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外伝13話 ヴィンデルバンドという名の歩兵機

ケント視点

 ペンタゴン。アメリカ国防総省の通称で知られる世界最大のオフィスビルディングは、上空から見下ろすと確かに五角形(ペンタゴン)の形をしていた。


 輸送ヘリで赴いたここは、俺達ディガロの総拠点と言っても過言ではない。ディガロは正真正銘のアメリカ軍なんだからな。


 アメリカ軍と言うと陸海空軍と海兵隊の国防四軍があるが、ディガロはそれとは違う機能別の統合軍に属するアメリカ歩兵機軍だ。


 歩兵機を実戦運用する上での先駆け部隊として重要な役割を担っている。そして歩兵機の開発において試験運用するのも仕事の1つだ。


 今日俺はその為に来た。新型歩兵機ヴィンデルバンドの開発も大詰めを迎えようと言うので、立ち会う為にここへ来たんだ。


「ロウ少尉、間も無く到着します。着陸に備えてください」


「了解だ」


 着陸と同時にヘリから降りて、俺はDARPAの格納庫練に向かった。


 DARPA、アメリカ国防高等研究計画局はそのペンタゴンの中にある国防総省の機関の1つだ。


 歩兵機の開発が進められるに連れて部署も大幅に増えているが、新型歩兵機の開発を行うのはその内の1つの歩兵機研究室、まずはそこの専用格納庫へ向かう。


 本来であればディガロを統べる統合参謀本部に顔を出すべきだろうが、それよりも今はヴィンデルバンドの姿を直ぐにでも見たい。


 なので通り一遍の挨拶回りはお断りさせてもらう。俺はそう言う男だ。


 故に眼前にそびえ立つ巨大なビルディングを迂回して、研究室所有の格納庫練に向かう。


 格納庫練は歩兵機の為に新設された歩兵機の専用練等だ。歩兵機開発が加速するに連れて、必要な機関や施設が新設されるのは当然の事だが、しかしそれにしても早過ぎるのではないか?


 歩兵機が開発されたのはここ数年の間だ。この僅かな間に歩兵機は更に進化し、今や第2世代が主力となるまで進んでいる。


 そして今度開発されるヴィンデルバンドは、分類上第2世代だが、実質的には第3世代に相当する歩兵機だ。それ程の物がもう開発されようとしているのか。


 歩兵機技術の発展は如何なる軍事技術よりも―――いや、軍事技術に限らず科学技術全般において最も進歩していると言える。


 そう考えると不気味なものだ。どうして歩兵機ばかりがこうも発展するのだろうな。


 軍事力は歩兵機だけでは無い。戦車や戦闘機、決して歩兵機に劣るとは言えない戦闘兵器は幾らでもある。ならば何故歩兵機なのだ?


 何故歩兵機ばかりが、こうも発展しなくてはならないのか? 歩兵機の発展には、他に何か意味でもあるのか?


