◇25 - 平穏と襲撃
本日は◇24部と同時投稿しております。
教会に戻ってサラザールの件を報告しつつ、俺はミラから傷の手当てを受けた。
悪魔との戦いから時間が経ったが、左肩の傷は未だに完治していない。
ポーションやアイシャの治癒魔法で処置をしたのだが、どういう訳か完全には治らなかったのだ。
ミュセの見立てによると、悪魔から受けた傷が未だに呪いを帯びていて、光の魔法を半減させているのかもしれないと言う事だった。
一度攻撃を受けただけで、レベルアップができるほどの大量の呪いを受けたのだから、その後遺症は納得できるものが在った。
幸いにも自然に治癒はしてくれているので、今は問題なく動かせる。
「傷痕、残ってしまうかもしれませんね」
俺の肩に包帯を巻き直しながら、ミラは案じる様に言った。
「俺は別に気にならないけどな。ちゃんと治って動いてくれればそれでいい」
「ふうん。男の子って、そう言うものなんですね」
「まあ、人それぞれなんじゃないのか。この傷は仲間を守った証だから、俺としては残っても恥とは思わない」
かっこつけ過ぎただろうか。
言った後で恥ずかしくなっている俺に、ミラは素直な笑顔を向けた。
「はい。守ってくれてありがとう、ギル」
屈託のない純真な笑顔に、なんだか照れくさくなってしまった。
これがミュセなら茶化しの一つも返ってきそうなものだが、その辺ミラは真っ直ぐすぎる。
いつもミラが顔を背ける気持ちが、少しだけ分かった気がした。
「失礼します」
部屋の戸を叩いて、誰かがそう言った。声からしてアイシャだろう。
彼女は地上での一件以来、たまに俺の傷を診に地下教会へ来てくれている。
返事をすると、扉を開けてアイシャが入ってきた。
「ようっ、アイシャか」
「いらっしゃい。アイシャさん」
「お邪魔します。これ、お見舞い。皆さんで食べてください」
そう言ってアイシャは、ミラに果物かごを渡す。
「ありがとうございます。いただきます。今、お茶を淹れてきますね」
ミラはそう言って立ち上がり、部屋を出ていく。
「わるいな、気を遣わせて」
そう言うと、アイシャはかぶり振った。
「ううん。ケガさせたのは、ウチの責任でもあるんだし、このくらいはさせて」
「そっか。なら、ありがたく頂くとするよ」
「うん。―――ああ、そう言えばね、サイドル神官長様が次期教区長に就任されるらしいの」
「へえ、あの人が」
サイドルは人格者だし、適任だろう。あの人が上に立ってくれれば、俺達の扱いも少しはマシになるかもしれない。
「それでね、神官長様がこのギルドを今後は正式な形で教会に所属させたいって―――」
アイシャがそこまで言ったところで、聖堂の方からミラの悲鳴が上がった。
すぐさま立ち上がり、部屋の扉を開ける。
「大丈夫か、ミラっ!」
聖堂には、法衣の上に鎧を付けた武装集団が大挙していた。
教会所属の人間たちみたいだが、剣をミラへと突きつけている。
今の状況下で、このギルドを襲ってくるなんて、こいつらこの街の巡礼者じゃないな。
「何者だ、アンタら」
「ギルディッドだな。我々と一緒に来てもらおうか」
俺の問いには答えず、僧侶の一人がそう言った。
横柄な物言いが、あの教区長そっくりだ。
「お前らは何だって聞いてるんだ!」
「駄目っ、ギル。この人たち、異端審問官だよ」
僧侶へ噛みつく俺を、アイシャが止めた。
異端審問官なんて、聞いた事も無い。
ただ、あまり関わり合いになりたくない響きのする集団ではある。
「私はリエム教区所属の神官、アイシャです。状況をお聞かせ願います」
「これは特務である。部外者に説明する義務はない」
僧侶はアイシャをそう言って跳ね除け、俺へと腕を伸ばす。
「抵抗をするなら、あの娘を傷つける事になるが?」
攻撃を仕掛けようとしている俺へ、僧侶はそんな脅し文句を口にする。
敵に剣を突きつけられている状態では、ミラを簡単に救い出す事は出来ない。
≪ブラック・ランス≫で一掃するか? ―――いや、ミラだけを避けられるほどの精度は、あの魔法に無い。
「アンタ、聖職者のくせに脅迫なんかして良いのかい?」
俺の手首を掴み上げる僧侶へ、皮肉を投げる。
「我々の行為は異端の排除にある。これは神の正義だ」
駄目だ。こういう手合いはそもそも会話が成立しない。言い争うだけ無駄か。
「ぎっ、ギル。今はこの人たちの言う通りにしましょう。教会と問題は起こしたくありません」
ミラの方を窺うと、彼女は怯えた目をしながらそう言った。
「だ、そうだ」
憎らしくそう言って、僧侶は俺の腕に枷をはめた。
ギルドのリーダーであるミラがそう言うのなら、今のところは従おう。
だが、もし彼女に何かあれば容赦はしない。教会の何者であろうと、知った事ではない。
「アイシャさん、留守をお願いします。ミュセが戻ったら、彼女に説明を頼めますか」
腕枷をはめられながら、ミラはアイシャに言う。
「分かりました。必ずお伝えします」
アイシャはミラにしっかりと頷いて、不安そうに俺の方を見た。
「気を付けてね」
「ああ。大丈夫だ」
そう言った直後僧侶に鎖を引かれて、前に倒れかけた。
こいつら、完全に俺たちの事を物扱いしてやがる。
俺たちは事情も分からないまま武装集団に連行され、地下教会を後にした。




