表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士アンナは、それでも愛する人を守りたい 〜あなたを忘れる方法を、私は知らない〜  作者: 長岡更紗
光の剣と神の盾〜筆頭大将編 第二部 激動〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

532/534

529.離して

 トラヴァスの部屋を出たアンナは、自室に戻るため王宮の廊下を歩いていた。

 すると前から赤髪の男が歩いてくる。

 なぜか、フルーツやパンなどの食べ物を、両手いっぱいに抱えて。


「カール?」


 思わず声を掛けると、カールの肩が跳ねた。


「アンナ……!」


 驚いたような表情。いつもの笑顔が出ていない。

 その不自然さに、小首を捻りながら尋ねる。


「どうしたの? そんなにたくさん食べるつもり?」

「あ、ああ、まぁ……夜食だ、夜食」

「夜食って……」


 ふと、グレイを思い出した。軍学校時代はフードコンテナいっぱいに夜食を詰め帰っていたことを。


(カールも夜食用に持って帰ってたって、言ってたわね)


 ふっと息を吐く。呆れはしたが、夜食を食べるのは自然なことなのだろう。彼らにとっては。


「大丈夫? 運ぶの手伝いましょうか」


 一歩踏み出し、手を伸ばす。


「い、いや、いい! 大丈夫だ、問題ねぇ」


 逆にカールは一歩引き、食料を横に向けた。体で遮る形だ。

 その態度に思わず眉を寄せた瞬間、ふと血の匂いが漂ってきた。


 手が止まる。喉が引き攣る。


 それは、ティナの──あの時の血の匂い。

 脳が一瞬で暗闇に覆われ、昨夜の光景が広がった。


 足元が覚束ない。

 きっとカールの部屋は、その匂いで充満してしまっているのだ。


 ティナの胸に突き刺さったカルティカが、脳裏に否応無く映し出された。

 体が鉛のように重く、息が一気に苦しくなる。


「おい……どうしたんだよアンナ!?」


 果物がいくつも床に転がった。気づけば、カールに左肩を揺すられている。

 赤い瞳が、目の前にあった。寄せた眉が心配げに下がっている。

 もう、言わずにはいられなかった。


「昨晩の女のことだけど……」


 カールの腕がわずかに跳ねて、右手が離れていく。


「も、もういないぜ?」

「わかってる。その女が持っていた短剣が欲しいのよ」

「え? あ、あれか……あれは……」


 一瞬、間が空く。


「す、捨てた。一緒に燃やしちまったからよ」


 カールは左腕に抱えるバゲットに視線を寄せている。

 目を逸らしてバツの悪そうな彼を、責めることもできない。


「……そう」


 息が漏れた。

 形見の品さえもない。そう思うと、声を上げて泣き叫びたくなる。

 だができなかった。心配させてしまうだけだ。

 視線を沈め、カールの横をすり抜ける。


「待てよ、アンナ。どうしたんだよ。あの短剣がどうかしたのか?」


 背中にカールの声が届く。


「……なんでもないの」


 振り返らず去ろうとした瞬間。

 手首が乾いた音を立て、掴まれた。


 肌に食い込むような指先。強引に振り向かされ、視線をぶつけられる。

 燃えるような瞳から、思わず目を逸らした。


「離して」

「離さねぇよ。なんかあったろ」


 答えられない。でも肯定もしない。

 カールはしばらくそんな姿をじっと見ていたが、ひとつ息を吐いた。


「わかんねぇよ、言ってくれねぇと」

「……」


 それでも、言葉が出てこない。

 カールは一度顔を歪めたが、すぐに意思のある顔へと立ち戻る。


「わぁった。無理にとは言わねぇよ。けど、話せる時には言ってくれ」


 言葉は出ない。

 正直、そんな日が来るのかどうかはわからなかった。それでも彼の気持ちに応えて頷く。

 手は離された。空気に触れた手首が、一瞬で冷えていく。


「……なんでも言ってくれよ」


 声が耳に届く。

 これ以上心配をかけるわけにも、疑惑を向けられるわけにもいかない。


「ごめんなさい、もう大丈夫よ。少し疲れていただけ」


 無理やり笑みを作る。けれど、人の機微に聡いカールには通じないだろう。

 すぐに踵を返す。急いで足を踏み出し、逃げるように去る。


「アンナ!」


 離れた場所から、カールの声が飛んできた。その場で足が止まる。だが振り返らない。

 そんなアンナに構わず、カールは叫んだ。


「俺は筆頭大将のためなら、なんだってやれる。どんなことでも頼ってくれよ!」


 熱い言葉。胸が苦しくなるくらいの。

 しかし、今かけてほしい言葉はそんなことではなかった。

 なにも反応することなく、早足でその場を去る。


 違う……違う。

 ただ、苦しい。


 助けを求めるように行き着いた先。

 それは自室ではなく──シウリスの部屋。


 その扉をノックし名前を告げる。


「……アンナ?」


 中から漏れる、ほんの少しの驚きが混じった声。


「入れ」


 しかし直後の声は冷たく、鋭い。

 そうしてアンナは──言われるままに、自らの意志で足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
トラヴァスとカールの熱い想いを受けながら、 アンナはなぜシウリスのところへ!? 意外な展開です(・_・;
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