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喪失

俺はそれから暫く心ここに在らずと言った感じでぼーっとしていた。

そんな俺を見兼ねてか、彩花が喋りかけてきた。



「ちょっと、つ、付き合ったんだからなんか話してよ」


さっきから彩花もずっとこんな感じで、照れてまともに俺の顔を見れないようだった。

俺も男だ、ちゃんとリードしてあげないと、と言う使命感めいたものが急に湧き上がってきた。


「それにしてもさ、なんで藤村さん僕と付き合ってくれたの?色んな男子から言い寄られてるんでしょ?」


「上っ面だけの男に私は興味が持てない。そ、その紅くんはとても優しいことを、私は知っていたから、前から、その……気になってたの。」


言い終わったあと、俺の心は上の空どころか宇宙にまで行ってしまったような、そんな気がした。

顔が熱を帯び始め、赤くなる。


「そ、そうなんだ。ありがとう。でも僕優しいことなんてしたかな?」

「私人間観察が趣味でね、人の特徴とか癖とか、見つけるのすごい好きなの。あなたを見た時、真っ直ぐでとても素直で、みんなの見えないところで水槽の掃除とか、花の水遣りとかしてたの、私ちゃんと見てたんだよ。」



皆にバレていないと思ってやっていたことが、全部彩花にはバレていた。

この時は顔には出さなかったけど結構驚いた。



今日はお互いまさかまさかの展開で対面しているのが恥ずかしすぎて辛かったから、もう帰路につくことになった。


「そ、それじゃあ、また明日」

「うん、また明日。」


別れの挨拶を終えて俺達はそれぞれの帰り道についた。

俺は歩きながら今日あったことを整理した。


人生初彼女が、あんなにも完璧な人だなんて、俺は恵まれすぎてるって思って、嬉しさが隠せなくなって、表情として現れた。


ニヤニヤしながらスキップしている俺を見て何人か気味悪がっていたが、そんなことも気にならないぐらい俺は浮かれていた。



✱ ✱ ✱



翌日、クラスに入ると普段関わらないような人たちが俺の元に一斉に集まった。


「おい、お前藤村と付き合ったってまじなの?」


どこから情報が漏れたのか、つい昨日のことなのに、その事はもう学年中に広まっていた。


「なあ、どうなんだよ?」

「ま、まぁ、昨日から付き合うことになったよ。」


すると俺の元に寄ってきていた男子連中は「まじかよ…なんで吉村なんだよ…」とか「吉村と付き合うのはオワタ」とか散々言われた。


俺は一点に集まったその人ごみを掻き分け自分の席へ着いた。

朝から大変な目に合わされた。


言わずもがなわかると思うけれど、彩花が入ってきた時も僕見たく囲まれていた。


こうして俺達が交際していることは周囲知れ渡ることになった。

堂々と付き合えるんだ、俺は幸せを感じた。



✱ ✱ ✱



俺と彩花は特に喧嘩もすることが無く、交際も半年を迎えて、紅葉の季節がやってきた。



デートも沢山した、俺が知らない彩花をいっぱい知った。

彩花が知らない俺のこともいっぱい知ってもらった。


俺たちはどんどん仲を深め、学校中が知る、仲のいいカップルになっていた。


教室にいると「仲良しの秘訣教えてくれよ」とか「喧嘩はしないの?」とか質問されることが多々あった。


別に俺自身気にかけていることは何も無かった。

ただ彩花が大好きだったから、ずっと一緒に居たいと思ったから、そうなれるように立ち振舞っていただけだ。


しかし、そんな平穏も今日を持って終わりを告げた。

今日は中間考査の結果が帰ってくる日だった。


俺も彩花も頭は悪くはなく、彩花は秀才と呼ばれる部類の人間だった。


今回も問題ないだろうと思ったけど、今回だけはそうはいかなかった。


帰りのホームルーム時にテストが返され、俺は点数を合計してみた。悪くもなく良くもなくといった結果だった。

まぁそうだろうなと思った。


次に俺は彩花のテスト結果が知りたくて彩花の元に行った。


「結果どうだった?今回もどうせいい点数なんでしょ」


彩花は何も答えず俯いたままだった。


「まさか悪い点数だったり?」


それでも彩花は何も答えず無視し続けた。俺は無視されることに憤りを覚えて、ほんの好奇心で彩花の机の上にあった答案用紙を奪って点数を見た。


どの教科も50点から60点あたりの点数で、彩花にしてはありえない点数だった。

俺もまさか彩花がこんなにひどい点数をとるとは思わなくて驚いた。


彩花は俺から答案用紙をもぎ取って、教室から逃げるように出ていった。


教室はお互いの点数を確信し合うざわめきで彩花が出ていったことに目もくれなかった。


俺は急いで彩花を追った。

その日は雨で、外はバケツの水をひっくり返したような雨だった。


そんな中彩花は傘もささずに飛び出した。

俺は全速力で彩花を追いかけ、校門の前で捕まえた。


「点数が悪かったぐらいでどうしたんだよ」

「ぐらい?私は一生懸命勉強した!今回だっていつものように自信があった!なのに、こんな点数恥ずかしくて見せられない。」

「そんな点数取ってるやつなんてざらにいるよ。だから今回は気にしないで、教室に帰ろ?」

「うるさい!紅にはわからないわ、頭が良くも悪くもない凡人に私の気持ちなんてわからない!」


俺はそう言われ、憤りを感じた。

必死の慰めが、仇となって帰ってきたことに苛立ちを抑えられなかった。


「じゃあ好きにしなよ!もう僕は知らないよ!」


声を荒らげた俺に驚いた表情を見せ、引くに引けなくなった彩花は無言で走り去っていった。


それ以上は追うことはなく、俺は教室に帰って服や髪を乾かすことにした。

これが、俺の起こしてしまった人生最大の過ちになる。



✱ ✱ ✱



教室に帰って服や髪を乾かした後、俺は傘をさして降りしきる雨の中1人ぽつんと帰路についた。

いつも一緒だった時間に1人になったとき、初めて寂しさのようなものが込み上げてきた。


「明日ちゃんと謝ろう」

俺はそう誓って家に帰った。


翌朝、いつも通りの時間に目覚めた俺は、テレビをつけて朝食を摂る。


テレビを眺めていると、ニュース番組が報道されていて、アナウンサーが殺人事件がーーと言っていた。


俺はぼんやりと眺めていたが、次の瞬間、自分の目を疑った。


「昨日未明、〇〇市内で14歳の藤村彩花さんが殺害されました。」


俺はその直後数秒間固まって身動きが取れず何も思考することが出来ない人形のようになった。

嘘と疑いたかったが、俺が住んでる市で藤村彩花で14歳となると彼女しかいなかった。


俺は、人生初の彼女を、誰かに殺されてしまった。

掲載頻度がバラバラになると思われますので、掲載予定の方はTwitterの方で報告させてもらいます。

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