていた。
「そうですか、でもその悲しみや苦しみは、貴方の中で大切にしてください。湧き出る感情は、わが子と同じなんですよ、大切に育てるんです。最初は小さくて負の感情だけども、大きく成長して生まれ変わり新しい感情になるんです。ほら貴方にもここで、産まれた感情があるはずです。」
白い女は優しい目で赤くなったお湯を見つめていた。




