◇35 - 反逆の暴徒たち
本日は◇34と同時投稿になります。
「―――そんなっ、馬鹿な……」
最後の僧侶が驚愕の表情を浮かべながらそう呟いて、地に落ちた。
異端審問官などと言うくらいだから、それなりの手練れかと構えていたが拍子抜けだった。
武装で固めた見た目に反して、あまりにも脆弱過ぎる。
通常の巡礼者と違って、地下で魔物と本格的に戦った経験など無いのだろう。
無抵抗の異端ギフト持ちを、殺してきただけの処理屋。
要は弱い者しか狩ってこなかった連中なのだろう。
正直、スキルを使ったのがもったいないと感じた敵は初めてだった。
エルゼリータも物足りなかったのか、不満顔で気絶した僧侶を突いている。
「エルゼ、起きても面倒だ。あんまり悪戯するなよ」
「はーい」
呑気な返事を返して、エルゼリータは俺の元に戻って来る。
「で、これからどうするの?」
「そうだな。こいつらの痕跡を遡れば地上には出られるだろう。そうしたら、もうひと暴れしてもらう」
異端審問官たちが本格的に動き始めたのなら、地上に居るミラの身が危険だ。
一刻も早く戻らなくては。
「ここから先はとにかく急ぐ。敵が出てくれば俺が一掃するから、エルゼリータは休憩だ。ついて来い」
「分かったー」
伸びた僧侶たちを残して、出発する。放置しておいても魔物に今すぐ襲われるって事は無いだろう。
僧侶たちが入ってきた扉をくぐると、上階へ向かう階段が在った。
階段を駆け上がると、そこは小さな地下室だった。
雑な石積みによって造られた壁は、精巧な地下墳墓の遺跡とは意匠が異なる。
おそらく、地上に戻って来れたのだろう。
さらに階段を登ると、そこは廃墟の教会だった。
街の教会拠点が砦に移った事で、放棄された場所なのだろうか。
倉庫として使われている形跡があり、聖堂内は荷物ともゴミともつかない物が散乱していた。
「これをどう見るべきか……」
教会施設の地下に墳墓の入り口が在るのは、リエムの大聖堂と同じだ。
地下墳墓がある事をここの教会は把握していたはずだよな。
ランジェが俺を騙したのか、彼女が教会に騙されていたのか……
「お兄ちゃん、あれ、ボクのと一緒」
エルゼリータが上の方を指さして、俺を呼んだ。
指示された方向へ視線を向けると、天井から下ろされた古びた旗が在った。
異端審問ギルドの紋章を掲げたその旗は、この教会が彼らの拠点であった事を示すものだ。
「なるほど。道理で連中はすんなりと地下墳墓に入って来れた訳だ」
異端審問ギルドのメンバーだけが、地下墳墓の在処を独占していたのか。
教会の目も届かない辺境の地だからできる事だろう。
しかし、そんな事をして一体何の意味があるのか。
……いや、今はそれよりもミラと合流するのが先決だ。
外に出ると、教会は路地裏の中に在った。
四方を建物で遮られ、外からでは教会の存在がまるで分からない様になっている。
通りで今まで気づかなかったはずである。
道というよりも隙間と表現した方が正しい狭い通路を抜けて、表通りに出る。
今は夜中の様で、人の姿は全くない。
幸いにも今夜は霧が出ていないので、土地勘の無い俺でも丘の上にある砦を目指して移動できる。
砦へ向かってひたすら移動していると、正面から巡礼者が一人現れた。
迎撃の為に俺たちが武器を抜くと、巡礼者は慌てた様子で両手を挙げた。
「まっ、待ってくれ。俺は敵じゃない。アンタ、隊長が連れてきた人だろう?」
「敵じゃないって言われてもな。俺達はついさっき、アンタと同じ異端審問官に襲われたばかりなんだ。奇襲だか不意打ちだか知らないが、やるなら早くしな」
「そうじゃないんだ。確かにアンタからすれば見た目は一緒だろうが、この街の巡礼者すべてが異端審問ギルドのメンバーだったわけじゃない! むしろアイツらは、俺の敵だ!」
「……どういう事だ?」
「アイツらは元々、この街に拠点を構える独立したギルドだったんだ。それが解体されて俺たちと一緒くたにされただけだ。
元々、俺の部署は俺を含めても十人しか居なかった。最近になって、その頃の仲間たちが鎌を持った女に襲われてる。
明らかにおかしいだろう? 九人中九人が、異端審問官とは関わりのない巡礼者だったんだ。
こんなもの、子供にだってわかる。なのにあのヘボ隊長はそんな事にも気づかず、連中を信用し続けた。
その結果がこれだ! 連中、とうとう謀反を起こして隊長とアンタの仲間を拘束しやがった。今は砦を自分たちの物にしたとか何とか言って、騒いでる。
アンタも戻らない方が良い。あそこはもうダメだ」
「お前っ、何もしないで逃げてきたっていうのか!」
「馬鹿を言うな。あんな大人数相手に、俺一人でどうしろって言うんだ!」
……確かに、それを責めるのは酷な話か。
ミラが捕まったと聞いて、焦っているな。こういう時こそ、慎重にならないと駄目だ。
「分かった。砦の方は俺たちが何とかしよう。その代わり、アンタに頼みたい事がある。
リエム教区に居るサイドルという神官長へ向けて、今の内容を伝えてほしい」
「わっ、分かった。憲兵の拠点に伝文器が有るはずだ」
「頼んだぞ」
そう伝えた途端、今更になってエルゼリータの存在に気づいたのか、僧侶は慄いて悲鳴を上げた。
「ひっ―――鎌っ! もっ、もしかしてそいつが……」
「いや、コイツは別人だ。俺の仲間だよ。それじゃあ、頼んだぞ!」
これ以上のやり取りは面倒事に発展しそうなので、適当に誤魔化して先を急ぐ。
二人が捕まったとしたら、これ以上最悪な状況は無い。
ランジェはともかく、ミラはアイツらが忌み嫌う異端ギフト持ちだ。
「頼む。無事でいてくれよ……」
【俊足】スキルを発動し、全速力で砦へと向かう。




