捨てた願い(二)
続きです2/4、よろしくお願いします。
神殿の空洞内に出来た時限の扉。
その先へと進んだ俺達を待って居た物は。
「何この広さは、しかも何て綺麗な聖堂なの……」
「こんな巨大な聖堂は、何処の国も持っていない……」
「そうですね……、帝国にも、これだけ秀美な建築物は存在しません」
扉の先に在った巨大な空間、それは何処かで見た記憶が在る。中世の教会内に造られた聖堂、あの美しい装飾の建物とよく似ていた。天井高く伸びる数々の柱、その全ての物に違った造詣の装飾が施されていた。壁にも多数の窓が作られ、色鮮やかなガラスがはめ込まれている。そのステンドグラスからの光が、柱と聖堂内を更に幻想的なものに魅せている。
今にもパイプオルガンの音が流れ、その幻想的な音色が似合いそうな光景だが、俺達の耳に響いて来た物は、全く別の物だった。その声は、地の底から聞こえて来そうな重く低い、そして俺達全員の身体を凍り付かせる様に、悪寒を覚えさせる物。
「我々の建造物は、お気に召した様だな!」
巨大な柱の影から、ゾットする様な気配と共に、派手な甲冑の男と敵兵が姿を現した。嫌な気は、その集団の先頭に立ち、黒いド派手な甲冑の者からから、放出されている。
「あんたは……、誰だ?」
「我は、この城の城主にして、ボルド帝国皇帝ベルトーゼ」
「あんたが、御父様達を攫った張本人ねっ!」
「如何にも! その通りだ!」
ロゼが飛び出し、皇帝へと詰め寄ろうとするのを、取り押さえた。
「落ち着け、ロゼっ! 、不用意に近づくな」
「だってアイツが二人をっ!」
「それは分かるが、行き成り飛びついては、危険なのが分からないのか?」
ロゼが飛び出したい気持ちは、理解出来る。
御丁寧に、敵の総大将が俺達を待ち伏せていたのだ。
どう見ても、俺達が誘い込まれた事は、疑いようが無い。
「皇帝ベルトーゼっ! 、二人を返しなさいっ!」
「ふっ、威勢だけは大した物だが……、前へ連れて来いっ」
皇帝の命令を声に出すと、後ろに控えている敵兵の集団が、サァーっと二つに割れた。その最後尾から、二つの影が現れ、その中央に広がった通路を歩いて来るが見えた。
「お母様っ!」
ロゼが、大声で叫んで母を呼んだ……。
「ローゼス……、今直ぐここから逃げなさいっ!」
皇后フォーネリアは、拘束具で身動き出来ないが、ロゼに帰れと叫ぶ。
「折角罠に掛かってくれたのだ、ゆっくりして行くが良い」
俺達の周囲には、何時の間にか敵兵が取り囲んでいた。
「くっ……、何時の間に後ろにまでっ!」
「駄目です、扉も……閉じられていますっ!」
俺達が、皇帝に気を取られている内に、次元の扉を閉じられていた。これでは、皇后の進言に従って逃げようにも、簡単にこの場を離れる事は、不可能に成った。この場に現れた敵兵と、皇帝、奴らとの戦闘を余儀なくされたが、皇后を人質に連れて来られている。
迂闊な行動を、俺達は取る事が出来ない……。
「くっ、皇后様を盾に見せられては、動きようが無いぞ……」
「お母様を盾に、なんて卑怯な手を……」
「ユキヒト様、どうしたら……?」
「主殿、我が暴れよう。そのスキに一度撤退を……」
「そうはいかんぞっ!」
皇帝の声で、皇后の首へと刃が食い込んだ。
「嫌っあ、止めてえっ!、お母様っ!」
皇后の首筋に流れる鮮血、それを見たロゼは、悲鳴を上げて飛び出そうとする。俺は、彼女が皇帝の前へ出て行こうとするのを、何とか取り押えている。
「ユキヒト離してっ、お母さまがぁ……」
「大丈夫だっ、落ち着けロゼ、皇后は微かに切られただけだ」
薄らと斬られただけだが、冷静さを欠いているロゼ目には、皇后の首が飛びそうにでも見えたであろう。しかし、そう安心もしていられない、確かに今のは、微かに切られただけ。
