流れのままに
「とにかく授業が始まる。話の続きは放課後してやる」
可和羅はそう言って指を鳴らすと、それまでの静寂が嘘のようないかにも授業が始まる休み時間といえる慌ただしい空間が復活する。
「遅れるなよ」
それからすぐ。
綺羅はその教室で紹介を受けていた。
すべてが日本に来る前に学習したとおり。
だが、どれこれも予定外。
本来は明日の朝、ホームルームで紹介されるはずだった。
それが半ば強引に教室に連れ込まれたのだ。
可和羅に。
しかも、流れのまま、授業も受けさせられる。
私服で。
むろん授業そのものは難しくはない。
小手調べと言わんばかりに教師から指名され、問題を解く。
そして、休み時間になるとクラスメートが群がる。
学期の半ばで入学してきた生徒に起こるお決まりの光景といえるだろう。
そつなくすべてをこなしながら、綺羅の視線はひとりに注がれていた。
六条野可和羅。
だが、可和羅の様子に変わったところはない。
男子たちのグループの中心となり笑い合う普通の男子高校生。
そして、寄ってくる女子にも。
吸血鬼だという真実を知らなければ一瞬で目を逸らすことだろう。
だが、気を許してはいけない。
あれは自分をだますための演技ということも十分に考えられるのだから。
いや。
実際にそうなのだから。
だが、腑に落ちない点もある。
いや。
そればかりと言ってもいいかもしれない。
そもそもなぜあの吸血鬼は人間社会に溶け込んでいるのだ?
そう。
綺羅が知るかぎりそのような吸血鬼はこれまで存在しなかった。
もちろん大部分の吸血鬼は昼間に行動できない。
それができる上級の吸血鬼も人間と関わりを持つことを避けてきた。
だが、この吸血鬼は違う。
それはおそらく僕である教師をしているふたりも同じ。
ということは、何か特別な目的があるということになる。
それを知り、ロンドンに伝えねばならない。
むろん、この状況からそれができるかはわからないが。
「まずは放課後をやり過ごし、ホテルに戻ることを今日の目標にしましょう」




