第66話 マクシミリアン・ダオスロードは相棒を諭す……結構堪えてました。
ダイ視点
むしゃむしゃ……。
むしゃむしゃむしゃむしゃ……。
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ……。
……あぁ~、もうイライラする。
どうにもイライラが治まらないんで、最近の拒食気味が噓のようにやけ食いしていた。
イライラの原因は分かっている。あの怪獣の中身、敵イングリッドだ。
あいつ、最後は自殺する為に手榴弾で自爆しやがった。と言っても、その前に止めを刺したのは俺だけど。
だから結果として、俺は初めて人を殺したんだ。なのに罪悪感とか後悔とか、不思議なくらいそんなものは無く、後に残ったのはただただイライラする苛立ちだけだった。
敵イングリッドの自殺、まるで戦国武将が堂々と切腹でもするかのような、そんな潔さだった。
それ比べて俺はどうだ? 見苦しいくらいに這いつくばって生き恥を晒している俺と、あの敵イングリッドを比べたらどうなる?
そう考える度にイライラする。自分の人間の小ささに頭に来てならない。なので拒食症返上でやけ食いしながら、半壊したイングリッド改を修理していた。地下8階の拠点に戻って。
それにしても……あぁ~、もうイライラする!
何なんだよ! 何なんだよ、あいつは!? あんなに滅茶苦茶強かった癖に、最後はあっさりと死んでしまうなんて。
あれか? 潔く散るのが格好いいとか思ってるのか? だとしたら俺は絶対にゴメンだ!
俺は意地汚く生きてやるぞ! 誰に何と言われようと、どんな手段を使おうと、見っとも無く無様にも生き抜いてやるぞ!!
お前みたいな死に方は絶対にしないからな、怪獣っ!
本当ならこの死に際の餞別に渡されたようなジェネレーターも叩き壊してやるところだけど、スキャニングで見てしまったそれに、思わず叩き壊すのも憚れた。
[ロード・コア GX-1010]
怪獣―――もとい敵イングリッドが自らの腹の中から取り出したジェネレーターだ。
道の核って何だ、みたいな感じの名前で出力も俺のイングリッド改より少し高いくらいかなっと思ってたんだけど……よく見たら桁が1つ違っていた。
0が、1つ多いんだ。つまりイングリッド改の10倍以上の出力があったんだ。そんな馬鹿なぁ……。
俺が必死になって改良したイングリッド改と互角の性能があるなぁとか思ってたら、まさか出力が10倍以上もあるとか、普通に死ねってか?
四本脚でも2倍の出力があったけど、あいつらは無人機だからコックピットが無い分ジェネレーターを大型化してるから納得できるんだけども。
でもイングリッドと同じサイズのジェネレーターで出力が10倍も違うとか、どうなってんだよ? 怪獣にしても、本体のイングリッドにしても。
そんな高性能過ぎるジェネレーターだから、叩き壊すのも憚れてしまったんだ。そしてそんな物欲に憚れる自分の小ささにもイライラするし。
かと言って、このジェネレーターを搭載すれば俺のイングリッド改も出力10倍になるとか、そんな単純な話ではない。
実際これを搭載したらどうなるか、俺は知っている。敵イングリッドのように背中が爆発するんだ。
あの時、敵イングリッドが俺に止めを刺し損ねたのは、ジェネレーターの熱暴走で爆発したからだ。如何に出力があっても、それに見合う放熱器と電力変換器が無ければ、ああなるんだ。
おそらく怪獣にはそれがあったのだろう。だが本体の敵イングリッドにはそれが無かった。だから最後に爆発したんだ。
最後の最後は、本当に運が良かっただけだった。情けない男だな、俺って。
故に、今は使えない。この出鱈目なジェネレーターは暫く保留だ。これを搭載するには、一から機体を構築し直すくらいでないとならない。
ったく、あいつはどうしてこんなものを渡してきたんだ? 俺にこれを渡してどうしようって言うんだ?
あぁ〜、もうイライラする!!
むしゃむしゃ……。
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ……あっ、マックスからの通信だ。
『―――よぉ、ダイ。遂に怪獣を倒したな。よくやったぜ、相棒』
「…………」
『おいおい、どうしたんだよ? 無視はないだろ。せっかく怪獣を打倒したってんで祝福してやってるのによぉ』
「…………」
『何だ? ひょっとして脱出ルートを教えなかった事を根に持ってるのか? ちっちぇーな、お前……って、流石にそりゃ無いな。今更そんな事でグダグダ言うお前じゃ無いからな』
「……なぁ、マックス」
『おう、何だ?』
「ヘールズ隊長って誰だよ」
『…………』
押し黙ったか。どうやら、あまり触れられたく無い名前みたいだな。
敵イングリッドが自爆する時、俺はマックスの声を聞いた気がした。薄っすらとだけど、マックスは確かにヘールズ隊長と、そう言ってたんだ。
マックスのこの様子を見る限り、俺の気のせいでは無さそう。ならマックスは知っていたと言う事になる、あの怪獣の正体を。
『……アーノルド・ヘールズ大尉。俺がこのプラントへ調査に来た時、所属していた部隊を指揮していた隊長さ』
「知っていたのか、あの怪獣がその隊長だって?」
『最初からじゃ無い。怪獣から出て来て、イングリッドで戦い出したところで気付いた。あの近接格闘術はヘールズ隊長の特権だからな、直ぐに分かったさ』
「なら何でお前の隊長が俺を襲う? 俺には襲われる理由は無いぞ」
『さぁな、俺にも分かんねぇー。ただ、あれが普通じゃないのは確かだろ。何があったのかは分からないが、ヘールズ隊長は何かしら普通じゃない事があったんだ。だからああなってしまったんだろうな』
「……マックス。お前が俺をここに連れて来た理由ってあの隊長を……いや、ここにいるかもしれないお前の仲間を助けて欲しいから、だったんじゃないのか?」
『……まっ、当たらずとも遠からずってところだな』
「なら、マックスの隊長を死なせた俺には、さぞ失望しただろ?」
『卑下するなよ、寧ろお前はよくやった方だ。普通じゃ無くなったヘールズ隊長は、もう助けようは無かった。多分、隊長を救うには、ああするしか無かったのさ』
「……別に、申し訳ないとは思って無いけどな」
『思って無いのかよ。だがその居直りの良さは嫌いじゃ無いぜ。それに、お前が申し訳ないとか思うのも筋違いだしな』
むしゃむしゃむしゃむしゃ……。
『しっかしよく食うなぁ。あんまり食い過ぎてリバウンドするような羽目にはなるなよ。まぁ今のお前は痩せっぽちだから、少し肉を付けた方がいいんだけどな』
「単にイライラしてるからやけ食いしてるんだよ」
『それでも程々にな。あとな、ダイ。お前気付いていると思うが、頭が真っ白だぞ』
「……知ってる」
イングリッド改の修理中にトイレに行って鏡を見たらビックリした。誰だこれって思ったよ。
痩せた時もビックリしたけど、これはそれ以上だ。白髪が少し出て来たとは思ってたけど、いつの間に総白髪になってしまったんだ?
