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殺人鬼

ポカンとした彩花の顔、あの頃の恋心が今鮮明に蘇る。


「救いにきた、ってどういうこと?」

走ってきた疲労と彩花との再会の喜び、何から話せばいいんだろ、何を伝えなきゃいけないんだろう。


「そうだ、彩花、今日は帰り道を変えよう。別の道から帰ろう、な?」

「なんか紅ちょっと変だよ。さっきの喧嘩の事気にしてるの?」

「そ、それもそうだけど今は俺の言うことを信じてくれ」


彩花の手を引っ張る。だけど彩花の手には逆らう力が入って、俺の手を振りほどいた。


「どうしたの!?ねぇ、変だよ、口調もいつもと違うし、一人称俺って、なんかあったんでしょ?」


そう言えばそうだった。彩花を失ったあの日から俺は変わった。

クラスの日陰者として生きていた俺、弱い俺のせいで彩花を守れなかったといつも自分を責めていた。

あの日から体を鍛え、強くなるために日々努力して、自分のことを僕なんて呼ばなくなったのは、いつからだったろう。


でも今はそんな説明をしている暇はない、一時を争う。

どうしてわかってくれないんだ。今から彩花は死んでしまう。どうすれば、どうすれば。


彩花が俺の顔色を伺っている。傘も刺さずにずぶ濡れになっていた俺の返事をただ待っていた。

だけどなんにも答えることは出来ずに、ただ立ち尽くした。


「彩花、お願い今は何も言わずに信じてよ…。」


そう言うと曇りがかっていた彩花の表情が引き締まるのがわかった。

どうやら一大事だということを察してくれたようだ。


「紅がそこまで言うならじゃあ行……」

そこまで言うと、彩花は魂が抜けたかのように、全身の力が抜けそこに崩れ落ちた。


「あ、彩花!?」

いきなり倒れた彩花のそばに駆け寄って抱き抱えた。

なんでいきなり。


「彩花!どうしたんだよ!彩花!」


必死の呼び掛けも空を切り雨の音に打ち消される。

彩花もぴくりともしない。まるで死人のように。


* * *


冥冥とした暗闇。永遠に続く暗闇。

手を伸ばしても何も無い、何も掴めない。

一帯ここはどこなんだろう。さっきまで何してたんだっけ。


記憶もなんだか曖昧。でも確かに覚えてることがひとつだけある。

大事な人を、助けに来た。

あの日命を落としてしまったあの人を、助けに来た。

あの人って、誰だろう。


ああ、思い出した。

いつもおどおどしてて物静かで。

でもみんなの見えないところで優しさを振りまいて。

思い出した。


そうして暗闇に光が差し込んだ。カーテンの隙間から漏れるようにほんの少し。


今行くよ、今、助けてあげるから。待ってて。

光量はどんどん増していって、気を失った。


* * *


「彩花!彩花!」

声をかけ続けるも一切反応を見せない。

思い切って彩花の頬にきついビンタをお見舞いした。


パチンっという音と共に彩花は目を覚ました。


「い、痛っ!なにすんのよ!」

鬼の形相で俺を睨めつける。彩花は怒らせるととっても怖いけど、今となっては懐かしい。


目の覚めた彩花はさっきとなんだか雰囲気が変わっていた。

どこか大人びたような、そんな雰囲気を纏っていた。

すると彩花が俺の顔を見て、大粒の涙をこぼし始めた。


「ご、ごめん、そんなに痛かった?彩花、ごめん。」


彩花はずっと目を擦りながらずっと泣いている。

俺のビンタとは関係なさそうな、何か別の要因があるような。


「びんたも痛かったけど、ううん、大丈夫だよ」


涙をこらえ笑顔作る。強がっているのが見え見えだ。

すると彩花はまたも表情を一変させた。


「そ、そうだ紅、ここから離れないと!」


先程までぐずっていたのに一体どうしたんだろうか。

気を失ってから後の彩花は、なんだか俺の知っている彩花とは別人のような、そんな気がした。


でもこちらとしては好都合だ。この場所から離れられればどんな理由だっていい、早く離れないと。


まさかの彩花に手を取られるハメになり、俺達は走ろうとした。


その時、人気のないこの場所に、俺と彩花とは別の、人の気配、背筋が凍るようななんだか嫌な気配を感じた。


彩花もぴくりと肩を震わせてピタリと足を止めた。

いや、動けなかった。


ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには見たこともない男が立っていた。

身長は170センチくらいだろうか、中肉中背でヒゲを荒々しく剃た跡が残っている。所々に剃り残しが見えた。


その男の手に目をやると、包丁を持っていた。

出くわしてしまった。あの日彩花を殺した殺人犯と。

出来れば相対することはしたくはなかったがここまで来たら仕方が無い。


どうせ俺はなくなる命、覚悟はできていた。

まさに、命に代えて彩花を守るんだと。


「君たちぃ〜、おじさんと遊ぼうよ。ヒヒヒ」


包丁の刃を舌で舐める。

虚ろな目に奇妙な笑い方、普通の人ではないという事はひとめでわかる。


どうせ捨てる命、最後ぐらいかっこつけさせてもらわないと。

彩花はおそらく震えているだろう、そこを俺がびしっとかっこよく、命に代えても守ってやると、大仰に叫んでやる。


大きく深呼吸をして準備を整えた。

そして男に向かって言…


「紅は私が命に代えても守る!あんたみたいな殺人鬼に紅は殺らせない!」


…………え?

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