貴族と劣等民
ルナリエは俺の隣にぴったりと体を密着させてきた。
「おいおい、なんだか距離が近いなあ」
「さっきブラッドフェンリルに襲われたとき、すごく怖かった。こうやってナガトさんの近くにいると、とても安心するんです……」
「ふ、ふーん、ルナリエさんね。よろしく、シェリルよ。な、なんてまぶしい笑顔なのかしら。それに『アクトゥス』って……嫌な予感がするわ。わ、わたしだって大きさじゃ負けてないんだから! ひとりじめはだめよ!?」
シェリルも俺の腕に抱き着くと、その豊満なふたつのものを押し当ててきた。
「やれやれ、シェリルはさみしがり屋だね」
俺がシェリルの髪を優しくなでてやると、シェリルは気持ちよさそうに体を震わせるのだった。
まいったな、これじゃ動けないぞ。
「くそっ、あの銀髪の子だけじゃなくてシェリルちゃんまであんな奴に……」
「なんで、劣等民なのにあいつばっかり、こんなの理不尽だ……!!」
周りの奴らがすごい顔でこっちを見ているが、彼らはいったいどうしたのだろう。
やれやれ……俺は今、困っているんだがなあ。
すると、ギルドの入り口の方がなにやら騒がしい様子だった。
どうやら誰かがギルドに来たらしい。
ギルドの職員たちが慌てているのが見えた。
「……!? あ、あなた様は」
「りょ、領主様!?」
現れたのは豪華な衣装を纏う恰幅の良い男だった。
「ルナリエ……! ルナリエはここにおるか……!?」
「あっ! お父様……!」
「おお、ルナリエ! 無事でよかった。お前が一人でブラッドフェンリルの討伐に行ったと聞いて、心配しておったのだぞ!」
「無茶をしてごめんなさい、お父様。ねえ聞いて、こちらにいるナガトが私の事を助けてくれたのよ!」
「な、なんと! それはまことか!」
ルナリエの父だという男は俺に向き直ると、深々と頭を下げたのだった。
「ナガト殿、礼を申し上げる。私はアクトゥス領主、ゲオルグ・フォン・アクトゥス。娘を救っていただきこの度はなんと感謝をすればよいか」
「そんな……俺はギルドの依頼をこなしただけですよ。そんなにかしこまらないでください」
「おお……なんと謙虚な! ブラッドフェンリルのごとき強敵を破りながら、なんと器の大きなお方なのだろうか!!」
領主の声に、まわりで見ていた冒険者たちはざわざわと騒然となった。
「お、おいマジかよ!? 領主様があの劣等民に頭を下げているぞ……」
「それに、あいつがあのブラッドフェンリルを倒しただって!? ど、どうなってやがる」
まいったな。あまり目立つつもりはなかったのだが……
「お父様、ナガトは傷ついた私の前に一人でさっそうと現れて、一瞬で四体のブラッドフェンリルを倒してしまったわ。それに私の傷も【回復】の魔法で治してくれたの。ナガトは本当にすごい冒険者よ」
「な、なんということだ……! 【回復】が使えるということは、ナガト殿は治療師か? 後衛職でありながら、あの恐ろしいブラッドフェンリルを四体も打ち取るとは……!!」
「それで、ナガトになにかお礼がしたいんだけど。お父様、いいかしら?」
「おお、もちろんだとも! ついてはナガト殿。ぜひこの後、我が屋敷まで来ていただきたい。いかがですかな?」
やれやれ、大げさだな。
まあ、領主にも面子があるだろう。
ここは受けておいた方がいいだろうか。
それにしてもルナリエが、まさか領主のお嬢様だとは思わなかったな。
そして、シェリルがルナリエとなにか話しているのが見えた。
「しょうがないから今日はルナリエに譲ってあげるわ。でもこれは貸しひとつだからね」
「ええ。わかってますよ。ありがとう、シェリル」
俺はざわめくギルドを後にして、豪華な馬車に案内されるのだった。
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