「まぁそんな事は、俺が考えても仕方がないんだがな」


 所詮俺はただの兵士だ。戦場に出て戦うのが仕事であり、歩兵機の技術経済を考えるのは仕事じゃない。どちらかと言うならそれは政治家の仕事だ。


 なら俺は兵士らしく、最新鋭の歩兵機を拝みに行くとしよう。(いず)れは俺の搭乗機となるのだからな。


 と、いつの間にか格納庫練に来ていた。新型は一番奥だから、まだ先になるが。


 格納庫練には多種多彩な歩兵機が立ち並んでいるが、その殆どがイングリッドだ。


 イングリッドは第2世代最良とまで(うた)われる名機だ。汎用性も高いし、改良の余地も十分にある。


 後継機であったりバリエーション機であったりと、イングリッドの開発は余念がないのだろうな。だがそれでも、新型のヴィンデルバンドには及ばないが。


 そして格納庫練の端まで来た。ここに(くだん)のヴィンデルバンドがある。


「……ん?」


 入口を通ると、もうそこには歩兵機が立っていた。まるで俺を出迎えるかのように、歩兵機用のハンガーに収まって。


 だが、これは本当にヴィンデルバンドか? 渡された資料とは少し異なるようだが。


「―――ケント、もう来たのか」


 格納庫の奥の方から白衣を着た大柄な男性が歩み寄ってきた。歩兵機研究室の室長、ジョナサン・マッカートニー博士。通称ジョニー博士だ。


 歳は50前か、ラテン系のアメリカ人で研究者にしては体格も良く端正な顔立ちをしたダンディな人物だ。趣味は登山だったと覚えている。


 ジョニー博士は歩兵機開発の第一人者で、ヴィンデルバンド開発の主任研究員である。つまり、俺が会いに来た人物だ。


「ジョニー博士、時間を取っていただき、ありがとうございます」


「いや、私の方から呼ぼうと思ってたさ。よく来てくれた、ケント」


 握手と同時にハグをしてジョニー博士は本心からそう言ってくれた。


 俺もこの人には敬意を表している。何故ならジョニー博士は、マクシミリアン・ダオスロードがディガロにいた頃に深い関わりがあったと、前にフェルトン(Mr.ジーザス)少佐から伺ったからだ。


 それにマクシミリアン・ダオスロードの専用イングリッドを手掛けたのもこの人だと聞く。余程の信頼関係がある間柄だったのだろう。


 そのイングリッドは例の最上(もがみ)ダイに持ち逃げされた機体で、挙句クロステーゼに掻っ攫われてしまったのがどうにも許せんのだがな。


「まずは、私の最高傑作を見てもらおうか」


 もちろん見させてもらう。……と言うか、目の前にある機体がそうなのでは?


「あれはヴィルヘルム、別物だ。ヴィンデルバンドの下位互換型……いや、原型機と言うのが正解かな」


「ヴィルヘルム? ヴィンデルバンドの原型機とはどう言う事ですか?」


 確かに資料で見たヴィンデルバンドとは少し異なるが、類似点も共通点も多いし、一目見てこれがその新型だと思ったのだが。しかし全くの別物なのか?


「実はな……ヴィンデルバンドのコストパフォーマンスが大幅にオーバーしてしまって。それで一から見直した結果、コスト削減して次期主力となるように調整したのが、このヴィルヘルムって訳だ」


 なるほど、コスト削減か。通りで見劣りしてる訳だが、それでも次期主力として大量生産するにはコスト削減は避けられないか。


「こいつはヴィンデルバンドとも互換性があるし、開発後にヴィンデルバンドへバージョンアップする事も可能だ。必要に応じた汎用性って事よ」


「それで原型機と言う訳ですか。なるほど、確かに汎用性はありそうだ。パイロットの成長次第でバージョンアップできるのもいい」


「バージョンアップもいいが、このままでも十分優秀だぞ。ヴィンデルバンドに比べたら随分性能はダウンしたが、それでもイングリッドより高性能だ。シーカスフレームもちゃんと搭載しているからな」


 シーカスフレーム、か。ヴィルヘルムでもそれが搭載されていると言うのは大きいな。


 そのシーカスフレームと言うのは従来型歩兵機のエネルギー効率を大幅に改善する画期的なフレームだと聞く。これによって歩兵機の性能はグーンと上がるそうだ。


 これだけ見てもイングリッドより優秀な機体であることは明白だろうが、しかしそれだけだ。次世代主力歩兵機としてはそれでいいとしても、俺が求めているのはその程度では無い。


「博士、ヴィンデルバンドはどこに?」


「奥にあるさ。ついて来なよ」


 ジョニー博士に連れられて格納庫の奥に足を運ぶ。格納庫はヴィルヘルム用のパーツが目立つな、やはり次期主力歩兵機がメインと言う事か。


 それともあれらのパーツはヴィンデルバンドにも応用できるのだろうか。互換性があると言っていたからな、多分それなりの流用は可能なのだろう。


 そうしている内に、格納庫の奥にまた別のハンガーを見つけた。同じように歩兵機が立ち据えているハンガーだ。


 ハンガーに立ち据えられている歩兵機はヴィルヘルムと酷似していたが、違う機体だ。次期主力歩兵機とは違う別の歩兵機だった。


 その証拠に―――コイツには波動砲(サージガン)が付いている。


「これが私の最高傑作、SR-9/P2 ヴィンデルバンドだ。実質同じ機種のヴィルヘルムとは比較にならない性能だぞ」


 ジョニー博士は、まるで子どもの様にはしゃいでヴィンデルバンドの事を説明する。


 余程自慢の機体なのだろうな。開発者にとって作品は我が子同然と聞くし、このヴィンデルバンドも博士にとって息子のようなものなのだろう。


「これにも同様にシーカスフレームを搭載しているが、ヴィンデルバンドはそもそもジェネレーターが違う。完成した新型のジェネレーターは従来の物より高性能だ。イングリッドとは比べ物にならないパワフルなポテンシャルが発揮される」


