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外伝12話 クロステーゼの司令官は凛々しく気怠げに命令する

セラ視点

 ロシア連邦ムルマンスク州の州都ムルマンスク市。ロシア北西に位置する北極圏最大の都市であり、またロシア最大の港湾都市の1つでもある。


 ソ連が健在だった時代では、ドイツ軍進行に対し住民の必死の抵抗が称えられ、英雄都市の称号が授けられたロシア国内でも名誉ある都市としても有名な場所。


 そしてここムルマンスク市には、ロシア連邦海軍北方艦隊の総司令部が置かれている。故に私は呼ばれた、クロステーゼ27日分隊の副隊長である私、セラフィナ・ハブタムは。


 クロステーゼはロシア連邦軍に属している訳では無い、そもそも非公式な組織だから所属先が存在しないのだけれど。


 クロステーゼは旧ソ連構成国の管轄下にあると言うだけで、重要報告事項においてはここ総司令部で行う決まりとなっている。


 クロステーゼが自分達の子飼いである事をアピールしたい上層部の思惑が見て取れるわ。


 ムルマンスク市に来てもう2週間以上と経つけど、これはいつもの事。こちらの報告が行き渡るのにどうしても時間がかかるし、その報告を上層部の重鎮がどう判断するかを話し合うのにも時間がかかる。


 非公式の組織で事務報告すると言うのは、何かと面倒な事が多くて時間がかかるものなのよ。こればかりはいつまで経っても慣れないわね。


 しかし、それももう今日で終わり。随分と長く感じられた報告会議も、ようやく終わろうとしていた。


『―――では、セラフィナ・ハブタム少尉を中尉に昇格とし、27日分隊の隊長代理とする』


「はっ、恐縮であります」


 上層部を代表して、西部軍管区の司令官から昇格を言い渡された私だけど、残念ながら今の私には素直に喜ぶ気にはなれない。


 隊長であるリーザ―――エリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタスがいなくなって、今は気が気で無いのだから。


『次にブロヒーナ中佐、オベルタス大尉を初めとする部隊員損失の補充メンバーは君に一存する。早急に部隊を再構築したまえ』


「はっ、了解であります、司令」


 私の隣でそう答えたのはスサンナ・ニキートヴナ・ブロヒーナ中佐。初老の女性でありながら、とても威厳に溢れる女性士官よ。


 そして私達27日分隊を受け持つクロステーゼの戦隊副司令官でもあるわ。今回のような重要報告事項において主力の27日分隊の現指揮官と、それを受け持つ戦隊の副司令官が呼び出されるのは当然のこと。


