◇33 - カルダート地下墳墓
エルゼリータと共に、出口探しの探索を開始した。
彼女があらかじめ発見していた階段を使って、ひとまず上層へ上る。
これで即出口という事であれば文句は無かったのだが、階段を登った先に現れたのは、やはり薄暗い地下迷宮だった。
「さて、ここから先は開拓した事無いんだよな?」
「うん。迷って戻れなくなったら嫌だから」
となると、自分で地図を作らないとだめだな。
見たところ、リエムの地下墳墓と見た目が全く同じなので、恐らくここも迷宮化されているのだろう。
正しい知識を持って地図の作成などを行わないと、エルゼリータの言う通り、二度と同じ場所には戻って来れない。
子供の頃から自力で地下墳墓を探索してきたので、地図の作成に関しては、そこいらの巡礼者よりは心得が在ると自負している。
「よし。じゃあ、こっちから行ってみよう。記録するから、目を放している間の警戒は任せる」
「任されました!」
エルゼリータはおどけて敬礼をする。
元気というか、愉快というか、コイツと居るとこの最悪の状況でも多少はマシに感じてくる。
仲間が居るって言うのは、それだけでありがたい。
そういえば、最近はずっとミラと一緒だった。いつの間にか、独りで居る時間の方が少なくなっていたんだよな。
「……ミラは大丈夫かな」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「何でもねえ。行くぞ」
「了解!」
ミラは実力も有る。何かあっても、大丈夫だろう。
俺はここから出る事に集中しなくては。
探索を開始して早々、魔物と遭遇した。
どういう理屈か、襤褸を纏った人骨がひとりでに動いていて、手には武器までもっている。
見たまんまスケルトンとでも名付けよう。
場所が違うと、同じ地下墳墓でも異なる魔物が発生する様だ。
ミラが居ないのでレベルの比較はできないが、雰囲気からしてそこまで苦戦する相手でもなさそうである。
「いくぞ、エルゼ。遺体とはいえ、遠慮はいらねえ。魔物は全部叩き切れ」
「オッケー。腕が鳴るねぇ!」
武器を構えた途端、急に人が変わった様に気性が荒くなるエルゼリータ。
そう言えば、俺と戦っていた時もこんな感じだったな。
エルゼリータは鎌を器用に振り回してスケルトンの群れを薙ぎ払っていく。
相変わらずの超加速で、俺が手を出す余地は無かった。
下手に≪ブラック・ランス≫を撃つと邪魔になりそうなので、エルゼリータに任せる事にした。
彼女が疲れたら交代すればいい。
「お疲れさん。そう言えばお前、レベルっていくつなんだ?」
戻ってきたエルゼリータを労い、ふと湧いた疑問を訊ねる。
エルゼリータ一人でどうにかなるという事は、彼女のレベルよりは低いはずだ。
そこからここの平均レベルを割り出せるはずである。
「えっとね、いくつだったかな」
戦闘が終わった途端に、再びけだるそうな顔つきに戻るエルゼリータ。
彼女は手の甲に刻まれた能力紋を広げて、俺に向けた。
「レベル25か。思ったよりも低いな」
十五もレベル差のある相手に負けたのかと思うと、少しだけへこむ。
「……って、ちょっと待てよ。お前って確か、授紋式は受けて無いんだよな? いつ能力紋を刻んだんだ?」
能力紋の刻印は、それこそ教会の施設でなければできないはずだ。
異端審問官を殺して呪いを受けた後、そのまま逃亡生活を続けていたのかと思っていたが、そうでも無いのだろうか?
「えっとねー、うーん。思い出せない」
エルゼリータ本人も分からない様で、腕を組んで唸った。
正気の彼女なら、正常に記憶を引き出せるだろうか。
まあ、こんなものは些細な疑問でしかないのだが。
エルゼリータの能力紋が閉じて、ただの模様に戻った。
なぜか見覚えのあるその模様に、何かが引っかかる。
「これって確か……異端審問ギルドの?」
ランジェの部下たちが法衣に付けていたギルドシンボルが、これと同じものだった気がする。
エルゼリータはやはり何も分かっていない様で、首を傾げる。
彼女が異端審問ギルドと同じシンボルを刻んでいる理由はなんだ?
