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騎士アンナは、それでも愛する人を守りたい 〜あなたを忘れる方法を、私は知らない〜  作者: 長岡更紗
カルティカの涙〜フィデル国の異母姉編〜

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362/511

360.お似合い、だねぇ

 昼の休憩時間、クロエが庁舎の中庭のベンチで本を読んでいると、どこからか楽しげな声が聞こえてきた。

 空は柔らかい午後の光に満ちて、石畳や木々に影を落としている。

 遠くで葉がそよぐ音と、軍庁舎特有の静けさの中に、ひときわ明るい声が響いた。


「ねぇねぇブラジェイ! たまには私が夕飯作ってあげよっか!」


 その声の主は、ティナだ。

 軍の施設に住んでいる者は、基本的に夕食も支給されるため、わざわざ自分で作る者は少ない。それでも彼女は元気いっぱいに、自分の気持ちを声にのせていた。


「いらねぇよ、腹壊しちまうだろ」

「ちょ! ひっどーい!」

「わはは!」


 大声で笑うブラジェイの背中に、ぽかぽかと手を叩くティナの姿が見えた。

 クロエは思わず本から目を離し、そちらに意識を集中させる。二人の声と仕草が、中庭の静けさに楽しげな波紋を広げる。


「あーあ、私の焼く黒パンは美味しいのになー! どっかの誰かさんは食べるチャンスを失って、大バカだよね!」

「てめぇ、先にメニュー言えや。黒パンだと?」

「そうだよ! 私がブラジェイのおばあちゃんに教えてもらった、特製黒パン! あとはやっぱり、キノコたっぷりのスパイシーシチューだよねー? あーでもブラジェイは食べないのかー! お腹壊しちゃうもんねー!!」


 ブラジェイがティナを見下ろしながら振り向く。

 視線を合わせると、ブラジェイは不敵に笑った。


「しゃーねぇな。他に被害者が出ねぇように、俺が食ってやるぜ」

「被害者って! 素直じゃないなー、もう。本当は食べたいくせに!」

「おめぇが俺に食ってほしいんだろうが」

「そうだけど……むうーー!!」


 ティナがぷくっと頬を膨らませる。

 どうにかしてブラジェイに「食べたい」と言わせたい気持ちが全面に出ていて、クロエは思わず一人でふふっと笑ってしまった。

 日常の些細なやり取りですら、微笑ましい二人だ。


「もうー、じゃあ仕方ないから、作ってあげるとするか!」


 ブラジェイが片眉を上げ、にやりと笑う。その表情はいたずらっぽくも嬉しそうで、クロエの心の奥に小さなざわめきを生む。


「おいおい、なんだその言い草はよ。誰が頼んだよ」

「頼まれた気がしたの!」

「いや、頼んでねぇ」

「頼んだでしょ! 心で!」

「心の声なんて聞こえるわきゃねぇだろうが」

「聞こえたもん。私の耳はいいって知ってるでしょ?」

「ったく妄想の激しい奴だぜ」

「くーっ、妄想だったのかぁ」

「わはは! 認めやがった!」

「いいからさっさと素直になりなさいよぉ〜っ」


 ティナが今度はブラジェイの胸ぐらをぐいっと掴み、力を込めて揺さぶった。

 だがブラジェイは微動だにせず、むしろ笑って楽しんでいる。


「ティナの料理なぁ。昔、生焼けの肉を食わされてとんでもねぇことになったからな」

「それ、子どもの頃の話でしょー!」

「わははは!」


 ティナはぷくーっと頬を膨らませ、胸ぐらから手を離し、目だけでブラジェイを見上げる。


「ふんっ。せっかくブラジェイのために焼いてあげようと思ったのに、そういうこと言うんだ」

「俺のために、ねぇ」


 ブラジェイのニヤニヤとした表情に、ティナの頬が一瞬で赤く染まる。その反応に、クロエの胸の奥でなにかがカチリとはまった気がした。


「もういい!! 知らないっ!!」

「あーわかったわかった。もういいから焼け! 焼いてくれ!」

「え? やだ」

「てめっ!」


 唐突に立場が入れ替わり、クロエは思わず肩を震わせた。

 ティナは得意げに腰に手を当て、くるりと踵を返し、わざとらしいため息をつく。


「まったく……男って素直じゃないんだから」

「おめぇが一番素直じゃねぇだろ……」

「違うもん! 私はちゃんと『作ってあげようか?』って優しく言ったでしょ!」

「へーへー、お優しいこって」


 ティナはブラジェイの腕を軽く小突く。

 ブラジェイは笑いながらそれを避けるふりをして、結局受け止めている。

 その瞬間、二人の距離と空気感が、なんとも言えない親密さで染まるのを、クロエは感じ取った。


「じゃあ……作るよ?」

「おう。お前の部屋に行きゃいいのか?」

「うん! えへ、待ってるね!」


 ティナの笑顔が輝く。ブラジェイの目が柔らかく細まるのを見た瞬間、クロエの胸がぎゅっと嫌な音を立てる。疼きと少しの切なさが入り混じった、独特な胸の感覚だった。


「じゃ、今日は私昼上がりだから、今から作ってくるね!」

「おう。火傷すんじゃねぇぞ」

「もう、そんなに鈍臭くないってば。でも焦がしても文句言わないこと!」

「最初っから焦がす気満々かよ」

「うるさい!」


 ティナは一瞬頬を膨らませるも、すぐに嬉しくてたまらないというような笑みに変え、弾むように駆けていった。

 ブラジェイは肩をすくめて笑いながら、その背中を見送っている。


「……ったく、めんどくせぇ女だぜ」


 しかしその言葉には、どこか嬉しさを含んだ響きがあった。

 クロエはそっと本を閉じ、目元に柔らかな微笑みを浮かべる。


(……お似合い、だねぇ)


 胸の奥には小さな痛みが残る。

 ほんの少しの寂しさを感じながらも、クロエは静かに笑みを湛えていた。


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