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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第三章
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救出

よろしくお願いします

 

 銀髪のイリス━━。

 

 静かに意識を集中し、攫われたラミカの思念を捜し、居場所を追う。

 俺達は、逸る気持ちを抑え、彼女の言葉を待ち続けている。


 「居た、見つけました!、ロゼ様、額を……」

 ロゼはイリスの額に自分のを当てる、流れ込んでくるイリスの思念……。


 「森の奥……、古い……遺跡?、そこね……飛ぶわよ来て」

 ロゼの傍へと俺、アネス、マリネの三人が寄った。

 

 淡い光に包まれ、俺達の姿は消え目的地へと運ばれる。超、長距離は飛べないが、転送魔法の範囲内で、直ぐに追える距離に奴は姿を曝した。


 光の球体が消え俺達は眼を開けた。視界の開けた先に、真夜中の森の姿が目の前に現れた。外灯なんて気の利いた物は在りはしない、それはもう帰る事を捨てた世界、その文明の利器である。この世界で深夜の森の中と言えば、月下の明かりこそが唯一の光源だ……。それもこの場所では、木々の枝や葉で遮られ、僅かな光が射しているにすぎない。


 暗闇の森林の下り坂。

 今居る位置から見下ろすその先に、月明かりが広がる場所が見えた。


 円周を模った石群が、地面から立ち上がり規則的な並びを見せていた。

 中心には石造の台座、そしてそこにはラミカが寝かされている。


 「居た……」

 

 攫われた時に、家の中で騒ぎが起きていない処から、その時点でラミカの動きは封じられたと見える。石台に乗せられても、それは継続され彼女は動きを見せていない。


 その彼女が寝かされている横に、男が立って見下ろしている、今直ぐ何かを始めてもおかしくないが、少し様子を伺うため、俺達四人は身を伏せた。


 簡単に救出可能な手段を、俺達は今は失っている……。

 この状態で果たして、上手く救い出せるのか?。

 

 

 仮家に残った三人━━。


 「これで、ラミカさんを救出できますね、良かったぁ」

 強力な力を顕現させている四人なら、何が居ても蹴散らして助け出せる。

 そう信じての言葉であった。


 「では、我等は此処で主殿達が救出を成功させ、戻るのを待つのみ」

 この三人の中では、ズグロだけがその無双とも言える状況を、眼で見て知っている。あの圧倒的な力の前には、邪龍すら相手に成らず瞬殺された。


 例え、黒衣の者が何かを企てようと、奴が勝てる見込みは無い。

 ズグロにしても、主とそれに同行した三人を信じきっていた。


 「ただ……気に成るんですが」

 イリスは二人とは違い、何かを懸念している顔を見せている、安心して留守を預かる気で居た二人には、彼女が不安に想う理由に、見当が付かなかった。


 「主殿達の力を前にして、神以外に阻める者は存在せぬと、思うのだが?」 

 取り越し苦労だろうと感じているズグロは、彼女に対してその不安を払拭しようと、軽く笑顔を作り不安等在り得ない。と、言った風である。


 「私も、信じてますが……、攫われる瞬間に時を止め様として……、出来なかったんです、勿論、距離も在りますしあの場は無理でも、この部屋は止った筈なんです」


 「それが……止らなかった……と?」

 「はい……」


 それが彼女だけでなく、他の三人も同じ状態に陥っていたとしたら。

 「向こうの状況次第では……」

 

 イリスの力が発動しない?。それを聞いた途端にハルの顔から笑顔が消えた、顔色が蒼白となり不安に怯える表情へと変わって行くと、これまでと一変して落ち着きが無くなった。

 

 「ユキヒトさん達も……、危険です、私達もすぐ行きましょう」

 「でも、距離が……、走って行くと、とても間に合いません」


 「私に乗るが良い……、こっちの姿は……優雅さに掛け好きではないが、そうも言って居れん…… 主殿達の居場所を指示して欲しい」


 「わかりましたっ!」


 ズグロは屋外へと出ると、何時もの巨大な白龍ではなく、灰色に近い地竜へと変身した。身体を屈め二人が乗り易くして、無事乗り終えると、深夜の森へと駆け出した。

 

 



 

 森林奥の石群の付近、では……。

 攫われたラミカを救出する為の機会を窺っている。

 

 「ねえ……あいつ、黒衣の奴じゃないわね」

 俺達は救出に来たのを悟られない様に、身を伏せ隠れている、ロゼも小声で話し掛けてきた。


 「でも……私が騙されたみたいに……」

 そうだ……、鉱山都市で奴は、宰相に憑依して俺達を謀った経緯が有る、容姿が黒衣の奴でなくても、何も不思議は無い。


 しかし、何時までもこのまま指をく吼えて観ている訳にも行かない、そろそろ我慢にも限度が有る。一気に近接して彼女を奪還して離れる……?、動いた瞬間に、否、直近まで行けたとしても、瞬間に扉を開き、その中に逃げ込まれたら御仕舞いだ。


