希望
よろしくお願いします
次は、早めに投稿したいです。
俺が、予想していた以上の凄惨な光景。
それが三日目の状況だった。
通常の戦力に弱体している俺達には、止め処無く襲い来る適の軍勢を排除する事は出来なかった。最終的に街の中まで蹂躙され始め、ズグロが本来の姿に戻って撃退しなかったら、街は敵に占領されていた。
「どれくらいの犠牲者が出たの……?」
「騎士と衛兵は、その八割以上が……、民衆にいたっては数千の……」
ロゼに報告をしている衛兵も、満身創痍で息も絶え絶えだ。報告した後、その場に崩れ担架で運ばれて行ったが、救護所に運ばれた後に、息を引き取ったと報告された。
「次に襲撃されたら……、お終いね、応戦する戦力は失われたわ」
「ロゼ……様」
「何とか、一般人を逃がす方法を……」
俺を立ち直らせたロゼも、この一般の民衆にまで被害が及び、戦意を失いかけている。否、失ったという方のが正しい答えかもしれない。残った兵達は二十人程度、そこに俺達を入れた所で高が知れていた。
「姫様とお仲間の皆様、こちらへ……」
残った騎士団の副隊長の一人が、俺達の前へと現れ、何処かへと連れて行こうとした。元は綺麗な甲冑であったろろうが、ボロボロで見る影も無くなっている。
副長が俺達を案内した先には、数名の騎士達も待機していた。俺達が到着すると、一人が地面を探り扉を顕にした。更に、別の二人が両方の扉を開くと、地下へと続く階段が見えた。
「皇女殿下、ここから外へと退避して下さい」
いわゆる、城が攻め落とされる時に、皇族を逃がす為の避難通路だ。
「馬鹿な事を言わないで、民衆を置いて逃げれる訳無いでしょ!」
「いえ、皇王様が救助出来ない以上……、皇女殿下には生き延びて貰わねば困ります。我々、騎士と衛兵は、皆様が逃げ遂せる時間を稼ぎます」
傍に居た、別の騎士も口を開いた。
「犠牲になった民衆は、戦闘に巻き込まれた者だけです。我々が此処に居座れば、敵は民衆には目も呉れず、城跡へとやってくる筈です。犠牲は出ません!」
「民衆と皇女殿下さえ無事なら、後で首都を取り戻し国を起こせます。どうか、この場は我々に任せお逃げ下さい!」
「彼方達……、無駄死にするつもりなの?」
「副長……、逃げると言うなら私達と一緒に……」
最期に残った副長は、マリネの所属していた団の者だった様で、彼女は同行を願った。しかし彼は、首を横に振りそれを受容れなかった。
「英雄殿、皇女殿下とマリネを……」
「済まない……、俺が不甲斐無いばかりに、首都を守れなかった」
「まだ、終ってません! 、貴方方が無事であれば終わりでは無い」
「副長……、敵軍がこちらへと向かって来ます」
街の様子を見に行っていた騎士が、駆け寄って報告をした。
「殿下……、時間がありません……御無礼を!」
その場に居た騎士達は、俺達を階段の中へと押し込んで扉を閉めた。
その閉まり切る最期の光が消える前に、一言残した。
「この国を……、頼みます!」
「待ちなさい! 、扉を開けてぇ!」
ロゼは何度も扉を叩き、開こうとしたが内側には取っ手すらなく、分厚い扉はびくともしなかった。
最期に両腕で、扉に縋りロゼはすすり泣いていた。
「どうしてよ……、私を引き渡したら助かるはずなのに……」
「ロゼを、引き渡しても終るとは想えないぞ?」
「そうですね……、その場で首を刎ねられるだけでしょう……」
本来、七夜城の目的は城主である皇王を抑えることに有った。それが成就しても尚、この首都を襲ってきたのは、奪還の動きをさせない為と想われる。その軍勢が現れているドアの森を押さえない限りは、敵の襲来を終らせる事は出来ないのだ。
「此処からどこへ逃げるのよっ! 、逃げ場なんて無いわ!」
おそらくは、近隣の街や港はとっくに占拠されていると思われる。国境も封鎖されているに違いない、この国を奪った後は、再びその侵攻をする為に。
「ロゼ様、ここに居ても何も出来ません、今はこの抜け道を進みましょう」
「わ……、わかったわ。でも必ずこの国を取り戻すわ!」
「そうだ、だが今はこの場を離れよう……、そして必ず皇王と国を取り返す!」
「主殿、私が先導して進もう」
暗い抜け道を、ズグロを先頭に俺達は進み始めた。
━━ 七夜城。
王の間に、一人座している皇帝ベルトーゼ、その前に一人の男が姿を現した。
「陛下、ご報告を……」
「うむ……」
肩膝付いた男は、フードをあげて素顔を現し報告を続けた。
その顔は、女と見間違うかの美貌であった。
「首都は陥落、のこった衛兵も騎士も居りません」
「皇女と異界人は、どうなった?」
「はい、死体は見付かっておらず、もっか焼跡を捜索中に御座います」
男から、行方不明の報告を受けた皇帝は、手にした剣を激しく台座に打ち付け、声を荒げて告げた。
「皇女達は、死んでおらん! 、抜け道から逃げたのであろう! 必ず見つけ出せっ。カシュー、貴様の手で確実に息の根を止めて来い」
報告をした男の名は、カシュー。
かつて帝国で恐れられた、第四騎士団の団長であった。
「はっ! 、必ずやその首刎ねて参りましょう」
カシューは立ち上がると、王の間を後にした。
王の間に一人になったと思われたが、皇帝の後ろより別の人影が現れた。
「陛下……、カシューだけでは荷が重すぎでは?」
「案ずるな、異界人達の力は失せておる。もはや只の雑魚に過ぎぬ」
「念には念をと申しますが……」
「うむ、良かろう好きにするが良い」
「承知!」
声の主の気配が消えた後。
「ふふ、首都の陥落を伝えに行ってやるか……」
皇帝は、玉座を離れ何処かへとその姿を消した。
首都の城跡から抜け道を通り、再び日の光の下へと現れた俺達は、遠くに見える首都を眺めていたが、思わぬ出迎え者の声を聞く事になった。
「随分と情けない顔付に成ってるじゃないか」
「ラクテル……、どうしてここに?」
「庶政には、干渉しないと言ってたのに……」
確かに、世に関わらないと言ってた彼女が、俺達の前に再び姿を見せた。
呆気に取られた俺達に、ラクテルは笑いながら答えた。
「まぁ、世の中が荒れれば私としては面白いのだけど、姉様に、塔へと連れて来いと頼まれてはねぇ、私も断れなくてさ」
「ラケニスが?、一体何故?。まだ刀も出来ていない筈だが?」
「結界を破れても、今のままでは七夜城に言った処で、何も出来やしないでしょ、まぁ塔で姉様から話を聞くのね」
俺達は、次元の扉を開いて塔へ行くのを避けていた。再び干渉されて分断されるのを恐れていたからだ。何とか、船を調達しネーブルへと渡る心算でいたのだが、しかし思わぬ所でラクテルが現れた。彼女の転送魔法で、一気にラケニスの場所に移動できる事になった。
この絶望的に不利な状況を、覆す方法がラケニスには有るのか?。
どちらにしろ、俺達には選択肢は無い。
五千歳の婆さんが、俺には女神に思えて来た。
有難うございました。