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あれから 満開の桜のそばで 〜目が見えにくいあなたとの物語〜  作者: 綾瀬 桜


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作戦会議 その4

「あのっ、準備って、何すればいいんですか?」

「んー、そうだね……お母さんに、言いたくないこととか、ある?」

「言いたくないこと?」

「たとえば、二人の馴れ初め、とか」

「えっ」

「これは、定番だと思うよ。言いたくなかったら、言わないようにするし」

「だだっ、大丈夫です。別に、隠すことでもっ、ないし……」

 言いながら、頬が赤くなる。

「あと、お互いの好きな所とか」

「えっ!?」

「僕はまぁ、いろいろ言えるけど。君は、なんて言ってくれるのかな?」

「……っ」

 頭が、真っ白になる。


「まぁでも、君は普段通りでいいと思うよ」

 彼が、優しく語りかけるように続ける。

「僕は、君が何を言ったって大丈夫だから。それに、相手は自分のお母さんなんだし。あれこれ考えずに、その時思ったことを言えばいいと思う」

「はい……」

「僕は、少し緊張するけどね」

 全然そんなふうに見えない穏やかな笑顔に、言葉が出てこなかった。


「そうだ。一つ、重要なことがある」

 彼が、軽く咳払いをする。

「なっ、何ですかっ!?」

「呼び方」

「へ?」

「僕のこと。下の名前で呼んで?」

「えっ!!」

「だって、僕はお母さんの前で、奈月さん、って呼ぶよ? なのに、君だけ河野さんって呼ぶのは、ちょっと」

「えーーーっ!」

「っていうのは半分で。残りの半分は、僕の願望」

「え……」

「そろそろ、呼んでほしいな」

「……」

 彼の瞳が。視線が。熱を帯びている。

「ちょっと、練習してみようか」

 声も、熱っぽい。


「……」

 彼の気持ちには応えたい、けど。

「けっ、けけっ……」

 声が。鼓動が。おかしくなる。

「け、けい……」

 手に、力を込める。

「圭太郎っ、さん……」

 体から出ていく息が、ものすごく熱い。


「よし。もう一回」

「えーっ!?」

「だって、よく聞こえなかった」

「いや! 聞こえてましたよね!?」

「いいから、もう一回」

 彼が、じっとこちらを見つめる。


「……圭太郎、さん」

「奈月ちゃん」

「圭太郎、さん」

「はぁい」

「圭太郎さん?」

「ん?」

「はっ、恥ずかしいですっ」

「うん、僕も。あと……キス、したくなっちゃう」

「えっ!?」

「いい?」

「駄目です!」

「なんで?」

「ここっ、公園ですっ!」

「誰も、見てないよ?」

「むっ、無理っ!」

「……分かった」

 彼が、空を見上げる。


「天気、怪しくなってきたね」

「そう、ですね」

 私も、空を見上げる。

「……寄ってく?」

「どっ、どこにっ」

「それ、言わせる?」

「っ! 寄りません!」

「そっか。じゃあカフェにでも行こう」

「はい」

 彼が先に立ち上がって、手を差し出す。

「おいで」

「……はい」

 その手を、キュッと握る。

 太陽が、恥ずかしそうに。雲の後ろに隠れてしまった。


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