 今は、イリスが居ない、再び次元の扉を開かれて逃げられると、捜索の手段が無い。次に此の場所へ奴が戻って来るまで、待ち続けるしか無くなってしまう。


 事態は、動き出した━━。


 「くっ、何か始まってしまった」

 アネスは握っていた弓をギリギリと、握り締めた。


 男が手を上げると、ラミカの身体が両手を広げた格好で、浮き上がって止る。彼女が浮き始めてから、只の石群と想っていた物が、薄く輝きを放ち始めラミカの真上には、紅い物体が現れた。


 それが何で在るのか、俺達にはすぐに分かった。


 「破壊の女神……、ニクスの…… 思念体でしょうか?」

 「屋敷の地下で復活したのは、ニクスの思念体で……」

 「肉体に宿す為に、攫って来ていた訳かよ!」


 女神の巨大な力を受容れるのに、人ではそれに耐える事が不可能なのだろう、強靭な生命力を選ぶなら吸血鬼と言えるが、純血種はもう居ない。絶滅した吸血鬼の代替としてハーフに目を付けた、半分が人間の彼女達なら日光の弱点も無い。肉体を提供するのに最適な獲物と言える。それには能力を等しく継承し、純血種の代替に成り得る女性のみが、ターゲットにされて来た訳だ。


 「今なら奴は扉を開けない、出るぞ!」

 

 立ち上がり、儀式の際場へ俺達は、一気に駆け下りた。

 アネスは勢いを殺さずに台へ飛び乗り、ラミカの両肩を掴み下へと……。

 「駄目だ! 、固定された様に動かない、此れでは降ろせん!」


 マリネも台へと上り、二人で身体を引くがやはりびくともしない。

 「ユキヒト様……、此のままじゃ……」

 

 奴の呪縛か、ニクスの物か確める余裕は無い、ロゼは両手の炎を男へ、アネスと俺はニクスへと攻撃を放つ。黒影の男は、片手で炎を払い、紅い眼をロゼへと向けた。

 

 「何処で嗅ぎ付けて来たか……、あの屋敷で今暫らく大人しく、悲しみを抱いたままにしておればよい物を、まだ貴様らの出番では無い!」 


 「ロゼ! 、見るなぁあ」

 ニクスへの攻撃を中断して、ロゼの身体を抱きかかえ横へ転倒する、彼女は男が眼をやった時、瞬時固まっていた。転倒した後、直ぐにロゼの顔を確認し眼を見る、紅い眼が薄れ黒へと戻って来た。


 「え……私なんで抱かれ……」

 彼女は勘違いして頬を染めた、状況を忘れている。

 

 「此れは、奴に魅了された……?」

 純血種の吸血鬼は、死滅したのでは無かったか?、あの時ラミカの父親は自分が最後の一人と言った。嘘を言って欺いた?、可能性は否定出来ないがこじ付けに思える。


 「そうよ……私ね、紅い眼で見られた後、意識が無くなったわ!」

 紅い目を持ち女性を虜とする、間違い無く吸血鬼の特技だ。

 しかし……。


 「生き残りが、まだ居たのかっ!」

 「なにっ! 、生き残りだとっ!」


 ニクスに矢を放ち続けていたが、突き抜けて行くばかりで埒があかず、一旦弓を収めたアネスが叫んだ。

 

 「そこのハーフは、ニクスの受け皿にさせて貰うぞ」

 「んな事、さすわけ無いでしょ!」

 「当然だなっ! 、好き勝手に出切ると思うな、愚か者めが!」

 

 ロゼは……使おうとしている、アネスも弓を再び構えた。

 ロゼは水晶化せず、アネスの構えた弓も白銀の輝きを放たない。


 〝二人とも今は無理なんだ……〟


 「そんなっ! 、如何して?何も出ないのよ……?」

 ロゼが自分の身体に変化が現れない事に、焦りを見せ、俺を見た。

 当然何もおきている筈が無い、首を振って否定した。 


 アネスも上げた弓を下げ、嘆く……。

 「馬鹿なッ! 、私にも何も起きない! 、これは……」

 

 「ん……?、如何した?私を焼き貫くのではないのか?、ふんっ……力を無くした様だな、無くした力に気が衝きもせず、よくも大言壮語が出来たものだ、どっちが愚か者なのだ?」


