就活頑張れ
彼女はその後、営業職を中心に就職活動を続けたらしい。
しばらくして、自分に合った会社と出会い――
無事、内定をもらったという。
風の噂では、その会社で営業として活躍しているらしい。
あの夜、橋の上で立ち止まった彼女は、
今はちゃんと、自分の足で前に進んでいる。
ピコン。
「……来たね」
「うん」
導子はゆっくり息を吸う。
「今度は、逃げない」
――――
「こんにちは」
「……何?」
少し警戒した声。
「お姉さん、綺麗ですね」
「……は?ナンパ?
悪いけど、タイプじゃないから」
「違いますよ」
「じゃあ何?」
導子は少し空を見上げる。
「月、綺麗だなって思って」
「……は?」
「この景色、誰かと共有したくて」
女性は少しだけ視線を逸らす。
「……そう」
「お姉さんも、見てたんですか?」
「……まあね」
少し沈黙。
導子は橋の手すりを見る。
「……どうして、そんなところに立ってるんですか?」
「……」
答えない。
「……困ってること、ありませんか」
「ない」
「……そうには見えないです」
「ないって言ってるでしょ」
少し強い口調。
でも、導子は引かなかった。
「そのスーツ……就活中ですか?」
「……そうよ」
「うまくいってない?」
「……何それ。バカにしてるの?」
「してないです」
すぐに答える。
「頑張ってるのに報われないの、きついですよね」
女性の表情が少し崩れる。
「……毎日面接練習してるのに、全部落ちるのよ?」
「……それは、きついですね」
「おかしいでしょ?」
「……おかしいですね」
導子はうなずく。
「でも」
「……?」
「今就活をしている仕事って、何ですか?」
「……開発職よ」
「それはやりたいんですか?」
「……全然」
「じゃあ、それがダメなかもしれないですね」
「は?」
「本気でやりたいっていあ気持ちが伝わらないから、
企業も雇おうとならないだと思います。」
「……」
「本当は、何がしたいんですか?」
「……分からない」
少し弱い声。
「じゃあ、好きなことは?」
「……人と話すこと」
「それなら」
少しだけ笑う。
「営業とか、向いてるかもしれませんね」
「……そうなのかな」
「向いてると思いますよ」
「なんで?」
「ちゃんと話せるし、雰囲気もいいし」
「……そんなことないわよ」
「ありますよ」
少しだけ優しく言う。
「仕事って、お金のためだけじゃないと思うんです」
「……?」
「やりがいとか、自分が楽しめるかとか」
「……」
「せっかく働くなら、自分が納得できる仕事のほうがいいと思います」
沈黙。
「……私」
女性は空を見上げる。
「焦ってたのかもしれない」
「……」
「やりたいこと、ちゃんと考えてなかった」
導子は何も言わず、ただうなずく。
「……ありがとう」
女性は手すりから少し離れた。




