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◇22 - レベルダウナー

「ふざけないで! ギルは悪魔なんかじゃない!」


 アイシャはそう叫んで、魔法を発動させる。


「≪ライト・アロー≫!」


 アイシャの放った光の矢が五本、ルエルラムの頭上に降り注ぐ。


 それをルエルラムは、≪ブラック・ウォール≫の黒い障壁を展開して防ぎ切った。


 また俺と同じ魔法を使った。

 ≪斬破≫などの剣撃系スキルならともかく、≪黒魔法≫を使う奴はこれまで魔物にだって居なかった。


 単純な呼称の域を出て、こいつが本当に悪魔だと言うなら、俺はやはり呪われているのだろうか。


「――そうです。ギフトが何であろうとも、私達は私たちです!」


 ミラも吠える様に啖呵たんかを切って、ボーンゴーレムの爪撃で≪ブラックランス≫の棘を薙ぎ払って脱出する。


 そのまま、ゴーレムは闇の爪撃≪フォンセ・セール≫で、ルエルラムに斬りかかった。

 今度は防壁を展開する事なく、ルエルラムが回避行動をとった。


 それまで微動だにしなかったルエルラムが、初めて動いた。


 些細な事だが、何か違和感を感じる。

 ……もしかして、同質の攻撃には弱いのか?


