第67話 悪夢再び、絶体絶命の攻防戦……もうやだぁあああああ!!
システム補助49%
(はい、ダイ。今日はあなたの大好きなハンバーグよ)
「……懐かしいなぁ、姉ちゃんのハンバーグ」
物思いにふけるダイは、何故だか好物のハンバーグを作ってくれる姉の姿を思い浮かべていた。
家事全般をこなしていた姉が手料理を振舞ってくれる。これがダイと姉の高嶺との、唯一姉弟らしいコミュニケーションだった。
「もう一度食べたいなぁ……姉ちゃんのハンバーグ―――」
―――ズドォーン!!
「うぎゃぁー!?」
無論、現実逃避なんてしてる場合じゃねぇーよ、馬鹿野郎!
大体今は絶体絶命の攻防戦中だからな! あの地下8階で繰り広げた絶体絶命の攻防戦より質の悪い攻防戦だからな!!
てか今も爆撃されてっからなっ!!!
「……あ~の~な~、人が感傷に浸ってる時に茶々入れてんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
キレたダイはサブマシンガンを両手に、眼下と眼前に群がる無人機を一掃する作業に戻る。
怪獣を倒して漸く上に来れたダイは、マックスを捜索するに当たって下から順に調べて行こうと、まずは地下2階に来た訳だが。
そしたら恐ろしい数々の無人機がお出迎えしてやがった。問答無用で襲ってくる無人機相手に、ダイは逃げ回り暴れ回り、遂には逃げ場を失って追い詰められてしまった。
不思議なことに地下2階は岩肌が剥き出しになったフロアが殆どだった。地下8階よりも階層が不完全な状態は、まるで洞窟そのものだ。
或いは一度完成した階層が何かしらの影響で破壊され、こんな岩肌剥き出しの洞窟になってしまったのかもしれない。
何れにしてもそんな洞窟みたいな階層のフロア一角で追い詰められたダイは、何とか高台に陣取って岩壁を背に、眼下と眼前の無人機を必死になって迎撃しまくっていた。
眼下と、眼前。まぁ高台に陣取っているんなら無人機が眼下にいるのは分かるんだがな。しかし眼前とはどう言う意味かと思うだろ?
実はな、空を飛ぶ無人機が現れたんだ。地下2階に来て遂にと言うか、何と言うか。
今まで奇抜な無人機は沢山見てきたダイだが(透明化したり波動砲撃ったり地味に自爆したり本当に奇抜な奴ばかりだな)、しかし空を飛ぶ無人機は初めてだ。
今までの奇抜さを考えると空を飛ぶ無人機くらい然程驚くようなものでも無いのだが、しかし実際に戦ってみて分かった。空を制する無人機と言うのは滅茶苦茶厄介だ。
その空を飛ぶ無人機を、ダイは蜂と呼称した。何となく見た目が蜂に似てたんでな。
大きさはイングリッド改から見て大型犬くらいの大きさだ。とても蜂とは呼べない大きさだが、今までの無人機に比べたら自爆するカタツムリに次いで小さい。
背中にある二重反転式ローターで飛行しているが、この二重のローターの羽がかなり鋭利な刃物でな、触れれば岩だろうが金属だろうが容易に裂ける。接近を許せば細切れ必至だ。
それに加えて、蜂の尻には針の代わりに機関銃、左右の安定翼下にミサイルを3発ずつ抱えてやがる。火力だけ見ても申し分ないぜ。
そんな蜂だけでも厄介なのに、問題はそれだけじゃないんだ。眼下には地面の上を歩いてダイに迫ってくる奴もいる。コイツらは蜂に対して蜘蛛と呼称した。
円盤型の胴体に4本の脚と2本の手を備えただけの簡素な無人機で、なんか四本脚の下位互換型みたいな感じだった。
大きさも蜂と同じでイングリッド改から見た大型犬程度。手足も6本だから蜘蛛と言う表現も怪しい気はするが、歩くその姿はどう見ても蜘蛛のそれだった。
そして火力は蜂よりも高い。両手にはサブマシンガンだけだが、背中にはロケットランチャーを3基も抱えてやがる。
このロケットランチャーが厄介でな、蜂のミサイルとかまるで比較にならないんだぜ。1発でも直撃すりゃお陀仏、付近に着弾しても爆風でお陀仏と中々ふざけた威力なんだわ。
だから撃たれる前に撃破する。万一ロケットランチャーを撃たれても距離があればレーザーで迎撃もできる。接近さえ許さなければどうという事は無い。
幸い、蜂も蜘蛛も耐久力は低いし四本脚と比べたら遥かに弱い。撃破するのは容易ではあった。
ただな、問題は数だ。
所謂、数の暴力だよ。あっちを見ても無人機、こっちを見ても無人機、ここ結構広いフロアの筈なのに見渡す限り無人機しか見えねぇーよ。
こんな数を相手にしてたからダイが拠点から整えてきた装備もあっという間に弾切れだ。ライフルも手榴弾もとっくに無くなっちまってるよ。
故に今は蜘蛛の使うサブマシンガンをフックランチャーで奪い取りながら、それで必死に反撃を続けていた。このサブマシンガンでも蜘蛛と蜂を撃破するには十分だったからな。
でもな、それが一体どれだけ続いたかと言えばな―――72時間を超えてんだよ。馬鹿野郎!
