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あれから 満開の桜のそばで 〜目が見えにくいあなたとの物語〜  作者: 綾瀬 桜


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ガールズトーク

「いらっしゃい」

 インターホンを鳴らすと、美幸がにっこり笑って出迎えてくれる。

 二人で階段を上がっていく。先を行く彼女のサラサラな髪が、小刻みに揺れている。

 やっぱり、三つ編みより下ろしてる方がいいなあ。もう何度も抱いた感想を、そっと心の奥に仕舞い込む。


「なんか久しぶりだね、この部屋」

「そうかもね、いつ来たっけ?」

「んー、覚えてないなあ」

「だよねー」

 何気なく本棚を見ると、また何冊も本が増えている。

「あ。これ、もう続き出てたんだ」

 並んでいるシリーズ本に目が留まる。

「うん。貸そうか? もう読んでるから」

「ありがとう」

 美幸が丁寧に取り出した本を、私も慎重に受け取る。

「あ、飲み物持ってくるから、座っといてー」

「はーい」

 扉が閉まる音を聞いてから、一人掛け用のソファーに座る。向かいのソファーが、照明に照らされて淡く光っている。

 お客さん、よく来るのかな。

 そんなことをぼんやりと考えながら、彼女が戻ってくるのを待った。


「で? 最近どんな感じなの?」

「え?」

「彼、と」

「……」

 カップに伸ばしかけた手が、止まる。

「あれ、その話をしに来たんじゃないの?」

「そう、だけど……」

 何から。どう。それを考え始めてしまったら、何も言い出せなくなっていた。

「私、ずっと待ってた」

「え?」

「奈月が話してくれるの。やっぱり、気になるもん」

「うん……」

「でも、奈月が話したいと思うところまででいいよ」

「なんで……」

「それが、お互いの為にいいと、私は思うから」

「……美幸」

「ん?」

 カップを手に取って、レモンティーを一口飲む。

「ありがとう」

「うん」

 彼女も、カップに口をつける。

 二人ともがカップを置いてから、私は少しずつ、話し始めた。


「そっか」

 美幸が、クッキーをかじりながら、考え込んでいるような顔をする。

「……」

 私もクッキーを口に運ぶけれど、味ははっきりと分からない。

「……じれったい」

「えっ」

 かじりかけのクッキーが、手から落ちる。

「もう、押し倒しちゃえば?」

「えーっ!?」

 拾い上げたクッキーが、さっきよりも派手に転がる。

「私なら、って話ね」

 彼女の唇が、大人っぽい笑みを作る。

「でも彼、待ってくれるんでしょ?」

「うん……」

「だったら、あとは奈月次第、かな」

「そう、だよね」

 カチャ。

 向かいから、カップを置く音が小さく聞こえる。

「……よかった」

「え?」

「その人なら、奈月を任せられる」

「……っ」

「いい人に出会えたね」

「うん」

 それだけは、はっきりと頷くことができる。


「ねぇ、美幸」

「ん?」

「その……」

 彼女の視線は、とても優しくて。聞くなら、今。そう思って、手に力を込める。

「みっ、美幸は……そういうこと、するの?」

「え?」

「そのっ、おおっ! 押し倒したり……っ」

 言い切る頃には、私の頬は真っ赤に染まっていた。

「あぁ……たまに、かな」

「そっ、うっ」

「でも、大抵はさっさと押し倒されちゃうけどね」

「そそっ、そう、なんだ……」

 頭から、湯気が出始める。……でも。

「もし……嫌、な時はっ、どうするの?」

「張り倒す」

「えっ」

「あと、枕投げつけたり」

「えっ!?」

「あとねー」

「もう! 大丈夫!」

「そう? 参考になった?」

「……ならないっ」

「そっか」

 彼女が無邪気に笑う。

「大丈夫。彼ならきっと、奈月のどんな小さなサインでも気付いてくれるよ」

 彼女の言葉が。優しい笑顔が。温かい空気に溶け込んで、私の体を包んでいった。

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