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3話 業火(インフェルノ) 

 王立騎士団は街を進んでいた。訓練で森へ向かったところで〈第弐位階〉の襲撃をつげられたのだ。


 騎士団の中で一人だけ装備が軽装な者がいた。仮面をかぶった男で、仲間からダーヴィット、とよばれている従騎士だ。


 貧民街に着くと、大量の土煙があがっていた。騎士団は歩みを止め、ダーヴィットは先頭へむかう。


「誰かが足止めをしている……」


 騎士団長がありえない、と言ったようにつぶやく。


「〈祝福〉もなしに……リュディガー王太子だろうか。ふがいないと思っていたが、やるときはやるのかもしれんな」


 〈祝福〉―それは驚異的な異能力の俗称ぞくしょうだ。〈第弐位階〉と何らかの関係があるとされているが、研究は進んでいない。


 希少な性質であり、割合は数百人に一人とも言われる。その為〈祝福〉を持つ者は畏敬いけいの対象となっている。王家(アイメルト家)は〈祝福〉の後天的発現こうてんてきはつげんの研究を長年続けてきた。


 王立騎士団も異能者で構成されており、ダーヴィットもその一人だ。


 ダーヴィットの〈祝福〉は、炎を自在に操り、爆発を起こす力だ。その能力から、ダーヴィットは業火インフェルノの二つ名で呼ばれている。


 ダーヴィットは、怪物を足止めした者の思考を読み解き、感心する。ここならダーヴィットらの〈祝福〉を最大限に発揮できる。


「〈光撃〉はいないのか」


 騎士団長が部下に聞き、何かを話している。〈光撃〉とは、最強の異能力者とよばれている者だ。


「〈光撃〉は、いないようだ。私が足元を凍らせる。業火よ、骨も残すな」


 騎士団長が言う。


 ダーヴィットは、うなずき、馬から降りる。彼の〈祝福〉も万能ではない。風が吹けば炎はかき消されるし、飛距離も限界がある。


 ちらりと後ろにいる騎士たちを見る。どれもが王宮に仕える貴族たちだ。


 貴様らは安全地帯から見ているだけか―


 ダーヴィットは毒づきたい気持ちをおさえる。呼吸をととのえ、気持ちを切り替える。そして、盾をかまえ、怪物に向かって走っていく。


 かしゃかしゃ、という音と共に怪物の姿が見える。もがき苦しみ、移動することができずにとどまっていた。


 鋭い音を立て、骨が飛んでくる。ダーヴィットは、咄嗟とっさに盾で頭を守る。すぐそばに、太い骨が突き刺さる。あれが頭に当たれば一撃で致命傷だ。ダーヴィットの背に冷たい汗が伝う。


 ダーヴィットは意識を怪物の頭部へと向ける。そして、精神を統一する。しかし、指がふるえる。


 この力は、全てを焼き尽くし、大量殺戮ジェノサイドを引き起こす。現に、何人もの敵を焼き殺してきた。彼らの絶叫が耳に木霊こだまする。


「敵は化け物だ……」


 ダーヴィットは歯噛みし、自分に言い聞かせる。そして、ひたいの脂汗をふく。そして、手に持った球状の陶器とうきを握りしめる―中には自動で点火する装置と爆竹。閃光爆弾だ。


「放て! 最大火力だ!」


 ふと、誰かの声が聞こえ、ダーヴィットは頭上を見る。そこには、一人の騎士―血塗れの姿。騎士にしては小柄だ。


 言われなくても、やってやる―


 ダーヴィットは風の流れを読み、火炎かえんの位置を予測する。そして、閃光弾を放る―陶器中の金属部分がぶつかり、火花が散る仕掛けだ。


 手から爆弾が離れていくなか、怪物のすぐそばに倒れている子供の姿が見えた。爆弾自体は閃光しか起こさないが、ダーヴィットの〈祝福〉によって火炎かえんは大規模なものになる。


「にげ―」


 ダーヴィットが叫ぼうとした瞬間、誰かが子供に飛びかかる。


 爆弾が火花を散らし、周囲の空気が反応―怪物の頭部で、ぱっとあおい光が炸裂する。まるで小さな太陽が現れたかのような光景だった。


 空気が震え、衝撃波が身体を打つ。気が付くと、足が地から離れ、風の中で身体が揺れている。


 ダーヴィットの耳が高周波で鳴っていた。誰かの悲鳴が聞こえるが、まるで水の中にいるかのようだった。


 ダーヴィットは胃液を吐き、よろよろと立ち上がる。周囲に怪物の残骸が転がっていた。ひど血生臭ちなまぐさい。周囲を見るが、砕け散り、焼けた建物があるだけだ。


 大きな破片はへんを誰かが押し出すのが見えた。ダーヴィットは、それを助け、破片を持ちあげる。すると一人の女性が転がり出てくる。まず見えたのは金色の長髪。


 ダーヴィットは息を飲んだ。さっきの騎士―


 透き通る白い肌、鼻筋の通った顔立ちと、アイスブルーの瞳は、鋭く冷たい印象を受ける。


「あなたは……」


「王太子妃様!」


 騎士の声に、ダーヴィットは、ハッとする。


 この人がソフィア・アイメルト!


「王太子妃様……」


 ダーヴィットは、あわててソフィアに肩を貸し、助け出す。


ソフィアの右手は焼け、酷い火傷があった。その腕の中には一人の子供がいる。


「やり過ぎました。申し訳ありません」


「気にするな……それよりも子供を安全な所へ」


 そう言い、ソフィアは、気を失い、その場に崩れ落ちた。

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