過去のヒト その1
開け放った窓からは、暑さを溜め込んでいない午前の風が控えめに入ってくる。読書をするのには丁度いい気温だと、体では分かっている。
それなのに。
さっきから、ちっともページをめくれていない。
いろいろ考え時なのよ、今は。
お母さんのあの言葉が、頭から離れてくれない。
……私はどうしたいのかな。
視界に映る普段通りの景色でさえも、頭の中を整理するには刺激が強くて。ギュッと目を閉じる。
私はどうしたいの?
彼と一緒にいたい、ずっと。それはもうとっくに自覚している。
でも、就職先は県内しか考えていなくて。
……矛盾、している。
とりあえず県内で就職して。彼とは今まで通り、遠距離で付き合い続けて。
それでいい、とは思えない。
でも、このままじゃ。結果的にそうなってしまう。
……彼には、どんなふうに映るだろう。
これ以上は一人で考えられない。
知らないうちに息が上がっていて。あまりの息苦しさに、窓の方へと駆け寄る。新鮮な空気を思いっきり吸って、思考回路を断ち切る。
わっ!
突然、携帯が鳴り始める。
……彼だ。
反射的に伸ばした手を。もう片方の手が制止する。
今は……でも……
そのまま動けずにいると、携帯が音を鳴らすのを辞めてしまった。
力無く、床にへたり込む。
こんなんじゃ、駄目だ。
不安は募るばかりで。時は過ぎていくばかりで。
たとえ押しつぶされてしまうとしても、彼と一緒にいたい。
その気持ちは本物なのに。
彼と一緒に育ててきた、大切な気持ちなのに。
彼と、一緒に……育てて、きた……?
なぜか、スッと一筋。細い光が心に差し込む。
今まで一緒に育ててきたのなら。
これからだって、一緒に……
それは、甘えですか?
それは、わがままですか?
それでも。
今の私には、足りないものが多過ぎるんです。
だから……
足に全力を込めて、少しずつ立ち上がる。
机の上にある携帯に手が届く頃には、どうにか全身に力が戻っていて。
握りしめた携帯のひんやりとした感触が、私の鈍っていた感覚を完全に目覚めさせてくれた。




