蘇る力
謎を残したまま、第一部を完了しました。
読んでくださっている方々の御陰で、此処まで書き終える事が出来ました。
本当に感謝の念を現しきれません!、有難う御座いました。
ラミカ……俺は、約束を果たしに来たよ。
彼女は、両手を大きく広がりその眼は……真直ぐと遠く、先を見据える。
宙に浮く姿は、見えない十字架に吊られている……。
皆が、君を救う為に、今……戦っているんだ
奴が急降下してきた、石台の二人を狙っている。
相手は、ニクスでは無い、当られば怯み退く!。
アネスの弓が放つ矢が、月下の夜空に瞬きする間の光を見せ、夜空を走る。
ロゼの炎が、紅い道を空に描き、夜空を焼きながら標的を追尾していく。
ラミカ見えてるよね、彼女達の戦う姿
マリネは標的の動きを、その魔法で鈍らせ矢と炎が標的を捉え、焼き貫く。
「ぐがぁぁ、クソッ!」
紅き瞳で、彼女達を魅了し虜にする眼が、狙いを定め……た。
イリスの氷結はその眼を塞ぐ、回避不能の身体を矢と炎が追撃していく。
動きの鈍った標的は、眼を氷結で塞がれ炎に焼かれ、矢で貫かれ落下する。
ねぇラミカ……、君も皆と一緒に、戦かってくれないか
ズグロが戻り始めた龍気を、落下する者へと放ち、放物線を描き弾け飛ぶ。
彼女達の攻撃は、見事に奴を捉えて退かせている。
だが、純血種の吸血鬼の身体は、刹那に回復していく。
「許さんぞ! 、くそ虫がぁぁ!」
その身体は、闇の力も兼ね備えている、怒りの雄叫びは、闇の波動。
黒き羽を、夜空に再び拡げ、闇の波動を放ち始めた。
俺達だけじゃ……、勝てないよ、君も協力して欲しい
だから……、一緒に行こうラミカ!
彼女の動かない眼は、全てを見ていた。
その耳は、言葉全てを残さず聞いていた。
動かぬ身体は、皆の思いを全て受け止めていた。
紅い瞳から、一筋の涙が流れる……。
動きを失っているラミカの顔に近付き、唇を重ねた……。
反対の瞳からも、涙がこぼれ、紅い瞳は薄れ、黒い瞳を呼び覚ました。
力無く広がり、身体を支えていた腕は再び動きを見せ、足が台へと下りる。
自由を取り戻した腕は、救ってくれた男の首へと伸び、強く絡みついた。
背の高い影は、その細い影を両腕の中に、包む。
影が離れ、意思を語れる唇が開かれ、その思いを紡いでいく。
「貴方と……一緒に……、皆と共に……戦いたい」
「ラミカ……、行こう」
彼女から漆黒の粒子が飛び散った……、。
ラミカは黒き粒子と変わり、俺の背に漆黒の翼と成り姿を変える!。
「やったかっ!」
アネスがそれを視認して歓喜の声を挙げ、弓を振った。
「主殿……、お見事!」
ズグロは、自らの主へと称賛を送る。
翼へと変貌を見せたその光景を見たイリスが、そっと呟く。
「うまく……いったみたい」
「漆黒の翼……素敵だわ」
「ええ、凄く綺麗……」
ハルとマリネの口から感嘆の声が洩れ、その翼に見惚れている。
「あーもう、折角我慢してやったのよ、さっと倒してよね!」
ロゼの眼が、後で……、何が待っているか覚悟しろと言っているが。
「ああ、任せてくれ、マリネ……俺と来て」
「はい……」
マリネの返事の後は、俺の手の中に剣が現れ、奴を倒す武器と成る。
もう、奴に勝機は無くなった。
上空で舞う黒い翼を仰ぎ見て、睨む。
「さて、さっと倒さないとロゼから、こっちがやられる、行くよ」
『はい! 一緒に』
二人の言葉は重なり、俺の耳へ届いた。
軽く地を蹴ると、瞬間に奴の眼前へと届いた。
「ちっ! 、力を取り戻して翼を得たかっ!」
「ああ、そうだよ、お前に勝算なんて微塵もない、此処で因縁を絶つ!」
相手に向けられた剣は、一度水平に振りぬかれ、再び切っ先を向け構える。
剣を貫き通す前に、ラミカに言わなければ成らない。
〝ごめん……ラミカ、奴の身体は多分〟
『はい……父の身体なのですね……』
『そんな……又、死者を……許せない』
『父の身体を、眠らせて欲しい……お願い!』
〝うん……又、眠りにつかせて上げよう〟
ラミカの翼は、空間を蹴り、月を背に奴へと飛ぶ!
