第十話
美雪と待ち合わせしたのは、地元の星野駅前の大きな公園の噴水の前だった。
どこかの町みたいな、有名な待ち合わせスポットはここの町にはない、飼い主をずっと待っている犬の銅像も無ければ、銀色の大きな鈴もない、あるのは、大きな公園と、大きなショッピングモールだ、大きな公園の中の噴水はデートスポットとしては少しだけ有名だ。当時、卑屈な高校生活を送っていた僕はこのカップルが集まる公園が嫌いだった。
噴水の前に到着をした、相変わらずカップルが目立っていた。平日の昼間だというのに高校生のカップルもいる、二人でベンチに座り肩を寄せ合い見つめあっている、時おり、鼻と鼻とくっつけあい、今にもキスをしだしそうだ。あのカップルもあっち側の人間だ、僕とは別の世界で生きている。また竹内君と若い女とのセックスが頭の中で再生された。
「竜ちゃん、お待たせぇ」
美雪が来た、僕に抱きつき、そのまま、唇にキスをしてきた。
美雪の唇は薄く、キスをしても、皮膚の感触だけが、僕の唇に宿る。美雪に魅力がないわけではない、薄い唇に光るグロスはとても魅力的だし、少しふっくらした胸は、胸元が空いている際どい服にぴったりだし。ショートパンツから出ている、太ももはプリっとしてて、白く美しいと思う、だが、それでも僕の精神的な疲れの前では霞んでしまう。
「ねー今日の服装おかしくないかな?」
「そんな事ないよ、凄くきれいだよ、似合っているし、魅力的だよ、」
彼氏としてこの答えが正解なのか分からないが、美雪はその答えに満足したのか、もう一度僕にキスをしてきた、今度は深い大人のキスだ。
美雪はいつもこうだ。人前でも平気でくっついてきたり、キスをしてくる。僕は断れず、それをいつも受け止める。美雪の粘液であふれた舌が僕の口の中のプライベート空間を支配してくる。吐く息が清潔に感じるのは、昼間中島さんの酒臭いを嗅いだからかもしれない。
遠くにいる過去の高校生の僕と目が合った気がした。気まずくなり、美雪を僕からはがした。美雪の舌と僕の舌が、一つの線になり、糸を引いた、それは、長く引き延ばされ、卑屈な心がいつまでも僕の心を支配しているみたいに、いつまでも消えようとしなかった。
僕たちは公園を抜け、地元の星野町駅前から電車で、二十分くらいの大きな駅に降りた。ここの街は再開発が進み、駅周辺が急激に発達を遂げた街だった。ほんの数年前までは田んぼしかなかったこの街は、大きな有名なショッピングモールが出来、駅前周辺には女子高校生達が喜びそうなプリクラ機に特化したゲームセンタやカラオケ屋さん、よく分からないアイドルのお店、よく分からない雑貨のお店、よく分からない映えるアイスクリームのお店が立ち並んでいた。
そして街の、ど真ん中には、ここの街を象徴とする、最近生まれた、よく名前を分からないご当地キャラの銅像がドンっと立っている。
美雪はいつもよく分からないアイスクリーム屋さんのアイスを欲しがる。
「竜ちゃんアイス食べたいな、竜ちゃんも夜勤明けで疲れているでしょ?甘い物とった 方がいいよ。」
そう言われて、僕はよく分からないチョコアイスと、よく分からないバニラアイスを二つを買い、よく分からないキャラクターの絵が描かれたベンチに座り、アイスを舐める、よく分からない美雪との関係に悩み始めてる僕の舌を甘くした。でも本当によく分からないのは僕の人生だ。
僕たちの目的はショッピングモール内にある。映画館で映画を見ることだった。
平日でも映画館は人で溢れていた。美雪が大きなトレーを抱えてやってきた、そこには、三角形をした乾いたチップと四隅にトマトの香りがするソースが添えられていた。さらに大きなウインナーが挟まったチーズがたっぷりかかっているホットドックがあった。
「さっきアイス食べたばかりじゃないか?あとで、ごはんも行くんだろう?」
僕が聞いてみた。
「だって我慢できないんだもん、ほら人間の欲求って止まらないじゃない。自然現象なんだよ」
僕はその言葉聞いてゾッとした。
鑑賞した映画はドロドロとした十八歳未満の人が見れない過激な内容の映画だった。主人公は高校生二年生の女の子、彼女の心の中で眠る承認欲求と自己顕示欲と格闘とする話だった。最初は、その主人公はオシャレなお菓子やケーキ、デザート、有名な飲食店の食べ物の投稿をSNSで発信してたのだが、だんだんいいねが、欲しすぎて、自撮りをはじめ、物語の中盤は自分の心の中の怪物の声に導かれ、制服を脱ぎ裸を晒すようになる、そして、終盤には、知らない男性とのセックスを配信するようになる。映画のラストは人間界ではタブーとされている、近親相姦で幕を閉じる。
二時間の映画で、僕は途中胸やけがしてきて夜勤明けということもあり寝てしまった。記憶がなかったが、最後に見たシーンは、主人公の女の子が、全裸の上から長いコートを来て、コンビニでコンドームを買い、店員にセックスをしませんか?と誘い出すシーンだった。、女の子は満たされない欲求を何でも揃うコンビニで買いに行ってたのだ、まるで僕を日頃苦しめてくるオーナーのようだった。
映画の帰りにゆっくりしたくて、喫茶店でお茶をした、美雪は感想を求めてきた。僕は最初の一時間しか見てないので、慎重に感想を行った。
「人間の欲望って時に怖いよな、自分で制御できないもんな、最後なんてえっと、近親相姦だっけ?僕には信じられない、」
僕はそこらへんに転がっている、誰かが持っていそうな感想を拾い上げ言葉にした。
「あのね私はね、最後の主人公のお兄さんとのセックスは、この物語のコアだと思うの、」
熱心に美雪が語ってきた。
「あのね近親相姦は人間同士はタブー視されているけど、実は自然界では当たり前の事なんだよ、犬とかも発情期には、オスとメス同士、近親相姦するんだよ、だから主人公は心の中の怪物に食われて、一人の動物になってお兄さんに発情してセックスしたんだと思う。」
それにしても僕は気持ち悪いと思ってしまった。
「要するにこの作品は誰でもある、欲望という怪物を上手に飼い、食われないようにしましょうって事なのよ、そして食われた時は動物みたいに、自然界に帰ってしまう!という警鐘なんだよ、ねぇ竜ちゃんだって、自然現象に従えばきっと、、」
僕はなぜか居心地が悪くなってきた。
ちょっとトイレ行ってくると伝え席を立った、顔をバシャバシャっと洗う、美雪のさっきの話が何故か悍ましく感じたトイレの鏡で自分の顔を見た、この顔は本当に人間なのだろうか。僕は動物じゃない何かで?人間じゃない僕は人間の餌にされて、このまま死んでいくかもしれない。




