彼の気持ちと私の気持ち その3
「あのっ」
食後のデザートを運んでくれたマスターを引き留める。
「ありがとうございます。お盆の話、河野さんから聞きました」
「お、やっと話したか」
マスターがパッと笑顔を見せる。
「奈月ちゃんに礼を言ってもらえるなんて嬉しいな。でも、それを言うのは圭太郎くんだろう」
言いながら、マスターが彼をチラリと見る。
「僕だって、もう散々言っただろ」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
「まぁとにかく。せっかくなんだから、二人でうんと遊んでおいで。どこも混んでるだろうけど」
「ありがとうございますっ」
「奈月ちゃん、そんなにありがたく思わなくてもいいって」
「おいおい、なんで君が言うんだい? 僕の台詞だろう」
「マスターは言わないと思ったから」
「一体、僕はどんな人間だと思われてるんだ」
マスターがおおげさに肩をすくめる。
「……ありがたいとは思ってるから。お盆の間、よろしく」
「はいよ」
今度はニッと歯を見せて笑う。
「おっと、アイスが溶けちゃうよ。ごゆっくり」
そう言って、ひらひらと手を振って去っていく。
「……マスターって、風みたい」
気付いたら、勝手に言葉がこぼれていた。
「どうして?」
彼がバニラアイスを口に運びながら尋ねる。
「……」
少し溶けてしまっているアイスが、彼の口の中へと消えていく。唇が、ツヤッと光っている。
「奈月ちゃん?」
「はいっ! えっと……」
慌てて視線を逸らす。
「掴みどころがないというか。あっという間に向きが変わるというか」
「たしかに。でも僕は、雲みたいだなとも思う」
「どうしてですか?」
「太陽を隠して雨を降らすこともあれば、ものすごく晴れ渡らせることもあって。空の表情を自由自在に変える感じが似てるかな。あと、動きが読めない時がある」
「なるほど……」
「困る時もあるけど、欠かせない存在。それも雲と同じかな」
彼が穏やかに笑う。
……いいなあ。
「あの……」
「ん?」
私は?
私は、あなたにとってどんな存在ですか?
例えるなら、何ですか?
「いえ、なんでもないです」
知りたい気持ちが勢いよく押し寄せてきたけれど、それ以上の勢いで、不安の波が私の心を呑み込んだ。
「そろそろ、行こうか」
「はい」
言えなかった言葉を空に逃がして、心の中を空っぽにしたかった。
空にかかった雲が、太陽を中途半端に隠していた。