純血種の身体は、その接近する軌跡を逸らす。
夜空を疾駆する漆黒の翼は、回避行動を追尾して軌道を変え、追い詰める。
拡げた翼を盾に変え、純血種は一閃からその身を庇う
月下に桜色の剣閃を煌めかせ、映える剣は防御を許さない。
その剣閃は純血種の翼を貫いて、体から黒衣を衝き払った。
憑依した者が離れ、純血種の身体は地上へと落下して行く。
悪意の権化へと堕ちた黒衣の者は距離を取る。
逃がす筈も無く、更に黒衣を追い詰め、貫き、切り伏せた。
「ぐわああ!、み、み……認めんぞ、在り得ぬこんな……」
最期迄、言葉を語らせぬ一閃が、黒い衣もろ共両断した。
「がはっあ……」
短い断末魔を最後に、黒衣の者はその存在を、夜空に散らせ消滅した。
ネーブルへと渡る船上で、初めてその姿を曝してから、短く長い因縁の相手はその存在を消失した。奴の真の目的は、白日の下にとは成らなく成り、明かされる事は無くなった、代わりにその悪意その物が消えた。
二度とその姿を現す事は無い、此れ以上の、成果は無いと言える。
やっと……、安息が訪れた。
皆が待つ地上へと降りていく。
駆け寄る六名の顔も、月明かりの下で、その美貌が増している。
「終ったのね……」
ロゼが安堵の呟きをするが……。
「まだ……、終ってない、まだ残ってる……アレが」
向けられた視線は紅い思念体を、全員に思い出させる。
「アレも消さないと全てが終った事にならない!」
ニクスの紅い思念体━━。
その表情からは意思が無い様にしか見えず、只、夜空に漂っている。
「思念体で、浮遊している今が、チャンスって事ね」
手の中にはマリネの剣は、まだ握られている、強く握りなおし。
「又何処かで、肉体を見付ける前に、倒してしまう」
地を蹴りニクスの位置まで、一気に飛翔して迫る。
剣を構え、ニクスの胸へと切っ先が向けられた。
突き通す━━!。
『異界の民よ……、剣を収めよ我に戦う意思は無い……』
ニクスの声、想像とは違う、穏やかな声で俺に語りかけてきた。
『意にそぐわぬ復活を果たしたが……、何もする心算も無い、あの身体を奪おうとしたのは、紅き瞳の虜とされたから、私の意思では無い……』
思念体の表情は、相変わらず意思を伝える動きと見えないが、黒衣の様な悪意も謀ろうとする、声には想えなかった。掲げていた剣を、ゆっくりと下げた、二人が意思を確め尋ねてきた。
『ユキヒト様……如何しました?、何故、剣を』
『ニクスを倒さないと、終らないのでは……』
二人の意思確認に、俺は声を出して答えた。
「ニクスが……、何もする心算が無いと、言って来た、嘘を言う声に思えない」
『はぁ……どうぞ御好きな様に』
『後で……、寝首を掻かれても知りませんからねぇ』
「そんな事には、成らないと思うな」
確証も、証拠もないけど、ニクスの言葉に嘘が無い自信は在った。
『異界の民よ感謝する、私が此の世界に仇成す事は、もう無い』
「思念体で、此れから何処へ?」
『何処へも行くぬ、此の地で眠りに入るのみ、さらばだ異界の者よ』
ニクスはそれ以上、何も語らなかった……。
紅い思念体は、音も無く弾け……消えた。
「これで、全部……終ったな、皆の処へ戻ろう」
当然、地上に降りるとニクスが消えた理由を尋ねられる。剣を突きたてる直前に、ニクスが語りかけてきて、この世界には仇を成さないと語り、何もする心算の無い意思表示を示した事。俺はそれを信用し剣を収めた事を。
アネスは、俺を愚か者と呼びいつも通りの反応を見せた、ロゼは御人好しと呼び嘲る。ハルは、普段通りの笑顔で俺らしいと、やはり笑われた。
ズグロは、お疲れ様の一言以外は、何も言わなかった。きっと俺のやった事に、異は唱える心算の無いのは、態度を見ていたら直ぐに分かる。
そして俺に皆の前で大胆な行為を後押しさせた、張本人のイリス。
「上手く行きましたね……、凄く妬けましたけどっ!」
自分が嗾けたくせに……、女は、本当に分からない!。
気が付いたら、マリネとラミカは元の姿へと戻っていた。
「しかしねぇ、私らが居る前で……堂々と良くやれた物よねっ!」
とうとう……、ロゼからの責めが始まってしまった。
っと、肩を落としたのだが、事態はもっと酷い結果となった……。
「ほうぉ、それをお前が言うのか?、ロゼ」
アネスの言葉は……、凄く棘が在る……、何を言いたいのか?。
「へ……、なんで私に返って来るわけ?」
「皇女殿下には、御自覚が無いみたいですね、可愛いですけど」
「な、な、何?……、何を言ってるの?」
可愛いと言われた言葉に異様に反応する。
慌てるロゼにマリネは……、引導を渡した。
「皆、知ってるんですけど……、あの朝、ユキヒト様の部屋から出てきた事」
ロゼも俺も、皆の顔を見返した……。
「知ってるの……?、全部?、……みんなが?」
一同揃って頷いた……。
