夏の夜空に その3
どこに行っても人が多くて。何度も人にぶつかりそうになって、時々よろけてしまう。
「大丈夫?」
「はいっ、すみません」
「謝らなくていいよ」
彼が優しく言ってくれるけれど。その度に、頭の中にモヤがかかる。
彼の方は、危なっかしくなくサッと人を避けていて。
私のことまで気遣ってくれて。
サポートしてほしいって、言ってもらえたのに。これじゃ……
「奈月ちゃん?」
彼が、心配そうにこちらを見ている。
「疲れちゃった? 人、すごいもんね」
「いえっ! 大丈夫です」
どうにか笑顔を作る。
「……なら、いいんだけど」
彼は前に向き直る。そっと、その横顔を見つめる。
二人の間を、涼しすぎる風が吹き抜けていった。
悩んだ結果、公園の隅っこで花火が上がるのを待つことにした。お祭りの賑わいは、ここにまでしっかりと届いている。夜空では星たちが、その時を待っているかのように静かに瞬く。
「今日、晴れてよかったね」
彼が、空を見上げる。
「はい。星もよく見えますね」
「そっか」
あっ。
勢いよく空気が体内に取り込まれて、胸が押しつぶされそうになる。
「すみ……」
「大丈夫だよ」
彼が、空を見上げたまま続ける。
「花火はちゃんと見えるから」
彼の声が、私の言葉も吸い込んで空へと溶け込む。
「星、いっぱい出てる?」
「……はい、ものすごく」
「そっか。あ、そうだ」
彼がこちらを見る。
「子どもの頃、星座の物語が好きでさ。勝手に新しい星座を作ったりしてたよ、僕」
彼が穏やかに笑う。
「……どんな星座ですか?」
「内緒。恥ずかしいから」
「えーっ、気になるじゃないですか」
「じゃあ、今君が作ったら、僕のも教えてあげる」
「そんなの、急に無理ですよっ」
「そう?」
彼がクスクスと笑う。
空を見上げると、不思議と、星たちが繋がって。見たことのない星座の形を作り上げていく。
バンッ。
「あっ!!」
「始まったね」
彼も空を見上げる。
「綺麗……」
「うん」
次々と、花火が夜空に舞う。
「……時々」
大きな音と振動が響き渡る中、微かに耳に届く彼の声。
「不安、に、なる」
その声は、不安定に揺れていて。
「……押しつぶされないで、ほしい」
花火の音で、あっという間に掻き消される。
何を、言えばいいのだろう。
何が、言えるだろう。今の私に。
言葉が見つからなくて、キュッと口を結ぶ。
たとえ、押しつぶされてしまうとしても。
それでも、あなたと一緒にいたいです。
それじゃ、駄目ですか?
……そう、言えたらいいのに。
いっそ、思いっきり叫んで。
花火と一緒に消え去ってしまえばいいのかもしれない。
結局、何も言えない私は。ただ、ひたすらに。
花火が打ち上げられる度に照らし出される彼の横顔を。じっと、目に焼き付けた。