 確かに、これまでに試した事は一度も無かった。

 ≪ブラック・ウォール≫で≪フォンセ・セール≫は防げるのかどうかという問題。


 俺は防げるだろうと勝手に思っていた。ミラと俺とのレベル差はかなり開いているからだ。

 だが、闇属性同士の攻撃が実は相殺するものだとしたらどうだ。


 他の巡礼者が苦戦していた悪魔の群れを、俺達だけが一撃でほふれたのも説明がつく。


 ミラの絶え間ない連続攻撃と、アイシャの援護射撃を前に、ルエルラムは完全に意識をそちらへ向けている様だ。


 ―――そういえば、俺の職種クラスは≪アサシン≫だったな。


 なら、今こそそれに準じた戦い方をするべきだ。


 【隠密】スキルで姿を消し、【俊足】スキルでルエルラムの背後へと回り込む。


 この場に居る全員が、戦闘に集中している。

 教区長でさえ、ミラ達とルエルラムの戦いに視線が釘付けだった。

 いいぞ、気づかれていない。


「≪ブラック・フレア≫!」


 ゴーレムの爪撃を避けてルエルラムが後ろに動いた瞬間、黒炎を纏わせた剣で背後からその首を切り落としにかかる。


 確かな手ごたえを両腕に感じ、首に斬りつけた剣を切り抜いた。


 ルエルラムの首が宙を飛び、体は音を立てて床に倒れる。

 断面からは何も出ていなかった。剣にも血の様な物は付着していない。


 墳墓で戦ってきた魔物は霊体が多かったが、今の手ごたえから見て、コイツには実体がある。


 しかし相手は超常の存在だ。

 人の形をしているからと言って、首を落としたところで、果たして死ぬのだろうか。



 思考が揺らぐ感覚がして手の甲を見ると、能力紋に、


『エクストラスキル【暗黒剣】を追加しました』


 と文字が浮かんでいた。


 毎度不思議な事だが、どんなスキルかは自然と頭の中に浮かんでくる。

 おそらく、今の攻撃で発生したスキルだろう。



「ねえ、倒したの?」


 アイシャが様子を見にこちらへ来ようとしたので、それを止める。


「いや、まだ分からない。警戒は怠らない方が良い」


 離れたところから観戦していた教区長が、不遜ふそんな態度でがなり立てる。


「こっ、こんな簡単にやられるものなのか。期待させよって、馬鹿馬鹿しい」


「爺さん、あんた少しは反省したらどうなんだ。こんな事、まともじゃねえだろう」


「うるさい! 忌み子が私に説教をするな!」


 本当に腹の立つ爺さんだ。人の事をついには忌み子とまで呼びやがった。


「てめぇ、いい加減に―――」


 反論しようとした途端、ミラが叫んだ。


「ギル! そこから離れてください。魔力量が急激に変動しています!」


 【俊足】スキルで距離を取った瞬間、ルエルラムの身体が赤い光を放ち始めた。


 分厚い光の柱が天井にまで伸び、膨大な魔力を感じさせる風圧で、俺達は吹き飛ばされそうになる。


 光の柱が消えると同時に、中から巨大な黒い怪物が現れた。

 だいたいの容姿は街に居た悪魔どもと同じだが、これはその何倍も大きい。


 漆黒の骨格の端々には紅い光の帯が後ろ向きに伸びていて、その背中にはルエルラムが頭に頂いていた物と同じ様な、赤い魔法陣を背負っていた。


 それはまるで、宗教か何かの象徴シンボルを背負っている様に思えた。


「なっ、何なんだこれは……」


「何て大きさなの……十層のアイツといい勝負じゃない」


「見間違い? ……いいえ、そうじゃない。―――二人とも、この魔物はレベル1ですが、魔力量は桁違いです。何かがおかしい。気を付けてください!」


 狼狽えている俺とアイシャへ、ミラは戸惑ったようにそう叫んだ。


「レベル1だって? そんな事があり得るのか?」


 ルエルラムが戦闘形態にでも成ったかの様なこの怪物は、これまでの魔物とは纏う雰囲気からして次元が違う。

 これが見せかけだけのこけ脅しだとは、俺にはとても思えない。


「はははっ、良いぞルエルラム! そいつらをまとめて始末しろ! 契約通りにな!」


 教区長は形勢逆転を確信して、そんな風に騒ぐ。

 契約とはまた、奇妙な事を。いったい、魔物と何を約束したって言うのか。


 ルエルラムが、教区長の言葉に応じたかの様に咆哮を轟かせた。


 向こうからくる前に、こちらから仕掛ける。

 俺は剣を構え、ルエルラムの足元目掛けて突っ込む。


 ルエルラムはそれに反応して、腕を振り払ってきた。

 回避できる範囲は越えているので、剣を振るって正面から受け止める。


 魔力を込めた剣の一振りで、傷くらいは付けられるだろうと予想していたが、その想像は大きく裏切られた。


 硬質な骨腕に剣は弾かれ、俺の身体は宙を吹っ飛んだ。そのまま受け身も取れずに、床へ落下して転がる。


「ギルさん!」


 ミラとアイシャの呼ぶ声が遠くに聞こえる。

 揺れる頭を無視して、無理やり体を起こす。


 骨がやられた様で、右胸の辺りが激しく痛んだ。


 この結果は、正直想定外だった。

 レベル差はかなり開いていた。体にかかっている強化の加護は十分だったと言える。

 剣の一振りで攻撃を相殺できると踏んで居たし、それが叶わなくても押し負ける事は無いと思っていた。


 まるでレベルの強化が消えて、無力な状態に戻った様だ。


 …………待てよ。そもそも、こんな敵がただのレベル1だという事自体がおかしいんだ。