「きゃああああああああ」
ロゼは……、両手で顔を覆いその場に、しゃがみこんでしまった。
その姿は、実に可愛い光景でレア物の態度をロゼは、皆の前で曝した。
俺も此の場から逃げ出したい……!。
が、逃げ出した途端に、矢が飛んで来る予感に動けなかった。
その後も、女性六人から交互に顔を覗かれる。
皇女の威厳も何も消し飛び、恥かしさに涙する姿は、普通の少女に見える。
ラミカの父親の亡骸は、村に運ばれた。
已む得ず戦ったが、母親の墓の隣に埋葬される運びになる。
「母と、十数年ぶりの再会ね、父上……」
壊れた城の地下室に一人で眠るより、遥かに良い寝床になった筈。
雨降って地固まる、此処に来た目的も果たせている。
俺達は、暫らく休憩した後、首都へと戻る事を決めた。
ラミカだけは、今暫らくこの村に残りたい意思を示した為。
俺達と短い期間の同行を終えた。
首都に戻った俺達は、皇王、皇后から謁見の間に呼ばれた。
何か、褒美は要らないかとの仰せであったが……。
「本当に……、何も褒美は要らぬと?、良いのかそれで」
「はい……皇王陛下、何も要りません、欲しい物は……もう」
「ロゼ……、それで宜しいのですか?、遠慮は要りませんよ?」
皇后は優しい言葉で尋ねてきたが、彼女も答えは変わらない。
「はい、お母様……私達は、何も要りませんわ」
謁見の間を退出した後、ロゼがこっそり聞いてきた。
「ねぇ……、本当に何も要らないの?、小さな城位なら手に入るわよ?」
「そんな物を貰ってもなぁ……、居場所に困るよ」
欲しい物を聞かれた時、何時か見た夢の家が、浮かんではいた。
貰ったら……、誰かと一緒に住む事に成るのか?。
幾ら考えても、その答えは……、想像した家に誰も描けなかった。
誰かを、選ぶなんて無理だった……、何せ、俺は……。
この言葉の続きは、誰にも語れない。
宮殿を出た俺とロゼは、皆を見送りに何時もの草原へと向かっている。
アネスとハルは俺を心配して、ズーイに戻るのを留まった。一連の災いに片が付いた今、二人は戻る事を決め、地竜に騎乗して待っていた。掛けたい言葉は少なくなかったけど、握手だけで別れを告げた。
ズグロは、元居たあの氷の洞窟へ帰るらしい、あんな寒い所が良いのか?。彼女には、影で随分と助けて貰った気がする。俺達に一礼した後、白龍へ変わり草原を飛び立った、一度上空を旋回した後は、一気に加速して遠ざかって行った。
「凄いわね……、誰も乗せなかったらあんなに速いんだ!」
瞬く間に遠ざかって行く姿を見て、ロゼは驚嘆を挙げている。
イリスも、最初に対面したあの屋敷へと帰る。
「それでは私も、此れで失礼しますね」
帝国領からの専用竜車、彼女はそれで俺達から別れて移動する。
乗り込む前に、その姿がサラトと被って見えていた。
マリネ……、彼女には傍に何時も居てほしい、本気でそう思っている。
彼女の存在が、間違い無く俺をこの世界へ留まらせたのだ。
「私は……、行きたく在りません! 、ロゼ様に、又……」
「はいはい……抜け駆けしないわよ、もぅ……」
こういう会話を真横で聞いているのは、非常に恥かしい、照れて仕方ない。
「約束しましたよ……、ロゼ様」
「分かったから……、急ぎなさい遅れるわよ!」
マリネは、地竜に乗ると駆けて行ったが、何度も振り返ってきた。俺が見付かり、一件も片が付き当面の危険は去った。マリネは、常駐の従者の任を解かれ本来の騎士団に戻り、ドアの駐屯地奪還とその後の指揮を命じられ、遠征軍と合流する為に首都を離れた。
二人だけに成った草原でロゼが、話し始めた。
「皆、行っちゃったね……ちょっと寂しいかな」
無理も無い、あれだけ色んな事が短期間で起きて、皆でそれを抜けてきた。
感傷に浸る気持ちは良く分かる。
まだ……終っていない。
「ユキヒト……、此れから、如何するの?、宮殿に……残るのよね?」
ロゼは、頬を染め躊躇いがちに、俺の今後について尋ねてきた。
マリネ同様、離したくは無い……。
だけど……。
「俺は、ラケニスの塔へ行く、彼女には聞きたい事がまだ在る」
俺の言葉を聞いて彼女は、驚いて見せた。
「此処には残って……、くれないのね」
「元の世界へ帰るよりマシだろ?」
「そうよね……、永遠のお別れじゃ無いよね」
彼女は、少し気分が戻って笑顔で言った。
「マリネには、抜け駆けしないと言ったけど、此れくらい……許して」
身体を預け、唇を重ねてきた……、首に触れる彼女の腕が気持ち良い。
両腕で、優しく背中を抱き寄せる。
草原を渡る風が、心を穏やかにしてくれる……。
両腕に、彼女の温もりを実感しながら、昼なのにあの言葉が浮かぶ。
ちょっとそこ逝くお兄さん、占いは如何?…………!
そう全ては、此の言葉から始まった。
俺の危行は……まだ終らない━━━━。
此処まで読んで下さって、有難う御座いました。