 そして、戦隊の司令官が呼び出されることもね。


『最後に、アヴェリナ大佐にもう1度聞きたい。オベルタス大尉は必ず戻って来るのかね?』


 最後に質問された人物。私とブロヒーナ中佐に挟まれる形でそこに立っていた戦隊司令官は、とても落ち着いた様子で答える。


 けれど、はっきりと答える。根拠が一切見出せない質問にも、確信をもって答える。我らが戦隊司令官、アドリアーナ・サーヴィシュナ・アヴェリナ大佐はそういう人だ。


「はい、オベルタス大尉は必ず帰還します。そう遠くない未来に、必ず」


 その答えに根拠はどこにもない、リーザが行方不明となって今どこにいるのかも分からないのだから。ましてや何時返ってくるのかなんて分かりようも無い事。


 けれど、アヴェリナ大佐が言うのなら間違いない。彼女には根拠は無くとも確信は有る、彼女しか知り得ない確信が。


『……分かった。なら君の言葉を信じて、オベルタス大尉の席は残したまま、27日分隊を再構築する事をここに決定しよう。以上で解散する、下がって結構だ』


「失礼します」


 アヴェリナ大佐が(きびす)を返してその場を立ち去り、私達もそれに続く。上層部の方々に敬礼は忘れず、しかしアヴェリナ大佐から離れないように。


 でも彼女に付いて歩く私とブロヒーナ中佐は、心持ちゆっくり歩かないといけない。小柄な彼女に付いて歩くには、歩幅を小さくしないと合わせられないのだから。


 アヴェリナ大佐はとても小柄な女性だ。まるで12、3歳にしか見えない程、小柄で幼い、そんな容姿の人が私達の戦隊司令官なのよ。






 とは言うものの、本当に12、3歳な筈無いわよ。そんな子供が上官とかあり得ないでしょ。


 ベース基地に戻る専用車の中で私と対面するように座る初老のブロヒーナ中佐と幼い姿のアヴェリナ大佐。


 側から見たら祖母と孫のようにも見えるけど、実際には母娘程度の年齢差しか開いていない。


 アヴェリナ大佐は見てくれこそ幼い少女だけれども、実年齢は既に34歳と立派な大人だから私よりも年上よ。どれだけ年上なのかは敢えて言わないけれど。


 34歳で一戦隊の司令官になるまで上り詰めるのも異例のスピード出世と言えるけども、アヴェリナ大佐にはそれだけの能力があった。


 もちろん上に立つ為の指導力もあるけれど、彼女の能力とはそう言うのとは違う、もっと特異的な能力よ。


 ただ、私は未だに彼女の能力を信じ切れていない。さっきのリーザの事にしてもそう、何ら根拠のない事を平気で言える彼女には、本当にそのような能力が身についているのかしら?


「私に何か聞きたい事があるようね。遠慮しないで言ってみなさい、セラ」


「っ!?」


 心を読まれた? いいえ、そんなはずは無いわ。その様な素振りは見せていない。


 心理学に精通している私は相手の心を読む事に長けているし、逆に私自身は心の内を見せないように心掛けている。だから気付かれる筈が無いわ。


 だとしたら大佐は私の心を読んだのでは無く、()()()()()()()()()()()()


「……では、失礼ながら質問させていただいても、よろしいでしょうか?」


「堅苦しくのは止めてフランクに来なさい。そう言うの疲れるわ。あぁ〜……ダル」


 人目も(はばか)らず長い溜息混じりに脚を組み直して肩を叩く仕草は、幼い見た目にそぐわないけど年相応ではあるわね。


 それにしても、なんて品のない事かしら。大人と言っても淑女(レディ)では無いわね。と言うより単なるおばさんよ。


 けれどもやはり彼女の能力は本物のようだわ。これで何度納得した事かしら。納得してなお疑いを晴らせないのだから、私も困ったものね。


「なら遠慮無く……リーザが戻って来ると言うのは本当なの、大佐?」


「本当よ。だいたいあの美女の皮を被った魔王がくたばる訳無いでしょ。核ミサイルを使っても死にやしないわよ。寧ろあの魔王を倒せる勇者がいるのなら是非会ってみたいわ」


「…………」


 酷い言い様な事。でもリーザが美女の皮を被った魔王と言うのは、長い付き合いの私としても否定できないわね。


 けれど(大佐の口の悪さはおいとくとして)、それではまるで単なる憶測で言っているようにしか聞こえないわ。


「大佐、くどいようですがリーザが戻って来ると言うのは、明確な事実なのですか?」


「そうよ。明確に見たわ、リーザが戻って来る未来を。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「……はい」


 やはり大佐は自身の能力で確信を持っていたのね。未来予知と言う特異能力によって。


 これが彼女、アドリアーナ・ニコラエヴナ・アヴェリナ大佐が、この若さで(注意、34歳でと言う意味)戦隊司令官になれた大きな要因よ。


 大佐には未来を先読みする能力がある、それもある程度限定して明確に見る能力が。リーザが戻って来ると言うのも、彼女の未来予知によるもの。


 上層部は大佐の未来予知を全面的に信用しているようだけども、私はまだ信じ切れていないわ。だってそんな非科学的な能力、信じられる筈が無いもの。


 大佐は過去に何度も未来予知をしてクロステーゼに貢献してきたから、その能力がインチキでは無いとは思っているけれども。


 それでも理屈的な私は、あまりオカルティックな話を信用する気にはなれない。どうしても疑ってしまうわ。


「どうしても信用できないかしら? それなら1つ予言をしてあげるわ。セラ、間も無くあなたに絶望が訪れるわよ」


「……はぁ」


 何よ、その終末の大予言みたいな台詞は?


