救えなかったあなた
こんにちは」
「……どうも」
「驚かないんだね」
「僕をつけてくる人なんて、何人もいるから」
「……え?」
「僕のこと、知らないの?」
「はい」
「まさか。今人気の“コーヒーの板橋”だよ」
「ああ……」
正直、よく知らなかった。
「そこは“きゃー”とか言うところでしょ」
「すみません、あまり興味がなくて。
それより――何をしようとしてるんですか?」
彼は崖の下を見つめたまま答える。
「見て分かるでしょ」
「……どうなるか、分かって聞いてます」
少しの沈黙。
「……この世を去るんだよ。もう、限界なんだ」
「どうして?人気なんですよね」
「……人気になったからだよ」
「え?」
「有名になるとさ、叩かれるんだよ。
“きもい”とか、“やめろ”とか……」
拳が震えていた。
「……それ、つらいですよね」
「分かるのかよ」
「分かりますよ。頑張ってるのに、否定されるのって」
「……」
「なんで努力してるのに、嫌われるんだって思いますよね」
彼は小さくうなずいた。
「でも――知ってますか」
「……何を」
「あなたを好きな人も、同じくらいいるってこと」
「……そんなの、分かってる」
「でも、見えてないだけじゃないですか?」
彼は何も言わない。
「さっき少し見たんですけど、
あなたのこと褒めてるコメント、たくさんありましたよ」
「……でも、叩くほうが目に入る」
「そうですよね。嫌な言葉のほうが、強く残るから」
一歩、近づく。
「でも、それだけで全部決めちゃっていいんですか?」
「……」
「あなたを応援してる人の気持ちも、ちゃんと本物ですよ」
風が強く吹く。
「……分かってるよ」
彼の声は震えていた。
「でも、もう限界なんだ」
「……」
言葉が、出てこない。
(どうすればいい……)
「……もし、今ここでいなくなったら」
やっと絞り出す。
「あなたを好きな人、すごく悲しみます」
「……」
「あなたが思ってるより、ずっと」
長い沈黙。
「……ごめん」
彼が一歩、前に出る。
「待って――!」
冷たい風が、全身にまとわりついた。