やはり何かがおかしい。あのギルドはもしかすると、俺の想像以上に厄介な事をやらかしているのかもしれない。
だとすると、ランジェと一緒に居るミラはやはり危険か。
「すまないエルゼ。先を急ごう」
進むペースを上げて探索を再開する。
幸い、エルゼリータは疲れ知らずで、遭遇するスケルトンを率先して討伐していってくれた。
行き止まりに突き当たる事は多かったが、彼女のおかげで順調に地図は埋まっていく。
通った道の配置から未開拓で怪しい区画に当たりをつけて、移動する。
リエムの地下墳墓は階段が複数個所に置かれていたので、おそらくここも似たような造りのはずである。
墳墓全域をくまなく捜索する事はできないが、そもそも俺たちの目的は上層に上がる階段だけなので、余計なものに時間を割かなければ一つくらいは直ぐに見つかるはずだ。
「お兄ちゃん、扉が在ったよ」
スケルトンを退治しに出たエルゼリータが、先に扉を見つけて戻ってきた。
この金属製の大扉は、リエムで何度も目にしたものだ。
大抵は扉の向こうに強力な魔物が住処としている大広間がある。
運が良ければ、上層へ上る階段も見つかるだろう。
運が無ければ、下層行きの階段になるのだが。
「エルゼ、この先は強い敵が待ってるかもしれない。油断しない様にな」
「うん。大丈夫」
エルゼは鎌を抱いて頷く。
この子の実力ならこの階層で苦戦しないとは思うが、持ち歩いているポーションにも限度がある。
こちらの予想を超えるような傷を負わされたりした場合、俺達には治療手段が無いのだ。
警戒するに越した事は無いだろう。
扉を少しだけ開けて、中を窺う。
何も無い大広間のど真ん中で、全身を甲冑で覆った何者かが佇んでいた。
こちらに背を向けているところを見ると、奴は反対側からくる敵を待ち構えているらしい。
良いぞ。上層の階段がある可能性が高まってきた。
「いくぞ、エルゼ」
「いつで行けるよ!」
扉を押し開いて、二人同時に突入する。
驚いた様に甲冑が振り向く。兜の下から覗く顔は、骸骨だった。
他のスケルトンより重武装だし、スケルトンナイトとでも呼んでおくか。
エルゼリータが先攻し、鎌を振るう。
剣を抜いてスケルトンナイトがそれに応戦するのを合図に、突然天井から死体が降ってきた。
なにも無かった大広間を埋め尽くす、戦士の死体の山。それら全てがスケルトンだった。
「っ! お兄ちゃん、どうしよう?」
さすがのエルゼリータも、現れたスケルトンの数に動揺している様だ。
「雑魚は俺に任せろ。エルゼはそいつ一人に集中するんだ!」
そう告げて、エルゼリータに襲い掛かろうとした新手のスケルトンを≪ブラック・ランス≫で一掃する。
こっちに向かってくるスケルトンを剣で相手取りながら、エルゼリータの援護に回る。
やはりそれほど強くも無い敵で、どのスキルを使っても一撃で倒せてしまえた。
スケルトンたちをあらかた倒し終えたところで、エルゼリータもスケルトンナイトに止めを刺す。
鎌で骨董品の鎧ごと砕かれたスケルトンナイトが、黒い粒子となって消滅する。
それと同時に、残って居たスケルトンたちも一斉に砕けて床に落ちた。
「どうやら終わったみたいだな。思ったより楽勝だ」
「お兄ちゃんが居るから、自由に戦える。楽しい!」
合流すると、エルゼリータはそう言って楽しそうに笑った。
エルゼリータのスキルをすべて把握した訳では無いが、彼女の戦い方を見るに、得意としているのは差しでの勝負なのだろう。
範囲攻撃を持たないエルゼリータには、こういう数で押す敵は苦手なのかもしれない。
「楽しいなら良かったよ。疲れていないか? ずっと頼りっぱなしだったからな」
「ううん。大丈夫。それよりもっと戦いたい!」
エルゼリータは疲れを一切感じさせない笑顔でそう言った。
彼女の体力は底なしの様だ。
「俺はできれば、さっさと地下から出たいんだけどな」
スケルトンの強さから見て、この階層はそれほど深くないはずだ。
このまま地上まですんなりと出られれば良いのだが。
二人でそんな会話をして居ると、突然反対側の扉が開いた。
法衣と鎧を身に着けた、覚えのある集団が扉の向こうから現れる。
「―――おいおい、まだ生きてたぜ」
僧侶の一人が、俺達を見て嘲笑する様にそう言った。
「異端審問官が、こんな地下に何の用だ? アンタらの職場は地上だろう? それとも何か? 最近は巡礼者を狩る悪の組織に鞍替えったのか?」
こいつら、"まだ生きていたのか"と、そう言いやがった。
流石にそこまで悪どい事はしないだろうと思っていたが、見当違いだった様だ。
こいつらが俺たち目当てにここに来たという事は、あの黒い影と繋がっているという事だ。
そうなると、エルゼリータに巡礼者を襲わせていたのは異端審問ギルドの連中という事になる。
この様子だと、悪魔がこの街に居るのもこいつらが原因なのかもしれない。
「何も変わっちゃいないさ。俺達の仕事は薄汚い異端者を始末して、世界を清潔に保つ事。それだけだ」
僧侶は俺たちにそう告げると、一斉に武器を構えた。
本気で俺達を相手取るらしい。
「お兄ちゃん。こいつら、どうするの?」
「……問題ない。倒していいよ。でも、命はとるな」
「分かった」
こいつらが教会の制御を離れて、独自に動いているのは明白だ。
それならば俺たちが応戦して倒してしまっても、何も不都合は無いはずである。
「安心しろ。命はとらないでいてやる。だが、俺達を始末するとたった今宣言したんだ。それ相応の対応が返ってくることぐらいは、覚悟してるよな?」
剣の切っ先を僧侶たちへ向けて、【暗黒剣】を発動する。
ミラに剣を突き付けて脅したツケも、ここで支払ってもらうとしよう。