 嫌な予感を確かめる為に、能力紋を開く。俺のレベル表示は、1になっていた。


「なんだ、これは……」


 顔を上げると、ルエルラムは腕を振り下ろしてミラに攻撃しようとしていた。

 ミラはそれをボーンゴーレムで受け止めようとしている。


「駄目だミラ! 回避を優先しろ!」


 咄嗟に叫んだその言葉に、ミラはすかさず反応した。

 ミラは俺の言葉通り回避行動をとり、ギリギリのところでルエルラムの腕を避けた。


 ルエルラムはなおもミラを攻撃しようと、腕を払う。


「ギル、いったい何が起こっているの?」


 俺の態度から異常を察してか、アイシャが訊いてきた。


「レベルを確認しろ! 最低値にまで下がっているんだ!」


 アイシャが慌てて能力紋を確認した。

 やはりレベルが下がっていたらしく、戸惑う様な声を上げる。


「嘘でしょ……なんなのこれ……っ! ミラさんが危ない!」


 追跡されているミラを助けようと、アイシャが魔法を唱える。


「≪セイクリッド・フォース≫!」


 ミラとルエルラムの間に、巨大な光の防壁が展開された。

 ルエルラムは防壁に激突して進行を阻まれると、瞬時にアイシャの方へと顔を向けた。


 ミラを守るのはいいが、そのやり方じゃ、今度は自分が狙われるだろうに。


 アイシャの元まで移動しようとするが、体が上手く動かない。

 受けたダメージが思ったよりも深刻な様だ。


 ポーションを取り出して口に流し込み、アイシャの元へと走る。



 ルエルラムが床に両腕を突いた。這いつくばった状態で、顔面をアイシャへと向ける。

 顔面に空いた穴の奥で、赤い光が揺らめいた。


 明らかな攻撃動作に気持ちは焦るが、足が思うように動いてくれない。


 ルエルラムの顔面から、赤い光が放たれた。

 禍々しく輝く光の熱線は、アイシャへと真っ直ぐに伸びていく。


 駄目だ。間に合わない!


「≪セイクリッド・フォース≫!」


 アイシャは光の防壁を前面へと展開し、熱線を防いだ。

 しかし今はレベル1に下がっている状態で、自前で保有できる魔力量も大きく下がっているはずだ。

 あんな防壁をいつまでも張っていられるとは思えない。


 防壁を維持しながら少しずつ横に逃げていくアイシャだが、熱線の向きもそれに合わせて動いていく。


「だめっ、魔力が切れる……」


 魔力が底を尽きたのか、アイシャの防壁が消えた。

 瞬間、平べったくなったボーンゴーレムが、アイシャと熱線の間に割り込んだ。


 ミラがアイシャの傍らに滑り込む。

 おそらく、あれがミラの話していたシールド形態のゴーレムなのだろう。


 しかし、ボーンゴーレムの維持にどれほどの魔力を必要とするのか。

 いや、それよりも先に、ゴーレムの耐久値が危ういか。


 熱線によってボーンゴーレムの表面は赤熱し、溶かされ始めている。


 魔力枯渇で窮地に立たされているこちらに対し、ルエルラムはまるで無尽蔵に力を使っているかの様で、その熱線が途絶える気配はまるで無い。


 いや、実際無限に使っているのかもしれない。

 街全体の魔力量が不足していると、さっきアイシャが話していたではないか。


 それがこの悪魔の仕業だと言うのなら、奴は自然界から絶えず魔力の供給を受けている事になる。

 そんな真似は、人類には不可能だ。


 この戦い、分が悪すぎる。


 熱線がボーンゴーレムを貫いた。


 【俊足】スキル発動と共に、最後の力を振り絞って、熱線の前に割り込んだ。


「やらせるものかっ!」


 ≪ブラック・ウォール≫を展開し、防壁を張る。しかしこれだって、いつまでも維持はできない。


「ミラっ、アイシャを連れて離脱しろ! はやく!」


「でも、ギルが!」


 ためらう様なミラの声が背後から返ってきた途端、魔力が尽きた。

 熱線が俺の左肩を直撃すると同時に、ルエルラムの攻撃も途絶えた。


「――――――っ!」


 あまりの激痛に、喉が枯れるほどの悲鳴を上げた。

 骨まで溶けているのではないかと思うほどに傷口が熱い。


 それと同時に、何かが俺の中を浸食している様な感覚がある。

 どす黒い得体の知れない何かが、精神だとか魂だとか、そういうものを喰らいにきている。


「ギルっ、しっかりして! 今、治癒を……くっ、魔力が無い!」


 アイシャの声が聞こえるが、それどころじゃない。

 俺にも余裕はないし、ルエルラムの攻撃だって、いつまた飛んでくるか分からない。


「ギル、これを飲んでください」


 ミラの声がして、口に何かを流し込まれる。体が熱いぶん、冷たい液体が気持ち良い。

 少しだけ、体が楽になったような気がした。


「ポーションか……ありがとう」


 礼を言って目を開けると、不安そうな顔をしたアイシャとミラが目の前に居た。ミラの方は涙でぐしゃぐしゃになっている。


「はやく、逃げろ……」


「バカっ、置いて行けるわけないでしょう!」


 アイシャが俺の右肩を抱えて立ち上がった。

 こんな事をしている場合じゃないのに。直ぐにまた、ルエルラムの攻撃が来る。


 ルエルラムを見ると、奴は熱線の再発に向けて準備していた。今度こそ決着を着けるつもりらしい。

 悪魔の顔面に空いた穿孔の奥で、赤い光が揺らめいた。

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