 それは資料で見たから知っている。


 ヴィンデルバンドの新型ジェネレーターは従来よりも遥かに高出力だ。その分劣化が早いしコストも高いから、次期主力には使え無いのだろう。


 だがそれでもこのポテンシャルは魅力的だ。この性能差を活かせればクロステーゼのオベルタスにも実力差を埋めて渡り合えると思ったくらいだからな。


 それに、あのオッドアイ一味にも。まともに戦ったボクサーはまだ余力を残していた、こっちは手数を全て使い切ったと言うのに。


 奴らに対抗するには俺の技量だけでは埋まり切らない。歩兵機のポテンシャル面でもカバーしないと話にならんだろうな。


「それからヴィンデルバンドは脚もポイントだ。脹脛(ふくらはぎ)にパワードコンデンサーを搭載しているから物凄い脚力、瞬発力を発揮する。寧ろこの脚こそがヴィンデルバンドの代名詞と言っても過言ではないさ」


 それも資料を見たから知っている。だがこのジョニー博士の様子を見る限り、ヴィンデルバンドの脚の力は俺の想像以上なのだろう。


 これは非常に楽しみだ。脚技は俺にとって必要不可欠だからな。


「その他の機器もバージョンアップしてあるけど、殆どはヴィルヘルムと同型になる。しかしコイツは決定的に違う所があるぞ。サージガンが遂に完成したんだ」


 波動砲(サージガン)、遂に完成したんだな。


 最上ダイが掻っ攫ったマクシミリアン・ダオスロード専用機、MPM.ηの試作品から実践データが取れず波動兵器の実用化はまだまだ先になると思われていたのだが。


「想像以上に早いようですが。実践データも無しにどうやって実用化に漕ぎ着けたんですか?」


「実践データは別方面から届いたそうだ。兵器開発部が波動兵器に着手できるって喜んでたよ」


「別方面と言うのは? 波動兵器はMPM.ηにしか搭載されていたのでは筈では?」


「さぁな、そこは兵器開発部に聞いてくれ。ただ兵器開発部はおろか、上層部も実践データの出所は不明らしい。怪しいと言えば怪しいが、上層部としては早急に波動兵器を実戦配備したいそうだ」


 確かに、自国中心主義の連中ならそうするだろうな。だがオッドアイ一味の一件以来、ディガロ内部にスパイの可能性をずっと思案してきた俺としては、どうにも不安だ。


 もしスパイがいたとして、波動兵器の実践データを渡す理由は何だ? 俺達に波動兵器を開発させて、奴らに何の得があると言うのだ。


 それに、まだ最上ダイがオッドアイ一味の仲間と言う可能性も残っている。仮に最上ダイが自らの実践データを提供したとして、その目的は何だ?


 最上ダイはオッドアイ一味の仲間では無かった、データ提供は単なる支援……いや、それは無いな。それならこんな回りくどい真似はすまい。


 何にしても色々疑ってかかるべきだろう。波動兵器は有り難く使わせていただくが、奴らの策に乗るつもりは無い。


「ジョニー博士、もう少し実践データの出所について、調べられるだけ調べてはもらえないだろうか?」


「無茶を言わないでくれよ、私は兵器開発部とは不仲なんだ。それにそもそも歩兵機は兵器では無い、新時代の先駆けとして未知なる可能性を秘めた科学技術の結晶なんだぞ」


 そうだったな、ジョニー博士はそう言う人だ。


 戦闘用として開発された歩兵機でこそあるが、博士は歩兵機を様々な分野で活躍させようとしている。無論それは立派な心掛けだ、兵器のままでは平和利用にはならないからな。


 しかしクロステーゼやオッドアイ一味の事を考えると、今は兵器としての実用性を重視するべきだろう。ただでさえ今は、何が起ころうとしているのか分からないと言うのだからな。


「それでもお願いします。不安材料を残したままヴィンデルバンドに乗りたくは無いので」


「……そういう言い方をされると、NOとは言えないな。分かったよ、調べられるだけ調べてみる。だけど期待はするな」


「ありがとうございます。ところで博士、さっきから気になっていたのですが、あのハンガーは?」


 連れて来られた格納庫の奥には、ハンガーが3つあった。その内2つにはヴィンデルバンドが立ち据えられていて、最後の1つは空だった。


 資料にあった通りなら、立ち据えてあるのは試作の一号機と二号機だ。なら空のハンガーは一体何だ?


