導子の過去
「……いろんな人と関わってきてさ」
「うん」
「苦しいのは、自分だけじゃないって分かったの」
「……うん」
「昔はね、“なんで自分だけ”って思ってた」
「……」
「でも違った。みんな、見えないところで苦しんでる」
「……そうだね」
導子は少し笑う。
「だから、私も頑張ろうって思えた」
「……えらいじゃん」
「でもね」
少し表情が曇る。
「昔の努力って、無駄だったのかなって思うこともある」
「……どうして?」
「私、昔OLだったの」
「え、そうだったんだ」
「そのときはね、すごく楽しかった」
遠くを見る。
「先輩は優しいし、仕事もやりがいあって」
「……うん」
「ある日、親友がね、店を開くことになったの」
「いい話じゃん」
「うん。ずっと夢だったから、私も嬉しくて」
「何も考えずに、連帯保証人になった」
「……」
「最初は順調だったの」
「……」
「でもね」
声が少し低くなる。
「迷惑系の配信者が、店に来て」
「……」
「スープに虫を入れて、“不衛生な店”って動画を上げたの」
「……ひどい」
「すぐに検査も入ったし、防犯カメラで犯人も分かった」
「じゃあ……」
「でもね」
首を振る。
「一度炎上したら、もうダメだった」
「……」
「お客さんは戻らなくて、店は潰れた」
沈黙。
「親友は……心を壊して、会えなくなった」
「……」
「借金だけが残った」
「……」
「それ、私が全部背負うことになったの」
「……」
「借りた相手も、よくないところで」
「……」
「毎日取り立てが来て、逃げ場なんてなかった」
「……」
「気づいたら、その人たちの店で働かされてた」
「……」
まるは何も言えない。
「でもね」
導子は少し笑う。
「仕事自体は嫌いじゃなかったの」
「え?」
「人と話すの、好きだから」
「……そっか」
「お店でも一番人気だったよ」
少し誇らしげに言う。
「でも」
すぐに目を伏せる。
「給料は一番少なかった」
「……」
「ほとんど借金の返済に回されてたから」
「……」
「手元に残るのは、ほんの少し」
「生活するだけで精一杯だった」
「……」
「毎日、もやしばっかり食べてたな」
少し笑う。
「……つらかったね」
「うん」
「親は?」
「……いないよ。孤児院だったから」
「……ごめん」
「いいよ」
軽く笑う。
「だから、頼れる人もいなかった」
沈黙。
「……そんな毎日が、ずっと続くって思ったら」
「……」
「もういいやって思ったの」
「……」
「全部、終わらせようって」
「……」
「そのときに、死神に会った」
まるが顔を上げる。
「……」
「この仕事をする代わりに、借金をなくしてくれるって言われて」
「……」
「気づいたら、ここにいた」
静かな空気。
「……今まで、本当に大変だったね」
まるの声が震える。
「……よく頑張ったね」
「……」
導子は少しだけ笑う。
「なんで、まるが泣いてるのよ」
「だって……」
まるは涙を拭く。
「……あまりにも、大変すぎるよ」
導子は少しだけ空を見上げた。




