お兄さん、ごめんね
「こんにちは」
「……こんにちは」
「川、冷たくない?」
「……冷たいです」
「冬なのに、入ってるんだね」
「……はい」
少し沈黙。
「そろそろ上がったほうがいいよ。風邪ひいちゃう」
「……大丈夫です」
小さく言う。
「これから、風邪もひかない場所に行くので」
「……」
導子は少しだけ表情を変える。
「どうして、そんなところに行こうとしてるの?」
「……言いたくない」
「……そっか」
無理には聞かない。
でも、そっと続ける。
「でも、私は知りたいな」
「……なんで」
「あなたのこと、ちゃんと知りたいから」
少し間。
「……変な人」
「よく言われる」
少しだけ笑う。
「……分かった」
少女はぽつりと話し始める。
「私、この川で溺れたことがあるの」
「……」
「そのとき、お兄さんが助けてくれて」
「……よかったね」
「でも」
声が震える。
「その人、私を助けたせいで……意識不明になったの」
「……」
「全部、私のせい」
「……そう思ってるんだね」
否定しない。
「……うん」
「自分の代わりに誰かが苦しむのって、つらいよね」
「……」
「本当は、自分がそうなるはずだったのにって思うよね」
少女は小さくうなずく。
「……だから」
「……」
「今からでも、間に合うかなって思って」
「……」
導子は少しだけ考えてから言う。
「ねえ」
「……?」
「そのお兄さんが、もし目を覚ましたら」
「……」
「あなたがいなくなってたら、どう思うと思う?」
少女の目が揺れる。
「……」
「“助けてよかった”って思えるかな」
「……」
「それとも、“なんで助けたんだろう”って思っちゃうかな」
少女は何も言えない。
「……」
「あなたを助けたのはね」
静かに続ける。
「あなたに生きてほしかったからだと思う」
「……」
「その気持ちを、なかったことにしちゃうのは……もったいないよ」
涙がこぼれる。
「……」
「その命、大事にしていいんだよ」
「……」
「あなたが生きることが、
その人の行動の意味になると思う」
長い沈黙。
「……私」
震える声。
「ちゃんと、生きる」
導子はやさしくうなずく。
「うん」
「それでいい」