72時間、つまり3日だぞ3日! それも戦闘ぶっ通しの3日間だからな!!
しかも3日戦い続けてシステム補助の減り幅1%って、世知辛いだろ。49%って数字も死と苦の組み合わせで縁起悪い事この上ないし。
この3日間、ダイはずっと戦いっぱなしだぞ。クリアフォームを駆使して透明化してはちょいちょい休憩を挟んでいたが、それも5分程度の事。クリアフォームの持続は5分しか持たねぇーんだよ。
その5分の間にどこかへ逃げればと思うかもしれんが、透明化中は激しく動けないし、そうでなくても無人機ばかりのフロアに逃げ場なんて無いさ。
だからその5分の間にダイは高カロリー輸液でエネルギー補給を行って、何とか戦闘を持続できていた。
もちろん飲料物だから空腹は殆ど満たされないし、加えて徹夜続きで眠気もパネェし、そして戦闘続きで心身ともに限界が迫りつつある。満身創痍だよ、全く。
……え? トイレ?
いや、まぁ拠点を出る前に腹を下して出すもの全部出して、それからは輸液ばかりだったから大便を催す事は無かったんだけどな。
でも小便の方はな、催したが行く暇なんか無いしクリアフォームで透明化したまま外出るとかできないし、だからどうしたのかと言えば……どうしようも無かった。
垂れ流したんだよ、コックピットの中でそのまま。
だって仕方ねぇーじゃん! トイレに行く暇もねぇーんだし、人間何か飲んでりゃ催すし、飲まなきゃ死ぬし、だったらもう垂れ流すしかねぇーじゃん!!
もうさぁ、これってどうなんだって感じじゃね?
高校では女に倒されて、プラントに来てからは怪獣に色々踏み躙られて、それからタイヤ食べたり木乃伊になったり総白髪になったり、その上人殺しにまで手を染めてしまって。
挙句の果ては小便垂れ流しって、これじゃダイの体裁も面目もへったくれもあったもんじゃねぇーよ(まぁ無駄な贅肉を失ったのはラッキーだけど)。
幾ら何でも主人公がこの扱いってどうなんだよ! 流石に残酷過ぎんだろ、神様よぉ!!
あんたに慈悲はねぇーのか!?
……まぁ、文句を言っても仕方ないんだけど。幸い3日間戦い漬けで全身汗だくになっていたから制服もずぶ濡れだ、垂れ流しも殆ど目立たない―――と思いたい。
しかし3日間戦い漬けって、これ相当ヤバいからな。三日三晩命懸けの戦闘を続けているんだぞ。普通死ぬからな。てか、いつダイが倒れても不思議じゃないんだからな。
なのにこの無人機の数、どうなってんだよ、コンチクショー!
ぶっちゃけコイツらは雑魚だから簡単に倒せるよ。でもさぁ、倒しても倒してもキリが無いんだぞ!
三日三晩戦い続けて撃破した無人機の数は……多分2千はいってる。絶体絶命の攻防戦でやりあった四本脚の10倍じゃねぇーか。
なのに全然終わりが見えない。もう一度言うが、あっちを見ても無人機、こっちを見ても無人機、見渡す限り無人機しか見えねぇーんだよ。
コンディションは限界だってぇーのに無人機は一向に減らない。このまま永遠に戦い続けろって言うのか? てか、死ねってか?
……いやいやいや、これマジで詰みじゃね?
「うがぁー!」
迫り来る蜘蛛にダイは奪い取ったロケットランチャーを撃って、登ってきた蜘蛛群を一掃する。これでまた暫くは大丈夫になった。
そして片方の手でマシンガンを乱射して蜂を牽制しつつ、もう片方の手で蜘蛛の1機をフックランチャーで引き上げる。
引き上げた蜘蛛を頭上まで投げ上げ、落下する瞬間にナイフで止めを刺す。そしたら新しいマシンガンとロケットランチャーを回収して残骸は下にポイッだ。
これをもう何度となく繰り返し行っている。無人機との戦況は平行線のまま続き、一向に変化は訪れない。ダイが疲弊するばかりだ。
つまり、終わりが無いからダイに勝ち目は無いって事だよ。
今まで本当に死ぬような事は多々あったけどさぁ、今度と言う今度こそはマジで詰みかもしれないぞ。
だってこの戦い、本当に終わりが見えないんだぜ。疲弊するのはダイばかりで、無人機は次から次へとぞろぞろやってくる。
終わりの見えない戦い程、過酷な戦いは無いもんだ。ゲームオーバーを待つしかないんだからな。
てか、毎度毎度詰み状態になる事の繰り返しだが、回数を重ねる毎に過酷さが増しているのはどう言う理屈なんだろうな。
あれか? クリアする毎にステージの難易度が増す的なあれか? ……ゲームじゃねぇーんだよ、これはなぁ!!
