借金
「こんにちは」
「……なんだ?不審者か?」
「不審者ではありません」
「泥棒か?金なんて一銭も残ってないぞ」
「泥棒でもないです」
「……じゃあ、何者なんだ」
「あなたの“終わり”を止めに来ました」
「……放っておいてください」
静かに言う。
「もう、生きていく術がないんです」
「……どういうことですか」
「会社が倒産して、多額の借金を背負いました」
「……」
「察してくださいよ」
力なく笑う。
「毎日会社のために働いてたのに、
全部なくなって、借金だけ残った」
「……それは、つらいですね」
「つらいですよ」
声が少し強くなる。
「努力してきたのに、何も残らないんですよ?」
「……」
「なんのために頑張ってきたんだって思いますよね」
「……ああ」
小さくうなずく。
「しかも、その借金……もともとは会社のものなんです」
「……」
「社長が夜逃げして、連帯保証人の僕に全部来た」
「……それはひどいですね」
「……あまり、悪く言わないでください」
「え?」
「友達なんです。あの人」
「……そうだったんですね」
少しだけ言葉を選ぶ。
「それでも、つらい状況なのは変わらないですよね」
「……」
「借金の相手も、よくないところで」
「……毎日、取り立てが来るんです」
手が震えている。
「ドア叩かれて、“金返せ”って……」
「……怖いですよね」
「怖いですよ」
「逃げたいです。全部」
「……」
少し沈黙。
「一人で抱えるには、重すぎます」
「……」
「一度、専門の人に相談してみませんか」
「……意味ないと思います」
「そんなことないです」
はっきり言う。
「こういうケース、法律で守られることもあります」
「……」
「違法な取り立てなら、止められる可能性もあります」
「……本当に?」
「はい」
少しだけ前に出る。
「一人で戦わなくていいんです」
「……」
「助けてくれる人、います」
長い沈黙。
「……」
彼はゆっくり顔を上げる。
「……やってみるか」
小さく息を吐く。
「一回、相談してみます」
導子は静かにうなずいた。
彼はその後、弁護士に相談したらしい。
詳しい経緯は分からないが、
違法な取り立てや契約の問題が認められ、
借金の返済は大きく軽減されたという。
今は少しずつ、生活を立て直しているらしい。
あのとき、踏みとどまった一歩が、
彼の未来を変えたのかもしれない。




