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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
七夜城の陰謀
89/90

捨てた願い(三)

続編です、ラストまで残り1話、よろしくお願いします。


 「止めてっ! 、お母様を殺さないでえぇぇ」


 ロゼの悲痛な叫びも虚しく。

 皇后の首は、血飛沫を上げ切り落とされる……筈だった。


 彼女を掴み、今まさに首を切り落とそうと当てられた刃だが、その剣を握っている敵兵の腕は、ブルブルと震えるのみで、首に当てた位置から動きを見せる事が無く、とまった状態を維持している。


「そんな……、手が動かないっ!」

「何をくずくずしておるっ! 、さっさと切り落とさぬかっ!」


 皇帝の怒号が、大聖堂にこだまする。

 しかし皇后の首に当てられた刃は、微動だにする事が無かった。


「はぁ?私の首を切り落とすですって?、やって貰おうじゃない!」

「き、貴様っ!」


 皇后は拘束を解かれてはいない、その皇后の口からは何時もの上品な物言いではなく、だが確かに聞き覚えの有る口調で、言葉を発していた。


「貴様っ 、皇后では無いなっ!」

「大正解っ━━━!」


 そういった後、彼女を囲んでいた兵達は、弾き飛ばされた。

 皇后には、そんな強力な魔法が有る筈は無い。

 間違い無く別人だが……。


 その正体は、彼女が姿を変えた事で判明した。


「ラクテルっ! 、貴女がどうしてここへ?」

「何時、皇后と入れ替わったんだ?」


 俺とロゼは同時に彼女へと、質問する。

 俺達だけじゃない、この場の全員がラクテルの登場に度肝を抜かれた。


「あんた達が、神殿の周りで騒いでいるスキにここへ忍び込んだわ、皇后は見付からない場所に隠してるわ、後で私が連れて帰るから安心しなさい」


 あの大して長時間でもない戦闘の間に、七夜城へと潜入して皇后を助け出し、彼女と入れ替わったと言うのか、全く呆れた早業に見事と言うしか言葉が無い。


「おのれ魔女があ、小賢しい真似を……」

 そう言い残し、皇帝は姿を消した。


「急ぎなさい、皇帝は皇王の居場所へ向かった筈よ!」

「ラクテル、御父様は何処に居るの?」

「きっと玉座の間に居るわ、まだ皇帝の腹心が居るから気を付けるのね」


 急転直下の出来事で、俺達を取り巻く状況が一変した。まさか第二の魔女ラクテルが、七夜城との戦いに参入して来るとは、想像すらしなかった。それは彼女が、俺達に対して一切介入しないと言ったからだが、時を越えて死ぬ筈だった二人を助けた事で、未来が変わった?。


 この場にラクテルの介入が無かったら、皇后は殺されていた。

 二人を助け、歴史を変えた事は間違いでは無かった。


「玉座の間は、このずっと真直ぐ行った先よ……、早く行きなさい」

「ラクテル……、有難う。歴史を変えた事は間違いじゃ無かった」

「はぁ?…、何を訳わかんない事を、ってまさかあなた達は……」


 その先の会話を交わす事無く、彼女の指差した大聖堂の奥へと駆け出した。

 途中には、敵兵が次々と襲って来たが、俺達を止めるのに雑魚では無理と言う物だ。玉座の間へと走る俺達に、波の様に押し寄せる敵の大群。


 大量の白銀矢で打ち抜かれる者、灰燼と化し燻ぶっている者、或は氷に閉ざされ衝撃波で破壊されて行く者。広く長い通路には、敵兵の無残な残骸が俺達の後ろに出来上がって行く。


