自分のことは自分でしろ
「……こんにちは」
「よっ」
「どうも」
「何してるんですか?」
「……川が綺麗だなって、見てただけ」
「ほんとか?」
「……」
「そうには見えませんけど」
「……いや、その……月が映って――」
「今日は曇ってますよ」
「……あっ」
「お前、ポンコツだな」
「うるさい」
少し空気が緩む。
「……で、何があった」
「……」
「橋の上にいる時点で、普通じゃねぇだろ」
「……嫌じゃなければ、話してもらえませんか?」
「……」
少し間。
「……逆に、聞いてほしい」
「うん」
「もちろんです」
――――
「……私、娘が2人いるの」
「……」
「でも、夫と離婚して……親権は向こう」
「……それはきついな」
「さっき似た人いたな」
佐藤がぼそっと言う。
「……その人は?」
「娘に会えなくても、生きるって決めてた」
「……すごいね」
女性は小さく笑う。
「私には無理だ」
「……え?」
「……子ども、可愛いって思えなくて」
「……」
導子は否定しない。
「そういう人も、いますよね」
「……」
「だから、親権が向こうにいって良かったと思ってる」
「……」
「でも、お金は必要でしょ?」
「……?」
「夫に使い込みバレて、自由に使えなくなって」
「……」
「だから、娘に頼ってた」
「……は?」
佐藤の声が低くなる。
「それ、普通にアウトだろ」
「黙って」
「……」
空気が張り詰める。
「……だってさ」
女性は吐き出す。
「この世の中、金がなきゃ何もできないじゃん」
「……」
「今まで、楽に生きてこれたのに」
「……急に全部、自分でやれって言われても無理なの」
「……」
「めんどくさいの。全部」
静かな本音。
――――
「……まあ」
佐藤が口を開く。
「クズっぽいな」
「ちょっと、佐藤くん」
「でもさ」
女性をまっすぐ見る。
「正直だなとも思う」
「……」
女性が少し驚く。
「楽したいって思うの、別におかしくねぇよ」
「……」
「でも」
少し間。
「そのツケが今来てるだけだろ」
「……」
「避けてきた分、まとめて来ただけ」
「……」
女性は黙る。
――――
導子がやわらかく言う。
「……今まで楽だった分、これからは少し大変かもしれません」
「……」
「でも」
「ここで終わるか、やり直すかは、あなたが決められます」
「……」
「完璧なお母さんじゃなくていいと思います」
「……」
「でも、自分の人生は、自分で立て直せます」
――――
「……」
女性はしばらく黙る。
そして――
「……はぁ」
深く息を吐く。
「……あんたたち、ムカつくね」
「え」
「図星すぎて」
「……」
少しだけ笑う。
「……死ぬの、やめるわ」
「……」
「めんどくさいけど、生きる方がマシかもね」
そう言って、橋から離れる。
――――
「……なんなんだ、あいつ」
「でも、ちゃんと戻りましたよ」
「……まあな」
佐藤は少しだけ空を見る。
「……めんどくせぇな、人間って」
「そうですね」
導子は小さく笑った。