だが、皇帝には彼女の命には、大した価値を見出して居ない筈。
皇帝に必要なのは、ハイデ城主である皇王の命、それさえあれば事を成就できるのだ。人質の皇后は、俺達の行動次第で、容赦なくその命を奪われる……。
この進退窮まった状況、その中で俺はある考えを廻らせた。
〝イリスの力で、一瞬時間を止める〟
俺達と、皇后の距離を考えると……、助け出すには少し時間が足りないかもしれない。皇帝は、こちらの力を知っているとみえる。イリスが、時間を止めていられるのは、五秒間しかない。拘束されている皇后へ、辿り着いて助け出すには、皇后を掴んでいる腕と、首に当てられている刃を離す必要が在る。
俺達を囲んでいる敵兵を越え、皇后の場所に着くのに五秒掛かる。
そのどちらも彼女から剥がし、助け出すには五秒では足りない……。
皇帝は、俺達が時間を止める事を知っている。
それ故に、今の距離から近づいては来ないのだ。
だが、時間を止める事が出切るのは、一人では無い事までは知らない筈。
俺が、確実に時間を止めれるかは、実際に使った事が無い為に、確信は無い。
しかし、それに賭けるしか手は無い……!。
イリスに視線を送ると、彼女はそれに気が付いた。
〝ユキヒトさん……私を見ている?。これは、時間を止めろと言っているの?、でも皇后様の所まで着いたら、時間は動き出す筈、それでも止めると言うの?。分かっているのにやれって事は、何か考え在っての事よね、いいわ貴方を信じます〟
俺を見詰める彼女の目は、こちらの意図を理解してくれた様だ。
俺の合図で、彼女は時を止めてくれる。
「どうした?、随分と大人しくなったではないか、もう諦めたのか?」
「誰が……、諦めるなんて言ったよ!」
「ほぉ、この状況で貴様達にまだ何かやれるとでも?」
皇帝の言葉を聞いて、兵達も薄ら笑いを上げ始めた。
皇后に当てられている敵兵の刃が、僅かに緩んだのを見逃さなかった。
聖堂の床を蹴り、俺は前へと飛び出す。
敵兵が、急いで刃を戻す直前、絶妙のタイミングでイリスは時を止めた。
聖堂の中の景色から色が失せ、一面灰色となる。
「ナイスだイリスっ!」
「はい」
囲んだ敵兵を越えて、皇后の正面に着いた。
ここで、一度時は戻る……、皇帝の不気味な声が届いた。
「馬鹿者が、辿り着くので精一杯であろうがっ」
「ああ……、分かってたよ。だけど、これは知らないだろ!」
「何っ!」
時よっ止れっ━━!
一瞬閉じた瞼を開く。
周囲は再び灰色に包まれ、俺以外全ての者は動きを止めた。
賭けに勝った……。
皇后を解放すべく、最期の一歩を踏み出す!。
その身体に触れ様と、指を伸ばした時……。
皇后に触れたと思った俺は、遥か後方へと弾き飛ばされた。
「なっ、そんな……、馬鹿な結界を張ってた……」
激しく弾かれた俺の身体は、最初に時が止った時に越えて来た敵兵を倒し、皆の居る場所まで戻されていた。
「ユキヒトっ! 、何が起きたんだ?」
アネスは、自分の足元へと転がり込んだ俺を、引き起す。
皇帝は、俺の思考を読んでいたのか……?。
「愚か者めっ……だが、良い手だ。確かに連続で時を止められるとはな」
「読んでの結界では無かったのか……」
「残念だったな異界人よ、これで万策尽きたであろう……」
俺が甘かった……。
連続で時を止めれば成功すると安易に考えてしまった。
無事に皇后を、助け出せると考えての作戦だが、結界の有無を失念した。
皇帝の言葉通り、奥の手が失敗した。
結界を確める事を忘れた為に、皇后は命を失う事に成る。
「もう良いであろう、やれっ!」
皇帝ベルトーゼは、冷酷な低い声で命を下した。
皇后に当てられた刃が、再び彼女の首へと食い込んで行く……。
止めてぇ━━━━!
ロゼの悲痛な叫びが、大聖堂を響き渡る。
有難うございました。