 その通路の先、別の部屋が在る事を意味している入り口が見えた時。

 俺達は、強烈な波動を感じ足を止めた。


「隠れて居る者っ! 、出て来い!」

「ふっ、流石に見抜かれたか。だが、この先へは一歩も通さぬ!」

「ここは、私に任せて貰えるか?」


 アネスは、自分がこの敵に対峙すると俺達の前へ出た。

 奴の武器は剣、弓の彼女に勝算は有るのか?。


「問題無い、心配は要らん馬鹿者っ!」


 こんな時にも、馬鹿者を欠かさない彼女は……。

 しかしその顔に、自信しか見て取れない、俺はそれを信じて彼女にこの場を預ける事にした。


「玉座で待っているからな……、必ず来いよっ!」

「当然だっ! 、ユキヒト行けっ!」


 二人を迂回して、俺達は先へと進んだ。

 両手に剣を取り、二刀を構えるのが俺の視界に入った。


「愚かなエルフが……、貴様一人で我と対峙する等、自殺行為と知れっ!」

「その愚かなエルフに、貴様は一撃も入れる事は叶わぬと知るが良い」

「ほざいたなっ、小娘がぁぁ!」

 

 俺の後方で、二人の戦闘が始まった。彼女の無事を祈り、俺と六名の女達はこの先に居る皇王を救出し、皇帝を倒す為に通路を駆け抜けていった。一つの入り口を抜けた先の短い広間には、敵兵の姿は見えない。俺達は、誰にも邪魔される事なく、最期と思える扉の前へと辿り着いた。


「この先に……、御父様が居る」

「ああ、そして皇帝もこの中に居る筈だ。ロゼ、いよいよ最期だ」

「私達も居る事を、忘れないで下さいね!」


 マリネの言葉を聞きながら、俺はその扉を押し開いた。

 大聖堂の広さこそ無いが、この広間もかなりの広がりを見せている。

 その視線の行き着く奥、玉座が設置されている高みへと続く階段と、皇王とその身体を拘束している皇帝、二人の姿が見えた。


「御父様っ! 、ご無事ですか?、直ぐに助けますっ!」

 ロゼは、皇王の姿を見るなり玉座の傍へと走る。


「ローゼスよ……、この私ごと皇帝を焼き払うのだっ!」

「馬鹿な事……、そんな事が出来ましょうか!」

「両方を滅さぬ限り、この永い因縁を断ち切る事は出来ぬ、やるのだロゼっ!」


 皇王とロゼの会話を制止、皇帝ベルトーゼが口を開く。


「遂に、この場へと辿り着き居ったか……だが我が身を滅する事は不可能だっ!」

「やってみなきゃ、分からないぜっ!」

「愚かな異世界人め……、おのれの限界を知らんと見える」


 自分と一緒に、皇帝を滅し去れと皇王はロゼに言う。

 だが、父親を助けに来た彼女にそんな残酷な行為が、平気でやれる無い。彼女は今、必死に父親を助けた上で、皇帝を永久に滅し去る法方を思案しているに違いない。


 二人を焼き払う以外に、一つだけ法方は在る。

 神殺しの刀、あの刃を持って皇帝を倒すことで、永久に続くこの戦いに終止符を打つ事が出切る。だが肝心のその刀は、初日に宮殿を襲撃された時に、奴等に奪われている。皇帝の身体を観察していたが、あの刀をその身に、持っては居ない。