 大体、その絶望ってどこから訪れて来るのよ……あら、タブレットに着信。それもプライベートメール、彼からだわ。






 件名:話があるんだけど。




 セラ、色々考えたんだけど、僕達はうまくいってないと思うんだ。


 だからここらへんで踏ん切りをつけたい。


 君に惹かれた時期もあったけど、もう昔の事だ。今はもう、君のことは愛していない。


 それに、君にはもっと相応しい相手がいると思う。だから、お互いに正しいと思うことをしたいんだ。


 もう終わりにしよう。さよなら、セラ。






「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


「一目も(はばか)らずに泣き叫ぶなんて、品のない事ね、セラ」


「あなたにだけは言われたく無いわ!」


「それにしても定番のお別れフレーズを並べたようなメッセージね。よくこんな単純な男と付き合ってたわね」


「ほっといてください! あと勝手に見ないで!!」


「これで147回目の失恋になったわね。今回はどのくらいの付き合いだったの?」


「ぐすん……2週間です」


「早いなぁ!」


 お叱りを受けたのはブロヒーナ中佐だった。この人は軍人であると同時に修道女の資格も持っているから、あまりこの人の前で色恋沙汰は話したくないのだけれど。


「それでも長く続いた方よ。彼女の交際期間が1ヵ月と続いた事なんて未だに無いし。本当にスピード破局の天才ね、セラは」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! どうして!? 何が駄目なの!!? 私が黒人だから? 私の父がアフリカ人だから?」


「相手が妻子持ちだからでしょ」


「不倫かいっ!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 確かに許されない恋をしていた自覚はあったけど、それでも私達うまくいってたわ! 絶対にうまくいってたもの!!


「自惚れるのも大概にしなさい。いっそ相手の(ワイフ)に不倫の事実を突き付けてやったらどうなの? 自分を捨てた報復に家庭崩壊させてやるのも乙なものよ」


「嫌よ、彼に迷惑はかけたくないもの! だって彼のこと愛しているのよ!!」


「面倒臭いわね」


「面倒臭いねぇ!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 もう嫌、いっそ死んでしまいたい。何もかも終わりにして楽になろうかしら……。


「馬鹿な事を考えるのは止めなさい。でもこれで分かったでしょ、私の予知能力が本物だって」


「分かりたくなんてなかったわっ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 寧ろインチキだった方が嬉しいくらいよ! ぐすん……でも、リーザが無事に帰ってくる保証ができたのは喜ばしい事よね。素直に喜べないけど。


