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月華の儀式と誓いの決闘

遥か昔の話となる。

突如現れた怪物により、国の防衛体制及び国民の安全が破壊された。

多くの国民は怪物に食われ、国は半壊した。

その時、一人の特殊な力を持つ者が立ち上がった。

彼は白髪の美しい髪を持っている青年。

それこそが、現在の伊集院の先祖である。

名を、伊集院葉夜杜(いじゅういんはやと)

葉夜杜は聖力を駆使して、見事国を守った。

その実力は元国王にも見初められ、彼は国の頂点に立つ存在となった。

伊集院葉夜杜は聖力を持つ者たちを集め、妖霊撲滅保安隊を設立した。

妖霊の脅威から国を守るため、そして聖力を持つ者達を守るために。

この制度は、葉夜杜の時代から現代まで受け継がれ、妖霊との戦いは絶えることなく続いている。

しかし、葉夜杜が築いたこの国の成り立ちには大きな欠点があった。

妖霊が普段はあまりいない理由。

そしてそれは、伊集院葉夜杜が愛した国民を犠牲にするというものだった。


* * *


「成程。そりゃあ、歴史の授業で話されないわけだね」

「伊集院葉夜杜の名前なら知ってたけど」


響華と櫂流は学生時代のことを思い出していた。

ちなみに二人は十九歳だ。


「それで、国の成り立ちの欠点って?」

「…………」


二人は既に察していた。

妖霊を抑え込む方法。

それはあまり良くないものだと分かっているのだ。


「沢山の聖力を持つ者を生贄にするというものだ」


魅李弥の言葉は、まるで冷たい刃のように響華と櫂流の胸を貫いた。

部屋に重い沈黙が漂い、風の音だけが静寂を僅かに破っていた。


「生贄……?」


響華が呟いた。

彼女の声には信じられないという感情と、何処か納得してしまう諦めが混ざっていた。


「それって、つまり……聖力を持つ人を殺して、妖霊を抑えるってこと?」


魅李弥は目を伏せ、静かに頷いた。

二人は絶句した。


「伊集院葉夜杜は妖霊の発生を抑える為に、ありとあらゆることを試した。しかし、どれも妖霊を抑え込むことが出来なかった。結果的に行き着いたのが生贄を捧げるという道だ。そうして伊集院葉夜杜は、高い聖力を持つ者を生贄として捧げる儀式を行った」

「…………」

「それが月華の儀式だ。満月の夜、聖力を持つ者を妖霊の発生源、異界に落すことで妖霊を抑え込んでいた。高い聖力を持つ者は簡単には喰われない。無意識に体の周りに結界を張るから」

