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騎士アンナは、それでも愛する人を守りたい 〜あなたを忘れる方法を、私は知らない〜  作者: 長岡更紗
光の剣と神の盾〜筆頭大将編 第二部 激動〜

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507/523

504.だって、私の師匠は

 マックスの家を訪れて、数時間。

 気づけば夜はすっかり更けていた。窓の外は深い闇に包まれ、街の灯りもまばらに揺れている。

 まだここにいたい──そう思う気持ちは確かにあったが、明日も仕事だ。それに、いつまでも居座っては迷惑になる。

 胸の内で名残を押し込みながら、ルティーは静かに声を上げた。


「すみません、私、そろそろ……」

「ああ、もうこんな時間か」


 ジャンが懐中時計を取り出し、ちらりと目を落とす。その仕草ひとつにも、どこか変わらぬ癖のようなものが見えて、ルティーはわずかに目を細めた。


「泊まってけば。俺とルーシエはそうするけど」

「お前な……」


 当然のように言い放つジャンと、それに呆れた声を返すマックス。

 かつては『しょっちゅう泊りに来て迷惑だ』と嫌そうに言っていたが、今はなんだか嬉しそうに見えた。再会を喜んでいるのは、きっと彼も同じだ。

 しかし、さすがにルティーはそこまでお世話になれない。


「私は宿舎に戻ります。明日も仕事ですし……」

「では私が送りますよ、ルティー」


 隣でルーシエがすっと立ち上がる。その自然な動きにルティーも倣って立ち上がり、笑みを見せた。


「ありがとうございます、ルーシエさん」


 礼を述べてから、改めて三人へ向き直る。

 この時間がどれほど大切だったかを、きちんと伝えたい。


「マックスさん、セリカさん、突然お邪魔してしまい申し訳ありませんでした。とても楽しかったし、ご飯も美味しかったです!」


 その言葉を、マックスがセリカの耳元へ運ぶ。「美味しかった、ありがとうって」と簡潔に。

 セリカはそれを受けて、ふわりと笑みを広げた。


「私も楽しかった。来てくれてありがとう、ルティーちゃん」


 その手の中には、あの上級ポーションがずっと大切そうに握られている。そっと、優しく。

 ルティーはその光景に目を細めながら、今度はジャンへと視線を移した。


「ジャンさんも会えて嬉しかったです。まだしばらく王都におられるんですか?」


 問いかけると、ジャンはわずかに視線を落とした。


「いや……明日出ようと思う」


 あまりにもあっさりと告げられたその言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。

 ようやく会えたばかりなのに、もう別れが来る。


「アンナ様には……」

「ルティー」


 続きかけた言葉は、ルーシエにやんわりと遮られた。ルティーは小さく頷く。

 言ってはいけないことなのだと、理解して。


 アリシアを死なせてしまった気持ちは、ジャンもルティーも同じだ。

 ただ、贖罪のためにアンナの傍にいるか、アンナから離れるか。その決断が違っただけで。


「ジャンさん、お元気で。また王都に来たときには、必ず会いに来てくださいね」

「うん。約束するよ……必ず」


 再会はほんの数時間。

 それでも、彼がこうして生きている──それだけで、胸の奥は満たされた。


 ルティーはもう一度礼を言い、ルーシエと共に家を出た。

 扉が閉まると、すぐに外の冷たい空気が頬を撫でる。夜は深く、静かだった。


 夜道を歩きながら、ふと隣を見上げる。風に揺れるルーシエの長い銀髪が、淡い月明かりを受けてほのかに輝いていた。白い息を吐きながら、その姿を見つめる。


「どうしましたか、ルティー」


 穏やかな声と柔和な笑顔。その変わらなさが、どこか嬉しい。


「いいえ。ルーシエさんは相変わらずお綺麗だと思いまして」

「私はルティーがとても綺麗になったと思いますよ。十歳のあなたも可愛かったですが、もう一人前の女性ですね」

「そんな……私なんか、まだまだで……」


 言いながら、視線が自然と落ちる。思い浮かぶのは、アンナやローズの姿。強く、美しく、揺るぎない大人たち。

 自分はまだその足元にも及ばない──そう思ってしまう。


 ルーシエは歩みを緩め、そっとルティーの横顔を覗き込んだ。


「周りと比べる必要はありませんよ」


 柔らかな声音だった。

 諭すでもなく、ただ当たり前のことを告げるように。


「あなたはあなたとして、十分に積み重ねてきたでしょう」


 その言葉に、胸の奥がわずかに震える。

 顔を上げると、真っ直ぐに見つめ返されていた。その視線が、胸の奥にじんと広がる。


「ルーシエさん……」

「ルティーは頑張り屋さんですから……少々心配ではありますけれど」


 困ったように微笑みながら、ルーシエは腰を屈める。

 目線が合う高さまで降りてくるその仕草は、昔と同じだった。胸の奥が温かくなる。


「いいですか、ルティー。あなたは優秀です。それは私が保証します」


 まっすぐに告げられた言葉に、頬がわずかに緩む。


「だって、私の師匠はルーシエさんですもの」


 ルーシエは目を細め、くすりと笑う。だがすぐに、その表情は静かに引き締まった。


「しかし、私には仲間がいました。ジャン、マックス、フラッシュ──苦楽を共にし、互いに背を預け合える仲間が」


 静かに続けられた言葉は、夜の冷たい空気の中で、胸に響く。


「一人で抱え込んではいけませんよ、ルティー。信頼できる仲間を……軍の者でなくても構わないのです。信の置ける友人はいますか?」


 柔らかな問いかけに、言葉が詰まる。即答できず、小さく息を呑む。


「それは……」

「責任感が強いのは美点です。ですが、それだけではいつか折れてしまうものです」


 顔を上げられない。代わりに、ぽつりと漏らす。


「それ……トラヴァス様にも言われました。柱を作れって……」

「……そうですか。トラヴァスさんもルティーのことを気にしてくださっているんですね」


 どこか安堵したような声音。

 だから、言えなかった。


 ルティーの柱にはなれないと、きっぱり断られたことなど。


「はい。だから平気です。心配しないでくださいね」


 顔を上げ、いつものように笑みを作る。きちんとした、崩れない笑顔。

 けれど──それを見たルーシエの表情が、ほんの一瞬だけ曇った気がした。

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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
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キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
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