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千年前の課金



 俺は領主の屋敷へと向かう馬車の中にいた。

 窓からは心地よい風が吹き込み、アクトゥスの街並みが流れていく。


 車内は広々と余裕のある作りで、ふわりと座り心地の良い椅子を備えていた。



「なあ、ルナリエが冒険者をやってるのも、やっぱり貴族だからなのか?」


「そりゃあそうよ。『貴族の務め』ってやつだわ。貴族たるもの強くあるべし。私がみんなを守らなきゃね!」


「はっはっは! 昔からルナリエは正義感の強い子でね。まあ、少し危なっかしい面もあるがね」


「んもう、お父様は一言余計だわ!」



 ヴァルナ大陸の諸都市はそれぞれ貴族たちによって治められている。


 そして貴族たちは、ガチャを回し、装備を鍛え、民を守ることをよしとする風潮が強い。


 これはこの世界の歴史と、彼ら貴族の成り立ちに大きくかかわっているのである。




 ――今から千年前。

 最も栄華を誇った偉大な帝国が、最期の時を迎えようとしていた。


 突如として湧き出した瘴気の霧。

 その中よりあらわれた魔物たちが帝国を襲ったのだ。


 強靭な魔物たちを前に従来の人間たちの武器はほとんど役に立たず、帝国の防衛網は崩壊。


 魔物たちの猛攻で、帝国の首都はついに陥落した。

 長い平和を享受していた壮麗な都は蹂躙され、街は火の中に飲まれていく。


 そこから先は悲惨の一言だった。


 分厚い瘴気の霧が太陽を覆いつくし、作物は育たず、魔物たちがそこらじゅうを闊歩する時代。

 人々はただ逃げ惑い、飢えと寒さと死の恐怖に震えるしかなかった。


 際限なく押し寄せる魔物たちの軍勢によって諸都市は次々と陥落していった。

 街にはおびただしいほどの死体の山が積まれ、川は血の色で真っ赤に染まった。


 行き場を失った人々は森の中に逃れたが、もはやそこも安全ではなかった。

 魔物たちの軍勢が殺戮を求め、地を揺らしながら迫っていたからだ。


 絶望し力なく座り込む人々。

 泣き叫ぶ子供を抱きかかえる母親。


 しかしすべての希望が絶たれたかに見えたその時、不思議なことが起こった。


 人々は、輝くものが空より落ちてくるのを見ていた。

 分厚い瘴気の霧を切り裂きながら、天空より舞い降りる一筋の光。


 光の中からあらわれたものの姿に、人々から驚きの声があがる。

 それは全体として人間の女性に似ていた。


 背には銀に輝く大いなる翼。

 その手には黄金の剣を携える。

 白金の髪が炎のようにゆらめいて夜の闇を照らしていた。


 女神カミラがその姿を人々の前に現したのである。


 女神はその翼を広げ、黄金の剣を振るう。

 すると、地を埋め尽くさんばかりに迫っていた魔物たちの軍勢は一撃のもとに粉砕され、灰となって消えたのだった。


 女神は最初の日、魔物たちを打ち倒した。

 二日目には瘴気の霧を払った。

 三日目に大いなる結界を作り上げた。


 そして、それらがすべて終わると女神は再び天空へと飛び去ったのだ。


 人々は女神に深く感謝し、祭壇を立てた。


 祭壇に供物をささげると、それらはたちまち光となって消えていく。


 代わりにそこにあったのはさまざまな装備たちだった。


 慈悲深い女神は、自身が去った後も人々が魔物と戦えるようにガチャの奇跡をもたらしたのだ。


 人々は皆、競い合うように争って供物をささげていく。


 その時、天空より女神の声が高らかに響いた。


「さあ、期間限定のピックアップ装備が出るのは今だけ。お得な10連ガチャもありますよ。強力なピックアップ装備を手に入れて、ライバルに差をつけましょう……!」



 これがガチャの始まりである。


 その後、最も廃課金だった者たちの手によって諸都市は次々と魔物たちの手から解放され、彼らは英雄となった。


 現在の貴族たちは、その英雄の子孫なのである。


 この街を治める現当主であるアクトゥス辺境伯もその例にもれず、かつては戦場で魔物たちと幾度も刃を交えた勇猛な人物だ。



 馬車の窓の向こう、小高い丘の上に立派な邸宅が見えてきた。


「ナガト殿、あれが私の屋敷です。今日は我が家名をかけて盛大におもてなしをさせていただきます。ぜひ、楽しみにしていてくだされ。がっはっはっはっは!!」




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