不死(イモータル) ー1
―〈第弐位階〉の出現から2日後
蝋燭の小さな明かりが、ソフィアを照らしている。視線の先では、まぶしい光―王宮ではリュディガー王太子が〈第弐位階〉を倒したことを称えるパーティーが行われていた。
遠くから歓声が聞こえる中、ソフィアは自室で治療を受けていた。侍女が火傷に軟膏を塗る。腕は良いが、機械的で愛想がない。
ソフィアは、ふと手首の傷を見る。黒く太った蛇のような傷。それからが至る所についている。触れると、火花が弾けるような痛みが襲う。戦地に繰り返し派遣され、付けられた傷は全身に及んでいた。
私はもう女として終わり―いや、何もかもおしまいだ。
「思い出せ……」歯を食いしばり、ソフィアは、自分に言い聞かせる。憎悪だけが、自分を正気に保つのだ、と。
ソフィアは昔のことを思い出していた。この地獄の始まりを―
3年前、嫁いできたソフィアに対し、后は無関心であった。しかし、2年ほど前から執拗な指導が始まったのだ。
后は、言葉遣いから、テーブルマナーまで、細かなことでも激しく叱責を行うようになった。叱責の理由は曖昧で、ヒステリックだった。
ソフィアは王宮内で孤立させられ、嘲笑の的にされ、毎日のように后に激しく叱責され、年端も行かない公妾に面前で罵倒された。それにより、ソフィアは心を病んでいった。
肩や首が異様に凝るようになり、顔の筋肉が引きつり、指が震えた。后を前にすると、舌がもつれ、頭が真っ白になり、動悸が激しくなった。一日中、頭痛がし、胸が何かに圧迫されるような感覚に苦しめられた。
そんなソフィアを見ても、リュディガー王太子は気を掛けることはなかった。彼は、昼は后の操り人形、夜は食事のたびに公妾に口の周りを拭かれ、ベッドで上に乗られていた。
ソフィアが自室に籠るようになると、食事に僅かに赤い色をした白パンが出されるようになった。朝食に出されたそれに違和感を覚えたが、何か言う事は出来なかった。数週間続いたある日、それが堕胎を引き起こす毒麦から作られたのだ、と侍女から知らされた。
誰がそんなことを、という答えは明白だった。王が后に命じていたのだ。ほんの僅かなリュディガーとの触れ合いすら、無意味になった。
ソフィアは食事をとらず、衰弱する日々が続いた。それを何とか乗り越えた先で待っていたのは、戦場へ送り込むという仕打ちだった。
もうすぐ王は死ぬ、そう呟き、自分を鼓舞し続けていた。王は齢60で、大病を患っている。その親戚だった后は、同じ病で死んだ。いつ崩御してもおかしくはない。王の死と共に、屈辱は終わるはず、だった―
昨日、街で瓦礫の撤去をしていた時〈第弐位階〉のすぐそばで、ソフィアは、とある話を聞いてしまった。
騎士たちが集まり、声をあげていた。
「怪物の腹から人が出てきた」
「骨に僅かな肉が付いているだけだ。無残だな」
「おい、再生してるぞ」
「う、動いた!」
そこで、騎士は位の高い者を呼びに行った。
まさか、不死の異能を持つ者が現れたのではないか―
ソフィアの疑問は、王宮に著名な医師がお忍びできていることにより、真実味を増した。
〈祝福〉は、それを持つ異能者の臓物の一部を加工した物を摂取することで、他者にも同様の物が発現することがある。あの王の事だ、もう不死者の血肉から作られた薬を啜る算段を立てているに違いない。
考えることは一つだけだ。王が不死になるならば、その前に殺すしかない。
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