人生初の彼女
こんな都市伝説をご存知だろうか。
あるスイッチを押すと、指定した過去に戻ることができる。
過去に戻るためには目的が必要となる。目的を達成すると現在に戻ってくるが、代償として命が消化する。
もしも目的を達成できないと死ぬ事よりも辛いことが待っているとか。
そのスイッチの名は
ーーー『カコスイッチ』ーーー
あなたには、命を落としてでも戻りたい過去がありますか?
✱ ✱ ✱
俺、吉村紅は、彼女が死んでから、いや、殺されてからもう、5年の月日が流れた。
あの頃からたくさんの女の子から、俺を想う思いの丈を伝えられてきたが、どれも断った。
まだ、俺の心はあの時から1歩も進んでいない。
後悔、懺悔、虚無感、喪失感。いろんな負の感情が混ざり混ざって俺の心の歩みを止めた。
なんであの時、よりによってあの日に喧嘩なんてしてしまったんだろうか。なんで、後を追いかけなかったんだろうか。
あの頃に戻れるのなら、絶対に同じ過ちは繰り返さない。
もちろん、戻る方法なんてないのだけれど。
✱ ✱ ✱
ー5年前ー
俺には小学生の時からずっと片思いしている女の子がいた。
どんな人にも優しく出来て、荘厳華麗な女の子だった。
頭も良くてスポーツも出来て。
でも俺が何よりも好きだったところは、笑顔。
彼女、藤村彩花は完璧な人間だった。
中学生になってから2年たっても、彩花には男の影は全く見えなかった。
かといって言い寄ってくる男子がいなかった訳じゃない。
彩花はその男子達の告白をことごとく断ってきたそうだ。
一部の女子連中からは、好きって感情がないからあいつはロボットだ。なんて陰口を叩かれていた事もあった。
彩花はそんなこと微塵も気にせず己の道を歩み続けた。
俺はというと、教室の隅っこで休み時間には本を読んでいるような、日の当たらない人間だった。
ある日、そんな僕にもチャンスが訪れた。
先生から、授業で集めたプリントを職員室まで持ってくるようにと2人指名された。
それが、俺と彩花だった。
僕は喜びを心の中だけに留め、平成を装いながら授業で集めたプリントの大部分を持った。
彩花の負担を減らすためにたくさん持つのは当然だと思った。
そんなことを気にもしない様子で
「それじゃ行こっか」
と言ってスタスタと歩き出した。
俺は重たいプリントを落とさないようにひょこひょこ彩花の後ろについていった。
職員室にプリントを届けた後、外は綺麗な夕焼け色に染まっていて、野球部が練習している景色が見えた。
時間は5時半を周り、学校に残っているのは部活生がほとんどだった。
彩花も早く帰りたいのか、足早に教室へと向かった。
彩花と2人の時間が今後取れる保証がなかった俺は、彩花を引き止めた。
「ふ、藤村さん、待って!」
すると彩花は少し驚いたようにピクッと方を震わせ俺の方を振り向いた。
「な、なにいきなり」
「そ、その、大事な話が、あるんだ」
俺は条件反射のように彼女を引き止めたために何を言うか、全く考えてなかった。
彩花は何も言わずにただ待っていた。
「そ、その、僕、小学生の時からずっと藤村さんのことが好きだったんだ!よ、良かったら、僕と付き合ってください!」
すると彩花は顔を真っ赤にして俺から視線をそらした。
俺も勢いとはいえすっとんきょなことを言ってしまったと、言った後で後悔する。
彩花は視線をそらしたまま何も言わずに佇んでいる。
「ご、ごめん、いきなり僕何言ってるんだろうね、はは。今のは聞かなかったことにしといていいよ…」
俺がそう言うと彩花は俺の方に振り向いた。
「聞いちゃったんだからそんなの無理よ。それと…」
彩花は深呼吸して気持ちを整えた。
「わ、私でよければ、お願いします。」
「…………え!?」
「だ、だから、私でよければお付き合いしますって言ったの!2度も言わせんなばかあほ!」
俺は彩花のこんな顔みたことがなかった。
嬉しさと恥ずかしさが混じったような、可愛らしい顔。
彩花のことをクールだと思っていた印象は今日でガラリと変わった。
そうして俺は中学2年生の春、人生で初めての彼女ができた。
2作目の連載作品となっています。
今作は掲載する頻度がバラバラになると思われますので
Twitterにて掲載予定日のほどを報告します。




