決意そして再会
「それでは過去に戻って行う目的を明言し、スイッチを押してください」
フードの女はそういうと目の前にスイッチを差し出した。
見た目は何ら変哲のない、クイズ番組で使われていても違和感のない、ただのスイッチ。
「本当に戻れるんだろうな」
「過去に戻って行う目的を明言し、スイッチを押してください」
【はい】を選択しない限り同じことを言い続ける、なんだか昔やったゲームを思い出す。
これ以上ごねても結局同じことしか言わないだろう。
決心して、大きく深呼吸した。
「俺は、過去に戻って、救いたい。彩花を救いたい!」
高々にそう言って、叩きつけるようにスイッチを押した。
スイッチが光源となり部屋一帯を明るく照らし始めた。
あまりの光量に目も開けられない。
そうしているうちに、気を失った。
* * *
ここはどこだろう。さっきまで俺は何してたっけ。
目を開けるとそこには冥冥としたした暗闇が永遠に続く、何も無い空間だった。
寝起きたばかりで記憶が曖昧だ。
ゆっくりと記憶を整理していると、ようやく思い出した。
「カコスイッチ、押したんだったな」
暗闇の中俺の心は何ら変わりなく、冷静な思考も出来ていた。
カコスイッチ、今思えば相当な胡散臭い代物だ。こんなところで目が覚めて、俺はこれからどうすればいいんだ。
そうこう考えていると、懐かしい声が脳に響く。
「紅くんは………優し…見て……」
途切れの途切れの、なんて言ってるかはわからなかったけど、それを誰が言っているかはすぐにわかった。
「彩花!どこ?どこにいるんだ!」
俺の声も手も届かない、けど確かに近くにいるんだ。
冥冥とした暗闇に手を伸ばすもそこには何も無い。
声だけが、〇〇の声だけが聞こえてくる。
「紅には……ないよ!…私の気持…」
ああ、思い出した、〇〇と喧嘩したあの日だ。
未だ消えない後悔の念の根源となったあの日だ。
そうだ、俺は何のためにカコスイッチを使った。
救うためだ、行かなきゃ。
すると暗闇に一握りの小さな光が浮かび上がった。
これが俺に残された希望の光、命と引換に得た、希望。
手を伸ばした。今度はしっかりと届くことが出来た。
待ってて、今、行くから。
暗闇に浮かび上がった光は光量を増していき、またも俺の視界を奪った。
そうしてまた、意識を失った。
* * *
目が覚めると、冥冥たる暗闇が永遠に広がっていた。
思い出せない、さっきまで、何してたんだろう。
手を伸ばしてみるも、触れるものは何も無い。
「紅には…わから…」
声が聞こえてきた。何を言っているか聞き取ることは出来なかったけど、その声の元となる人を、俺はよく知っている。
「彩花」
そうだ、思い出した。カコスイッチを使ったんだ。
じゃあここはどこなんだろう。
ザァーザァー
雨が降ってる。ああ思い出した、彩花と喧嘩したあの日だ。
そうだ、あの日に戻るって決めたんだった。
暗闇にぽつんと光が浮かび上がった。
手を伸ばすと今度はちゃんと届いた。
温かくてとっても懐かしい。
「彩花、今行くから」
手の中でぽつんと光るそれは光量を増していき、目も開けられないほどにキラキラと輝きはじめる。
そうして俺は気を失った。
* * *
目が覚めると、降りしきる雨の中俺は傘も刺さずに突っ立っていた。
あたりを見回すと、ここがどこだか一目でわかった。
中学校の校門。でもなんでここにいるのか、よく思い出せない。
なんでだろうなんで俺はここに……。
すると霹靂の如く記憶が鮮明に蘇る。
そうだ、彩花。
近くに彩花の姿は無く喧嘩して分かれた後だと気が付いた。
「追いかけなきゃ」
記憶を辿って彩花が走り去った場所を思い出す。
ただ懸命にがむしゃらに走り続けた。遮二無二走った。
雨の日に傘も刺さずに走っている俺を色眼鏡で見ている人は沢山いたけどそんなこと気にする間もなかった。
走っていると、過去に戻ってみると、あの時の記憶が鮮明に蘇る。
彩花と喧嘩して分かれた翌朝のニュース。
放心状態で現実を受け入れられなかった当時のこと。
ニュースを思い出す。
事故現場。人気のない車道。沿道には森が生い茂っていて車や人は滅多に通らない。
あの場所めがけて走り続けた。
心臓が聞いたこともないスピードで脈打っているのがわかった。
息も上がっていたがそんなのお構い無しだ。
すると、目の前にあの事故現場、いや殺人現場が見えてきた。
本当に人気のない閑散とした場所。
そこに傘を指して歩く華奢な女の子、懐かしい背中。
ああ、本当に過去に戻ってきたんだと、実感した。
「彩花!」
その華奢な体はビクッと肩を震わせこちらに振り向いた。
驚いた顔を見て、涙が出そうになった。ほんとうに、ほんとうに…。
「こ、紅?なんでここにいるの?」
聞かれるまでもない。俺がここにいる理由。
「救いにきた」
久しぶりの投稿。
これからも更新は不定期になると思いますが更新の程はTwitterで報告しています。