「あれは三号機用のハンガーさ。ヴィンデルバンドの1機はモデルケースとして保存される事になっている」


 三号機があったのか。しかしモデルケースを必要とするとは、ヴィンデルバンドの価値は余程の物と見たな。


 どうせなら三号機もこちらで使いたいところだが、流石にモデルケースには手が出せない。それに、これ程の機体なら2機もあれば十分と言えよう。


 この2機は俺と、多少不安だが日向(ひなた)ハヤセの搭乗機として採用する事が決定した。


 念入りに調べたが、日向ハヤセがスパイである可能性は極めて低いと見た。それにあの小娘のサーパストとしての能力は俺より上かもしれない。


 システム補助を短期間で0%にできた才能だけ見れば、オベルタスにも引けを取らないだろう。それを無下にするのは余りに惜しい逸材だ。


 頭は少しおかしいようだが、俺との再試合で随分と腕を上げたのも確かだ。あれは紛れもなくサーパストとしての特徴に違いない。


 あとは技量の問題だ。徹底して鍛えてやれば直ぐにでも実戦に出られる。実戦経験を得れば、より磨きがかかるし、ならばそれに見合う歩兵機も必要となるだろう。このヴィンデルバンドのような歩兵機が、な。


「ジョニー博士、これの実戦配備はいつ頃になりますか?」


「まぁ、物は完成してるからな。要望通りにカスタマイズして試験運用するのに……ざっと2週間がいいところじゃないかな」


 2週間か、少し長い気もするが仕方ないな。それまでクロステーゼやオッドアイ一味が大人しくしていればいいのだが。


「要望は、一号機は脚の長さの伸長とキックの打撃力強化用のアンクルアーマーを追加、カラーリングは反射率の高い銀と黒の虎縞模様で間違い無いか?」


「それで構いません」


「オーケー。じゃあ二号機の方だけど、突進力を強化したいと言う要望だから試作品のアークジェットブースターを搭載してみようと思う。カラーリングはルビーのような赤色メインで間違いないか?」


「待て、アークジェットはいいとして、ルビーみたいな赤とは? 豹柄では無いのですか?」


「……ある訳無いだろ。虎縞だって常軌を逸しているだろ」


 何故だ? あれ以上に素晴らしい柄は無いだろ。


 日向ハヤセめ、俺が虎縞は譲らんと言ったからヤケになったのか?


「まぁいい。しかし博士、カスタマイズの前に試乗しても構わないだろうか? できるなら今の内に機体の癖を掴んでおきたい」


「随分焦ってる様子だな。何かあったのかい?」


「今のままでは駄目だと思ってな、どうしても強くなりたい。頼む博士、この通りだ」


 俺は頭を下げて博士にお願いする。普段誰かに頭を下げる事はまずしないのだが、今は余計なプライドなど切り捨てる。


「……分かった、多くは聞かないよ。どの道ケントには試乗してもらうつもりだったさ。存分に操縦するといい」


「ありがとうございます、博士」


 敵は俺が想像するより強大かもしれない。ボクサー1機にあんな余裕を見せられたのだ。それがオッドアイを含めて3機……いや、まだまだいるに違いない。


 強くならなくては、今よりももっと強くなって、奴らに対抗するだけの力を付けなくてはならない。そして奴らを、このヴィンデルバンドを使って葬り去ってくれる。


 マクシミリアン・ダオスロードに代わって、この俺がな。

一方その頃ダイは……


「たぁぁぁすけてぇえええええええええええええええ!!」


……助けを求め出した。


何事も自力で切り抜けてきたダイがとうとう助けを求め出した。


その様子から、如何にヤバ気な状況にいるのかを察していただきたい。


                                         ―――by MAX.

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