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あれから 満開の桜のそばで 〜目が見えにくいあなたとの物語〜  作者: 綾瀬 桜


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彼の気持ちと私の気持ち その1


 もうすっかり日が暮れてしまっている。夜風がやんわりと虫の鳴き声を運んでくるだけの、静かな空間。私は一人、ずっと一つの答えを出せずにいる。

 彼を、花火に誘うかどうか。

 明日、久しぶりに行くあの喫茶店で。誘うかどうか。

 ……決められない。

 あまりの決断力の無さに、何度も溜め息がこぼれてしまう。


 わがまま、だよね?

 マグネットのクラゲに尋ねてみても、答えてくれるわけもなく。また目を閉じて、思考の海へと沈んでいく。


 夏の思い出といえば、花火。そんな単純な話ではない。花火大会になら今までに何度か行ったことはある。でも。

 ……彼と、行きたい。恋人として。二人で。


 いつから、私はこんなに欲張りになってしまったのだろう。

 いつから、彼のことを考える毎日を過ごしているのだろう。

 また、困らせてしまうかもしれないのに。


 一人で立ち止まらないようにするって、約束したのに。それでも。

 やっぱり、私という人間はすぐには変われない。


 夜に出歩くのは、不安ですか?

 花火を見たことはありますか?

 ……光や色は、どのくらい見えますか?


 尋ねるチャンスはいっぱいあったのに。

 彼ならきっと、ちゃんと答えてくれたはずなのに。

 でも。

 目のことを、どこまで踏み込んでいいのか、分からない。

 結局、また同じ所に行き着いてしまう。


 普段の彼は凛とした美しさで歩いていて。食事の時も困っている様子は見られない。文字だって、私なんかよりずっと丁寧に書いている。だけど、それは彼がものすごく努力しているからで。本当は……

 彼の繊細な心は、傷付いているんだ。

 前にほんの少しだけ見せてくれた弱さを。

 私は、どう受け止めればいいのだろう。


 気付いたら、机に預けていた腕が涙でぐしょぐしょになっていた。


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