「月華の儀式……」


響華が呟いた。

彼女の声は震えている。

その姿を酷く心配そうに見ている櫂流も、複雑な気持ちだろう。


「聖力を持つ者を異界に落として、妖霊に喰わせるって……そんな残酷な方法で国を守ってきたのか?」

「ああ。伊集院葉夜杜は国民を愛していたからこそ、こんな苦渋の選択をした。妖霊を抑える為には、他に方法が見つからなかったんだ」

「ふざけるな!そんな非道な方法で国を守ってきたってか?英雄だなんて聞いてたけど、葉夜杜って奴はただの冷血漢じゃねえか!」

「櫂流、落ち着いて」


響華が櫂流の腕にそっと手を置いた。

彼女の目は真剣に魅李弥を見つめていた。

二人ともそんな事も知らずにのうのうと生きていた自分が許せないのだろう。


「魅李弥、その月華の儀式って今も続いてるの?」


魅李弥は一瞬躊躇したが、意を決したように口を開いた。


「百年に一度行われる……」


何故百年なのか。

その答えは既に魅李弥が口にしていた。


――高い聖力を持つ者は簡単には喰われない。無意識に体の周りに結界を張るから。


魅李弥は絶対に喰われないとは言っていない。


「魅李弥、無意識に張る結界の上限は何年なの?」

「五十年」

「五十年?残りの半年間はどうなるの?」

「五十年経つと聖力が尽き、一年掛けて妖霊に喰われる。その後、妖霊は五十年間活動しなくなる。何故かは不明だ」


魅李弥の白髪が、窓から入ってくる風に靡く。

響華は驚きながらも話を聞くことをやめようとはしなかった。

しかし、櫂流は服がしわしわになりそうなくらい強く握っていた。

そして、絞り出すように言った。


「お前は……俺達だけ助けようとしたのか……?」

「櫂流……」

「そんなの聞いて、俺達がじゃあ妖霊撲滅保安隊を辞めますって言うと思ったのか?」

「…………」


櫂流は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

魅李弥は何も言わない。

櫂流はそんな魅李弥を見て、さらに逆上した。

遂には魅李弥の胸ぐらを掴んだ。


「聞いてんのか!?」

「聞いてる……」

「お前は俺達だけを生かして、俺達の同期を見捨てようとしたんだぞ!?分かってんのか!?」

「分かってる……」

「じゃあ何でだ!!」


響華は二人の様子を見ていることしか出来なかった。

櫂流が思っていることは、響華も考えていたことだからだ。


「…………他の誰かはまだ助けられるかもしれないんだ!でも、お前らはもう手遅れかもしれないんだ!」

「何の話を……」


魅李弥は辛そうな顔をした。


「お前らの聖力は高い。しかも良質。その意味が分かるか?」


二人は魅李弥の言いたいことを察した。

櫂流は掴んでいた胸ぐらを、力なく離した。

魅李弥は生贄の最有力候補の二人を助けたかっただけなのだ。


「俺は……櫂流と響華、何方であっても生贄に出す指示はしたくない……」

「…………」

「頼むから逃げてくれ……」

「逃げるって何処へ?」


響華が声を上げた。

魅李弥は俯いていた顔を上げた。

そこには、切なそうに目を細める響華の姿があった。


「私達が逃げたらどうなる?一緒に戦った人達が代わりに死ぬかもしれないんでしょ?人間もいない異界で過ごすかもしれないんでしょ?」


魅李弥は何も言わない。

助けられる保証なんて何処にもない。

そんなことは、魅李弥も櫂流も分かってる。

でも、魅李弥は自分の命令で友人を殺したくないのだ。


「魅李弥。私達は大丈夫。大丈夫だから」


響華は魅李弥を抱きしめて、そっと頭を撫でた。

それは本物の兄弟にも見え、最高の友人同士にも見えた。

魅李弥は耐えてた分の涙が出たのか、大粒の涙を流して泣き始めた。


◇◆◇


「生贄制度のこと、何処にも書いてないな……」


響華は家に帰ってから、教科書を開いていた。

何年振りかに開いたその教科書は埃を被り、所々黄ばんでいた。

櫂流は帰って直ぐに何処かへ行った。


「魅李弥はあんな重いものを抱えて生きてきたんだ……」


さっきの話が頭から離れない響華は、ただ教科書を捲ることしか出来ない自分に嫌気がさしていた。

魅李弥は一頻り泣いてから、響華達を帰した。


「ただいま」

「あ、櫂流。おかえり」

「星華滅妖剣を出せ」


帰ってきて早々に星華滅妖剣を要求する櫂流に、響華は戸惑った。

意図が分からなかったからだ。


「星華滅妖剣って、私の?櫂流の?」

「お前のだ」

「何で?刃こぼれとかはしてないよ?」

「いいから出せ」


何を言っても理由を答えようとしない上に、剣の要求を止めない。

櫂流は埒が明かないと思ったのか、星華滅妖剣を仕舞ってある箪笥の方へ歩き始めた。

響華は急いで櫂流を止める。


「何のつもり?さっきから理由も言わずに星華滅妖剣を出せなんて」


響華のその声は明らかに怒っている。

櫂流は滅多に怒らない響華を怒らせたと内心焦りつつも、目的の為に響華から星華滅妖剣を奪い取るくらいの覚悟はしていた。


「退け」

「退かない」


櫂流が睨みつけても、物怖じしなかった。

響華は急いで箪笥を開けて、仕舞っていた星華滅妖剣を取り出した。

そして、全速力で庭まで走った。

同期である櫂流を撒けるはずもない。

そんなこと響華には分かっていた。


