フードの女
あの日から俺は立ち止まったままだ。
ひ弱だった、情けない俺のせいで彩花は殺されてしまった。
あの日から俺は体を鍛え勉学に励み、彩花に認められるような人間になろうと必死になった。
そんなことしても、無意味だとわかっていた。
だってもう、彩花はいないのだから。
今日は放課後、他クラスの女子に呼び出された。
よくあることだ。
体育館裏というベタな場所に行くと、その子は俺に笑顔を向けた。
「紅くん来てくれたんだ、ありがとう。それで話って言うのはね…」
「告白でしょ?わかるよ。ごめんね、断らせてもらうよ。」
俺がそう言うとその子は「え?」と言ってそこに立ち尽くした。
俺は彼女に構わず体育館裏をあとにした。
いつもいつもうんざりだ。
俺は彩花以上に好きになれる相手がいなかった。
今日は近くの商店街のゲーセンに寄り道しようと思って商店街に入った。
日曜日になると人であふれる商店街も、平日は人がまばらだった。
ゲーセンの中はとてもうるさく、でもそのうるささがなんだか心地よくて好きな場所になった。
適当な格闘ゲームをしていると、後ろから肩をトントンと叩かれた。
振り返るとそこには誰ともしれない男が立っていた。
「君の名前って紅?」
「そうだけど、あんた誰?」
「外でフード被った女の人があんたを呼んでる。呼んでこいって言われたんだ。」
如何にも怪しい。外にチラっと目をやると、確かにフードを被った人が立っていた。
不気味な雰囲気を纏っていた。
「そうそう、あと一つ。あやかがどうのこうのって言ってたな」
その言葉に過剰に反応してしまった俺は男の胸ぐらをとっさにつかんだ。
「なんだと?」
「俺は言われただけだよ!」
男は必死に抵抗していたが俺の腕力に逆らうことすらできない貧弱な力だった。
俺は男を放してフードの人物の元へ向かった。
ゲーセンから出るとフードの人物は棒立ちしていて、俺の方に顔を向けると小さな声で「こっち」と言って商店街の出口へ向けて歩き出した。
怪し匂いプンプンのそいつは商店街を出てどんどん歩いて行く。
そして20分ぐらい歩いたところでそいつは止まった。
「ここ、入る」
そいつが止まったのは俺の家の前だった。
家には母さんがいて、俺が帰るといつも玄関まで迎えに来る。
このフードをどう説明すればいいものか…。
「ここ、入る」
急かすかのように言ってきて理由を考える間もなく俺は玄関を開けて家の中に入った。
するとリビングの扉が開きいつものようにお母さんが玄関まで歩いてきた。
「紅おかえり。今日は学校どうだったの」
「別にどうってことないよ、いつも通り。それと今日は客がいて…」
「あら!お客さん!だれだれ?お友達?」
母さんは何故か嬉しそうに俺に聞いてきた。俺の後ろにちょうど隠れていたフードの人を前に出させた。
「こいつ、まぁすぐ帰るらしいからお菓子とかは出さなくていいから。」
すると母さんはポカンとしていた。
「こいつって、どこにいるのよ。外で待ってるの?」
「え、いや、ここに…」
俺は驚いてフードの方を見た。フードの人は靴も脱がずにスタスタと階段を登り2階へ上がった。
状況の整理をする間もなく俺も2階へ駆け上がる。
「母さん何もない!適当に飯作っといて!」
「はーい」
フードの人は俺の部屋に入って居て、また棒立ちになっていた。
流れで家まで入れてしまったのだが大丈夫なのだろうかと今更になって心配になる。
しかしここでふと、彩花の事をこいつが知っていることを思い出した。
「おいお前、彩花のこと何か知ってるのか。」
フードの人は何も返答しない。
「答えろよ。」
少しの間が空いて、ようゆくフードの人は口を開けた。
「過去に戻りたいですか?」
「は?」
そういうと、フードの人はポケットの中から何かを取り出した。
それはクイズ番組で使われるボタンのようなもので、それを俺の前に差し出してきた。
「説明を始めます。これは『カコスイッチ』過去に戻ることが出来る手段そのものです。カコスイッチにはいくつかのルールがあります。
1つ、カコスイッチは1度のみ使用できます。
2つ、カコスイッチを使用するためには目的を提示しなければなりません。
3つ、目的を達成した場合、使用者は現在に戻り、死にます。」
「ち、ちょっと待てよ。いきなり俺の部屋まで来て何言ってるんだ?頭のおかしいヤツなのか?」
「私はおかしいことは言っていません。このルールを聞いた上であなたはこの『カコスイッチ』をご利用になられますか?」
「わ、わかった。仮にそのスイッチが過去に戻れるとして、そのようなルールが課せられてるとしよう。秘湯疑問があるんだけれど、目的を達成できない場合はどうなるんだ?」
「死よりも苦しいものが待っています。」
「そんなのデメリットしかないじゃないか。使うわけがないじゃないか。」
「本当に、よろしいのですか?」
その言葉を聞いて俺は気持ちの整理をした。
よく考えれば、俺はこの後悔から救われるかもしれない。
彩花を守れなかった弱い自分と、完全に別れることができるかもしれない。
過去に戻り、彩花を命懸けで救えば、何か変わるような気がした。
フードの人曰くすぐ死んでしまうのだけれど。
もう死んでしまった彩花にもう一度会える事が出来て、彩花の為に死にゆくことが出来る。
まだ俺は心は中学二年生の頃で止まっている。
彩花を守りたい。彩花に会いたい。
こんな怪しいものにすがってしまうほど、俺の心は疲弊していた。
「それではあなたにもう一度問います。あなたには、命を落としてでも戻りたい過去がありますか?」
「ああ、あるよ。」
更新頻度がバラバラになると思われますので、掲載する際はTwitterの方で報告させていただきます。