「ああ、でも誤解の無いように言うけど、リーザは戻って来るとは言ったけど無事では無いわよ」


「ぐすん……そうですか―――ええ? えっ、ちょっと大佐! それはつまり、その……どう言う意味ですか!?」


「そのままの意味よ。会議では言わなかったけど、私の見た未来で戻って来たリーザはとても傷付いている、暫く戦線復帰は望めないと考えておいた方がいいわ」


「そんなっ、ならリーザが戦線復帰するのはいつになりますか!?」


「そこまでは私の予知でも分からないわよ。ただ、暫くはリーザ無しの27日分隊でいる事になるのは確かね。分隊の指揮よろしくね、隊長代理さん」


「っ……」


 結局、リーザを頼りにはできないと言うの。ただでさえマムもリンも暫くは復帰できないと言うのに。


 それに、敵はディガロだけでは無い、彼らがいるわ。オッドアイと一緒にいた身元不明の歩兵機、彼らの強さは圧倒的だった。私達が手も足も出せないほどに。


 リーザ無しに彼らと戦うのは不可能よ。少なくとも今のままでは、勝負にもならない。


 何か対策を取らないと、27日分隊は全滅してしまう。何か、でも何があるの? リーザ無しに彼らと渡り合う方法なんて。


「それなら、私も補充要員探しに尽力を尽くさないとだねぇ。なるべく腕の立つ奴を連れて来ないと話にならないだろうさねぇ」


 ブロヒーナ中佐が頼もしいことを言ってくださるけれど、それでもリーザの抜けた穴を埋めてくれる人材が見つかるとはとても思えないわ。


 彼らに対抗するには、リーザ程とは言わないまでも、ジャネットに匹敵するだけの実力者がいる。例えば……。


「補充要員もいいけど、その前に現存部隊員での立て直しを優先してちょうだい。ストリボーグを実戦配備する方向でね」


「っ!?」


 何ですって!? ストリボーグって、まさか―――


「やはりそうなるねぇ、大佐殿。オベルタス大尉の穴を埋めるなら、ストリボーグを使うしかないだろうねぇ」


「待ってくだい、大佐。それにブロヒーナ中佐も。お2人は3年前、ストリボーグが及ぼした被害の事をお忘れですか!?」


 3年前、忘れもしない悲劇の日よ。たった1機でクロステーゼに襲撃を仕掛けて甚大な被害をもたらした謎の歩兵機。通称、真珠の悪魔。


 最終的にリーザが沈黙させたけど、私やジャネットでは抑え切れなかったわ。機体の性能も異常なのだけれど、パイロットの技量も異常だったと言える。あれは世に出してはいけないものよ。


 出所も不明だし襲撃した目的も不明。当初はディガロの歩兵機かと思われたけど、今にして考えるとオッドアイと一緒にいた彼らの歩兵機なのかもしれないわ。


 そんな正体不明の危険極まりない歩兵機だから凍結化していたと言うのに、それを大佐は……。


「忘れる訳ないでしょ。あなたとジャネットの2人がかりでも抑え切れなかった真珠の悪魔、リーザの抜けた穴を埋めるのにおあつらえ向きじゃないの」


「ですが―――」


「それに、これはリーザとも相談して決まった事よ。ストリボーグの凍結化が解除されていたでしょ? あれは私とリーザの指示なの、あなたが再凍結化したみたいだけど意味無いからね」


「……それでも、納得がいきません。確かにストリボーグが加われば27日分隊は戦力的に安定するでしょうが、リスクが大き過ぎます。万が一また被害を被る事になればどうなるか、リーザもいない今だからこそ控えるべきなのではないでしょうか?」


「そう、じゃあ賢明なハブタム隊長代理にいい事を教えてあげるわ。27日分隊が壊滅寸前にあるって情報、ディガロに掴まれてるわよ」


「な、なんですって!?」


 そんな、よりによってこんな時に。あの戦闘で被害を受けたのはディガロも同じでしょうけど、向こうとは組織としての規模が違うわ。


 ディガロにはまだまだ戦力がある。私達が壊滅寸前にあるこの機を逃す筈がない。という事は、いつ襲撃してくるかも分からないって事だわ。


 所詮私達は非公式な組織だから、襲われても向こうに大義名分がつくもの。


「私の予知能力、もう分かったでしょ? リスクを犯すべきか、すべきでは無いか。賢いあなたなら分かるわよね、ハブタム隊長代理」


「……っ」


 ああ、やっぱりこの人には敵わないわね。


 見てくれこそ幼く愛らしい少女でこそあるけれど、その容姿からは想像もつかないくらい修羅場を幾つもくぐり抜けて来た、リーザに匹敵する猛者なのだから。


 未来予知だけではない、そんな能力が無くても彼女はこの地位に上り詰めるだけの素量があった。私達の上に立つべき器の人なのよ。


「クロステーゼ戦隊司令官として命令するわ。メアリー・メイ二等兵と一等兵に昇格とし、ストリボーグの正規パイロットとして実戦配備しなさい。早急にね。あぁ~……ダル」

一方その頃ダイは……


「うぎゃぁあああああ!!」


「死ぬぅ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、マジで死ぬぅぅぅぅぅ!!」


「うわぁっ! わ、わわわわっわぁ!! わぎゃぁぁぁあああああ!!!」


……死にそうになっていた。


                                        ―――by MAX.

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