命賭けて必死こいてるってぇーのに、ゲーム感覚でやってられっか!
しかしゲームなら攻略法もあって然るべきなんだが、ゲームじゃないからこそ攻略法もあるとは限らない。寧ろ無くて然るべきかもしれない。
だとしたらもうダイに残された手段は1つしかない。即ちそれは―――奇跡が起こるのを待つだけだ。
いや、だから仕方ねぇーだろって! 他にどうしろって言うんだ!?
もうダイに出来る事は全てやり尽くしたんだからさぁ、何でもいいから奇跡起きてくれよ!
無人機が打ち止めになるとかさぁ、美人さんが助けに来てくれるとかさぁ、異世界の扉が開くとかさぁ、マジで何でもいいから奇跡起きてくれぇー!
「奇跡起こしてやらぁー!!」
―――ゴボッ
「えっ?」
えっ?
奇跡……起きた?
いや、起きた。それも最悪の形で。
岩肌の壁を背に戦っていたダイだが、その背後の壁から穴を掘ってきた奴が現れたんだ。
おそらくそれで岩盤を掘り進んで来たのであろう巨大な円錐型のドリルが、今なお高速回転してダイのイングリッド改の背中を捉えているそいつは―――
「ド、ドリル戦車だぁ!?」
そいつは―――SFシリーズにありがちなドリル戦車だった。
大砲の代わりに円錐型の巨大ドリルを備えた、何とも斬新な戦車だ。しかも先端は掘削用になってるし、穴を掘るには最適そうなドリルだぜ。
しかもキャタピラーまでドリルで出来てる。どこまでもドリル尽くしかよ。
……で、そのドリルがダイの背後から壁に穴を空けて、そしてダイの背後からドリルを突き付けて来やがった―――死ぬわ!
「バックてぇぇぇぇぇん!!」
ダイはギリギリでバック転回避、ダイのいた場所を通り過ぎたドリル戦車は高台に登ってきた蜘蛛をドリルの刃にかけて易々と粉々に破砕する。
とんでもねぇードリルだ。もう少し遅かったらダイもああなっていたと思うと……ゾッとするなぁ。
「だからって怯んでたまるかぁ! ナイフトゥミートゥー!!」
ドリル戦車を真下に捉えたダイは、そのまま落下の勢いに乗せてドリル戦車の―――多分ジェネレーターがある所にナイフを突き刺し、
「更にダメ押し!」
その柄頭に掌底を打ってナイフを限界まで深く刺し込んだ。四本脚の肩の力で打った掌底だ、ナイフはかなり深々と刺さったに違いない。
そして予想通り、ドリル戦車のドリルは回転を止めガクッと項垂れるように機能を停止した。
その亡骸となったドリル戦車を、ダイはイングリッド改の腕力を以て持ち上げると、
「うりゃぁあああああ!」
高台から蜘蛛が蠢く下へ放り投げた。ついでにロケットランチャーも叩き込んでおく。
―――ズドォーン!!
爆破したドリル戦車は多くの蜘蛛を巻き込んで木っ端微塵に散る。これでまた暫く蜘蛛が迫ってくる心配は無くなったが、代わりに蜂が増えやがった。
ドリル戦車が現れた僅かの間に、またぞろぞろと増えやがってからに。
しかも貴重なナイフもオシャカになっちまった。これでダイの近接格闘戦の要が無くなっちまった訳だ。てかもう本当にマシンガンとロケットランチャーしか使える物が無いじゃん。
「上等だ、ゴラァ! テメェーら全員根絶やしにしてやらぁー!!」
気合いはいいが、どう考えても無謀だ。しかしそれしか方法が無いのも事実。
ドリル戦車の登場で碌でもない奇跡は起きたけど、どうにもならないのは変わらないままだ。
敵は途絶える事も無く、起死回生の策も今回は一切無い。そして逃げ道も無いし……ん?
「オラオラオラオラオラオラ……あれ?」
あれ、待てよ。確かドリル戦車は背後の岩盤に穴を空けて出て来たんだよな。
そうだ。そのまま出て来てドリルでイングリッド改の背中に風穴を空けようとして突っ込んで来て、それで返り討ちにしたんだ。
でもその穴って……歩兵機でも通れるよな?
円錐型ドリルって実用性が無い用に思われがちだけどな、
・先端を掘削用に加工する。
・溝に刃を付ける。
・振動を加える
などの改良を加えたら、武器としても工具としても実用性は出てくるんだぜ。実際ガチで円錐型のドリル戦車が開発された事例もあるくらいだからな。