 「ぐうっっ! 、己っ!」

 アネスは侮辱された、その悔しさと使え無い力に、激しく噛み締め音を鳴らし、握った両手からは刺さった爪で血を流し、歯痒いさを体現した。


 「わははは、私の邪魔すら出来んらしいな、なら黙って地に群がり、そこで見物でもして居るが良い」

 その台詞の後、背中から黒い羽を拡げ、夜空へと飛翔した。


 「さあ! 、ニクスの思念体よ、お前に肉体を提供しよう、受け取るが良い」

 ニクスの紅い思念体は、何の表情も浮べず、浮遊している身体を、ゆっくりとラミカへと近づけて行った。


 「駄目よ! 、離れなさい!」

 「くそっ! 、離れろぉ!」

 「駄目よ……止ってぇ!」 


 ロゼは今やれる最大の炎を纏って、ニクスへと放ち、アネスも俺も無駄と分かっていても、攻撃するしか思いつかない。マリネは何とかその動きを停止させようと、足止めの魔法を何度も使うが、ニクスには効果が無い。炎はニクスに何の焦げ目も付けず、矢と衝撃は虚しく夜空へ抜けて行く。


 ニクスの身体は止らない……、指先がラミカの髪に触れ……。


 「駄目やめて━━ぇ!」

 ロゼの悲痛な叫びは、深夜の森へ木霊して消えて行く……。



 グウオ━━━━━━!



 咆哮一閃、凄まじい気の流れが森を衝きぬけ、ニクスへ衝撃を浴びせた! 

 ニクスの思念体は、その衝撃の直撃を受け、ラミカから引き剥がされた。


 「ユキヒトさーん!」

 ハルの声が、後方の森からは聞こえてきた。

 「ハル……、それに、あれはイリス?」


 森の中から巨大な地竜が、背に二人を乗せ飛び出してきた。

 二人は飛び降りると、ズグロは変身を解き人の姿へ戻った。

 「良かった……主殿、間に合いました」

 

 森から放たれた物は、ズグロの龍気の咆哮の一閃。

 あれが、無かったらと思うとラミカを失う処、間一髪で助かった。


 「もしかして、力が発動しないのでは?」

 イリスは失われ事に逸早く気が付き、救援に来てくれたみたいだ。

  

 「私も、ロゼも発動しない、当然ユキヒトにもな」

 「やはり……そうですか」

 イリスは、サラトと意識を一部共有している為、それに早く気が付いた。


八名が並び揃った、本来なら此れで遅れを取る事は在り得ない。

 

 「全員が揃った処で、力を喪失している貴様らに私を止める事は不可能だ、歯痒い思いで見物する数が、四名から七に変わっただけの事……、怪我したくは無かろう、大人しく見てる事だ」


 「ああ! 、もうぉ!、何か無い?」

 

 この状態で事が推移したら、本当に奴の言うとおりに成ってしまう。

 ロゼの苛立ちは良く分かる、いやそれ以上に歯痒い思いだが、手が無い。


 「ズグロ、さっきの咆哮をもう一度、今度は奴に当てれないか?」

 「ぐっう、さっきのは龍気を、ほぼ使い切っての一撃故、暫らくは……」


 渾身の龍気であったが為、ニクスも剥がれたと言うところか、次に使える様に成るには、まだ相当な時間経過が必要なのは、ズグロの表情からも分かった。


 ハルが泣きそうな声で、俺を掴み気持ちをぶつけてくる。

 「ユキヒトさん! 、何とか成らないの?、ラミカさん取られちゃう!」

 

 「ユキヒト様……もう本当に、打つ手は無いのですか?」

 マリネの訴えに言葉が出ない、俺にはこの事態を、急転させる手段が見付からない。絶対に守って見せると、ラミカに約束した筈なのに……。


 「まだ……手は在ります」

 「本当か?、どんな方法が?」


 イリスは俺の耳元に顔を寄せ、その手段を説いた。

 その手段は、簡単だがこの場でそれは、躊躇われる勇気以上の物がいる。


 「この場で……やるのか……?」

 「冗談で申してません、戯言でもありません、いくら魅了されたとは言え、彼女はハーフです、身体の自由が利かなくても、意識は保っている可能性が高い……、ユキヒトさん……照れてないでやるしか、方法はこれしか残されていませんよ」


 「ほう……、まだ何か、やれる事が在ると言うのか?、邪魔はさせんぞ」

 身体の向きを台へと向け、降下を始めた。


 俺は、意を決してラミカへと駆け寄った。

 台上に上がり彼女を見詰て、身体を彼女へと寄せていった。


 「ごめん、此れしか手段が、残って無い……」



ありがとう御座いました。

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