「響華、俺はただ星華滅妖剣を渡せと頼んでいるだけだ」

「駄目だよ。知ってるでしょ?星華滅妖剣は所有者以外の人が使うと、後遺症が残る程の怪我をするって」

「分かってる」


星華滅妖剣は主人以外の者が触れる、扱うことが出来ない。

扱えたとしても、直ぐに後遺症が残る大怪我を負う。

腕が捻れて骨が粉砕したり、剣が燃えて大火傷を負ったり。

どんな怪我をするか分からないが、必ず大怪我をする。

だから、響華の部屋に置いてある櫂流と響華の星華滅妖剣はキツく、そして何重にも布が巻かれている。


「どうしてそこまでして私の星華滅妖剣を欲しがるの?自分のもあるのに」

「…………」

「……答えないってわけね。いいよ、櫂流」


響華は櫂流の星華滅妖剣を、櫂流に投げた。

櫂流は何をする気かと戸惑った。

響華は自分の星華滅妖剣に巻かれた布を剥がした。

そして、ポケットから手袋を出して櫂流に投げつけた。

そして、剣を鞘から出して、剣先を櫂流に向けた。


「構えて、櫂流。決闘しよう。私が勝ったら、星華滅妖剣を欲しがる理由を教えて」

「…………」


櫂流は決闘を受けようとしない。

ただ、自分の星華滅妖剣を握りしめているだけだ。


「あれ?逃げるの?逃げるなら白状して貰うよ?」


響華は分かっている。

櫂流が幼馴染の私と闘いたくないと言うことを。

でも、決めたのだ。

櫂流は今、碌でもないことをしようとしている。

それが何であれ、止めなければならないと。


「…………分かった。決闘に応じよう。但し俺が勝ったら、お前の星華滅妖剣を俺に渡せ」


お互いに譲らぬ想いがあり、その想いの為に闘うことを決意した二人。

仲が良いなんて関係ない。

二人の目には覚悟と決意が滲んでいた。


「おひい様!!何をされているのですか!?」


健悟が走って庭に出てきた。

使用人から報告を受けたのだろう。


「お義父様、これは櫂流との真剣勝負です。邪魔はしないで頂きたい」


響華は健悟に言った。

それだけでも覚悟がひしひしと伝わってくる。

健悟はその真剣さに負け、止めることは出来なかった。


「お義父様、お願いが御座います」

「……何でしょう」

「審判を務めて頂きたいのです」


健悟は暫く考えた。


「分かりました。お受け致しましょう」


櫂流は剣を抜き、響華に向けた。

そして、その間に健悟が立ち、準備は万端だ。


「勝負の決め手は相手を追い詰めること!手加減なしで挑むように!」


二人の顔は真剣だ。

健悟は心配そうに俯いて、覚悟を決めた。


「……試合開始!!」


その言葉と同時に、待ってましたと言わんばかりに二人は互いに飛び掛かった。

櫂流が響華に本気で斬り掛かる。

しかし、響華はそれが分かっていたかのように剣で受け止めた。

櫂流は驚いたように目を見開いた。


「昔、手合わせをした時と違うでしょ……?私は、ずっと櫂流に勝ちたくて、鍛錬を重ねてたんだよ……」


力の籠った声で櫂流に言って、響華は櫂流を吹き飛ばした。

響華の剣が櫂流の刃を弾き飛ばすと、庭に舞い上がった土埃が月明かりに照らされてキラキラと輝いた。

二人は一瞬の静寂の中で互いを見つめ、息を整えた。

響華の白髪が風に揺れ、彼女の目は決意と情熱で燃えていた。

櫂流もまた負けじと剣を握り直し、鋭い視線を響華に向けた。


「響華、お前……本気だな」


櫂流が低く呟いた。

彼の声には、驚きと同時に何処か尊敬の念が込められていた。


「当たり前でしょ、櫂流。お互いの想いを賭けて戦うんだ。負けるつもりはないよ」


響華の星華滅妖剣が月光を反射し、まるで天女の羽衣のように輝いた。

櫂流の剣もまた、妖霊を討つ力を秘めた刃が鋭い気配を放っていた。

響華が一気に間合いを詰めた。

彼女の動きは軽やかで、まるで風そのものだった。

星華滅妖剣が弧を描き、櫂流の肩を狙って振り下ろされる。

だが、櫂流も負けてはいなかった。

彼は一瞬で身を翻し、響華の剣を躱すした。

そして、直ぐに反撃に転じた。

剣先が響華の脇を掠め、彼女の着物の裾が小さく裂けた。


「速くなったな」


櫂流はどこか楽しげに笑った。


「櫂流だって昔よりずっと強くなってるじゃない」


響華も笑いながら応じ、剣を振り上げる。

二人の剣が激しくぶつかり合い、火花が散った。

庭に響く金属音が、夜の静寂を切り裂いた。

健悟は二人の戦いを見守りながら、内心で複雑な思いを抱いていた。

響華と櫂流の絆は強い。

だが、この決闘の裏には櫂流が隠している何かがある。

健悟はそれを感じ取りながらも、響華の決意を信じ、静かに見守るしかなかった。

響華は一瞬の隙を見逃さず、櫂流の剣を弾き飛ばすと、彼の懐に飛び込んだ。

彼女の剣先が櫂流の胸元に迫る。

だが、櫂流は冷静に後退し、剣を横に払って響華の攻撃を防いだ。

響華はさらに攻め立て、連続で剣を振るう。

彼女の動きは、一撃一撃に確かな力が込められていた。

櫂流は防戦一方になりながらも、必死に剣を振るい、響華の猛攻を凌いでいた。

だが、響華の聖力は彼女の剣技を更に強化していた。

響華の星華滅妖剣が放つ光は、妖霊を焼き払うかのように輝き、櫂流を圧倒しつつあった。

響華はこれで最後と言わんばかりに剣を振り下ろした。

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