 奴が、誰にも渡さずに自分で管理すると、神殺しの刀を後生大事に持ち歩いている筈と、俺は予想していた。何とかスキを衝いて刀を奪い返すつもりが、それは儚くも消えた。


「どうした異世界人、我を切り裂くか?、だが皇王と共に斬らねば何度でも再生するぞ?。どうするのだ?皇女よっ!、我と共に父親を焼き払うか?」

「くう……、手が出せない……。一体どうすれば良いの?」


 戸惑い、どうする事も出来ない俺達に、皇王は再びその思いを告げてきた。

 それは、焼き払うと等しく、ロゼにとって耐えられる物ではなかった。


「異世界人よ……、頼む、私と共に皇帝を斬ってくれ、御主ならそれが可能な筈じゃ。太古の昔からこの世界に続いて来た厄災を、御主の手で止めて欲しい」

「馬鹿な事を言わないで、御父様っ!、ユキヒトそんな事、しないわよね?」


 ロゼの哀願している声が、俺の耳に響く。

 彼女のそれは、これで二度目だが今回の願いは、皇王の想いとは反する。

 どっちの願いを叶えるにしても、究極の選択に違いない。


「主殿、どうするおつもりか?」

「ユキヒトさん……辛い選択をしなければ成りません」


「マリネ……、頼む来てくれ!」

「ユキヒト様……」

「止めてユキヒトっ、変わっちゃダメよマリネっ!」

「来いっマリネっ!」

「はい……、ユキヒト様」


 マリネの身体は、桜吹雪となり俺の手の中へと剣が握られた。

 ロゼがすがり付いてくる。


「お願いよっ! 、御父様を斬らないでっ!」

「ロゼ……、これしか救う手立ては無い!」


「ほお、我と共に皇王を斬るか?、だがそれも不可能なこと」

 皇帝は、その身を皇王と共に斬られる事を避け、何処かへと転移するつもりだ。


 その前に、全てに片を付ける。

 

「ユキヒト止め…


 彼女の言葉は、俺が時間を止めた事で遮断された。

 その後、俺は剣を構え二人の傍へと飛び込み、剣を突き立て払った。


 時間停止が空けた……。


「御父様っ!……、斬られていない?」

「ぬおおおおぉ、何故わかったあっ!」


 時間を止めて、俺が切り裂いたのは皇帝の胴体だけだ。

 自分を滅する事が出来る物を、一番安全に隠すとしたら……。


「それは、自分の内に隠すよなぁ、皇帝ベルトーゼ!」

 

 両断した皇帝の胴体から、神殺しの刀がその姿を現した。

 俺は、素早くその刀身を抜き、宙に飛んだ皇帝の半身へと跳んだ。


「止めろおおおぉっ!」

「貴様は、次元の彼方へと消え失せろっ!」


 宙に飛んでいる半身を切り裂き、床へと下りると残りの半身も切り裂いた。神を滅し去る刃、それで切り裂かれた奴の身体は、黒い霧と成り次元の彼方へと消え去った。奴が再び身体を取り戻し、城へと戻る事は二度と無い。 


「御父様っ!」

「おお……、ロゼよ再びお前に触れる事が叶おうとは……」

「ロゼ様……、本当に良かったぁ!」


 感極まったマリネは、自分の事の様に嬉しさの余りに涙を浮かべた。

 彼女ほどでは無かったが、他の女性達もやはり目頭が熱くなっている様だ。


「決着が付いた様だな……」


 相手に触れさせないと豪語はしたが、全身傷だらけのアネスが立っていた。

 あの騎士相手に、死闘を繰り広げ勝利したのは、すぐに分かった。


「えっと……、感動の対面中悪いんだけど、皇帝が消えた後はこの城はどうなるのかな?。まさかと想うけど……」


 七日目を前に、皇帝は消え去った……。

 この城の主だけが先に居なくなったら、この城は七日目まで存在する?。

 俺がこの質問をした時、皇王は慌て顔を上げ話し始めた。


「む、いかん……、この城も主同様に次元の彼方へと滅するのじゃっ!」

「ちょっ御父様、それはマジ?」

「うむ……、この場に居たら私達も巻き込まれる事に成るぞ……」


「じ、冗談じゃないわっ、早く逃げましょ!」


 ロゼの言葉の後、激しい振動が俺達に襲い掛かった。

 それは、床面だけでなく、空間その物を揺らしている。


「いかん……、始まってしまった!」

「イリス…、扉を開いてっ!」

「駄目ですロゼ様、空間が揺れて……、上手く扉が開けません」

「ええっ! 、じゃどうやって逃げれば……」


 ロゼの転送魔法は、四人しか飛ぶ事が出来ない。

 全員を、連れて逃げる事は無理だった。


 七夜城へ乗り込み、皇帝を倒し皇王、皇后の二人も無事に救えはした。

 だが、その後に俺達はとんでもない窮地を迎えてしまった。


 俺達も、皇帝と七夜城と同じ運命を辿り。

 次元の彼方へと消え去るのか……?。




 

有難うございました。

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