廃課金ギルドの紹介状
俺は辺境伯から幻の霊薬エリクサーを受け取った。
辺境伯はあれから上機嫌だ。
そして話題は俺のパーティーの事になった。
「そうそう、そういえばなんでもナガト殿は今パーティーを組んでおられないとか?」
「ええ、まあいろいろ事情がありまして……」
「まあナガト殿ほどの冒険者となれば、実力の釣り合う仲間がそうはいないのもやむを得ぬこと。力ある者ゆえの悩みですな! はっはっはっはっは!!」
「ははは……ま、まあそんなところですね」
「このゲオルグに是非、ナガト殿の力にならせていただきたい。この紹介状をアクトゥスの街、城門近くの路地裏の酒場にお持ちください。きっとそこでなら良い仲間たちが見つかるはずです」
路地裏の酒場……
そういえば、今日ギルドに向かう途中でルナリエが路地裏に入ろうとしていたような。
あれと、何か関係しているのだろうか。
ルナリエは俺を『あっち』の冒険者ギルドの人だと聞いて驚いていた。
これは、もしかすると……
「辺境伯、もしかしてその酒場には冒険者ギルドのような何かが?」
「お察しの通りです。一般には伏せておりますが、実はこのアクトゥスの街には火急の事態に対処できるよう、もう一つの冒険者ギルドが存在するのです。人は彼らをこう呼びます。【廃課金ギルド】と……!」
「廃課金ギルド……この街にもう一つの冒険者ギルドが!?」
この街にあるという、もう一つの冒険者ギルド。
そこでなら、また新たな仲間が見つかるだろうか……
「彼らは各地より選ばれた精鋭たち。しかしナガト殿ならそこに加わる資格は十二分にあると言っていいでしょう。もちろん、どうするかはナガト殿におまかせします。しかし、もし興味があれば訪れてみて損はないはずです」
「あ、ありがとうございます。辺境伯、俺にこんな期待をしてくれるなんて」
「はっはっは! このゲオルグ、剣は折れても気持ちは冒険者だった頃と変わりません。すべては民の命を守るため。ナガト殿、どうぞあなたの成功を祈っております。あなたのような力ある冒険者がいてくれることが、領主として何よりのことなのですから」
俺は辺境伯と握手をかわす。
廃課金ギルド、いったいどんなところだろうか……
「おっと、つい長話をしてしまった。今日は部屋も用意させましたが、ナガト殿はどうされますか?」
「せっかくですが今日はこの後、武具屋に用がありまして」
「おお、そうですか。それなら、お帰りの時は馬車を出させます。それまではどうぞごゆるりとおくつろぎくだされ」
辺境伯は俺に礼をすると、部屋から去っていった。
やれやれ、どうにかルナリエのことは気づかれずに済んだらしい。
俺は、すっかり眠ってしまったルナリエを椅子に寝かせなおした。
その後、俺はエリクサーと紹介状を手に領主の屋敷を後にした。
馬車に揺られながら、途中武具屋に立ち寄り、ブラッドフェンリルの毛皮の加工を依頼した。
今日は色々あったが、ひさしぶりに気持ちよく寝られそうだ。
そういえばあのワイン、レミー・コンティは今、思い出してみると結構美味かったような気がしてきた。
ルナリエの笑顔が、ワインの記憶と一緒によみがえる。
また、あのようなワインを飲める機会があるだろうか。
俺は心地の良い酒の感覚に浸りながら家に帰るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私はゲオルグ。
このアクトゥスの街の領主である。
今日はよい客人を迎えることができた。
彼のような才能ある冒険者がいてくれるのは、この街にとってなによりのことだろう。
すっかり静まり返った宴の部屋の前を通った時、娘ルナリエが椅子の上で眠っているのが見えた。
やれやれ、こんなところで寝てはいかん。
娘を起こそうと近づくと、空になったワインの瓶が傍にあった。
なんだ、酒を開けたのか。
私はそのワインのラベルを見た。
こ、このワインは……
「起きなさい、ルナリエ。こんなところで寝てはいけない。自分の部屋に戻って寝なさい。わかったね?」
「ふわぁ、わかったわお父様。……ねえ、お父様泣いているの? なにか悲しいことでもあった?」
「悲しいことなんて、そんなことはないさ。私はね、ルナリエ、お前が立派に育ってくれてうれしいと思っていたんだ」
「そう、ならよかったわ。じゃあ、おやすみなさいお父様」
「ああ、おやすみ。ルナリエ」
いつのまにか娘はずいぶんと成長していたらしい。
切り札は持っているだけでは意味がない。
あの子は私が思っていてずっと出来なかったことが、もう出来るのだから。
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