これじゃあお爺ちゃんじゃないか。高校生お爺ちゃんだよ。
『いや、悪くないと思うぞ。個性的で、魂が抜けたみたいじゃねぇーか』
「フォローになってない。別にいいさ、自分のビジュアルなんか気にしてないし」
『卑屈になるなよ、十分イケてるって。それに、」
「それに?」
『お前は怪獣を倒したんだ。その実績は誇るべきものだぜ。だから自信を持てって。実力を見せりゃあ金も女も選り取り見取りだぞ』
「お前の隊長を殺した実績でか?」
『ダイ、ヘールズ隊長はああするしか無かったんだ。それは俺も、多分隊長自身も納得している。だからお前も気にするな。申し訳ないと思って無いなら気にするんじゃない』
「申し訳ないとは思って無い。でもな、マックス。俺が人を殺した事実は変わらないだろ」
そうだ、俺は人を殺したんだ。それは歴然とした、殺人だ。
なのに罪悪感も後悔も無く、ただただ自爆した敵イングリッドにイライラしてる。そんな非人道的な自分にも苛立ちを覚えているんだ。
いつから俺は、そんな血も涙も無い下郎に成り下がったんだ? このプラントに来て、感覚が麻痺してしまったのか?
『気持ちは分からないでもないけどな。しかし歩兵機を乗り続けていくとなりゃ割り切るべきだ。そればかりは、避けては通れないぜ』
「割り切って、平気で人殺しができるようになれってか?」
『心配するな、お前はそんな戦闘マシーンにはならねぇーよ。苛立っているのが、その証拠さ』
……どう言う意味だよ?
『その苛立ちは、お前の自己嫌悪だ。罪悪感や後悔もいいが、自分のした事を省みているから自己嫌悪に陥っているんだ。それは十分人間らしい感情だろ』
取って付けたような屁理屈にしか聞こえないぞ、それ。
『だから、お前なら大丈夫だ。人の死を省みる事ができるお前なら、マシーンになんざならねぇーさ』
「……これから先も、そうとは限らないだろ」
『限るさ。断言したっていいぜ』
「根拠は?」
『馬鹿野郎、そんな事決まってるだろ。俺が選んだ相棒だからさ―――』
―――ブツッ。
切れてしまった。しかも結局根拠の無い事だけ言って。まぁそれも今更だけど。
ある意味羨ましいよ。マックスくらいに前向きな生き方ができたなら、俺もこんなに悩むことは無かっただろうし。
…………。
むしゃむしゃ……。
むしゃむしゃむしゃむしゃ……。
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ……。
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ……。
……ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる!!
「うっ! ……腹下した」
それからトイレに籠って出すもの全部出したら、幾分気分も落ち着いた。単純な男だな、俺って。
機体の修理も終わった。装備も整えたし、今回は食料の備蓄も1ヶ月分、切り詰めれは2ヶ月分保つだけ持って行く。
服も洗って置いた。怪獣戦で吐いた吐瀉物が付いたままじゃ嫌だし、ちゃんと洗濯しておいた。
高校からずっと着ていたカッターシャツと制服ズボン、高校戦から着の身着のままだ。歩兵機用のパイロットスーツと言うのもあるみたいだけど、よく分からないから止めておく。
準備は万全だ。あとはイングリッド改に乗って、上の階層に上がるだけ。
拠点の縦穴を使えば一気に怪獣のいる―――いや、怪獣がいた地下3階まで上がれる。今のイングリッド改なら片腕でもフックランチャーで引き上げられる。
イングリッドも随分パワーアップした。それに俺も、自分で言うのもあれだけど確かに成長したと思う。システム補助が半分になったのが確かな証拠だ。
そして地下3階に来た。何もない空間に怪獣の死骸はポツンとあるだけ。敵イングリッドは跡形も無く吹っ飛んでしまったし。
地下3階には中央に大きな柱がある。このだだっ広い空間に大きな柱があっても、あまり大きいとは感じられないけど。
あの柱が上に行く為のエレベーターだ。拠点に戻る前に確認した。地下3階にトンネル状の通路は下りしか無く、上りはあのエレベーター一択だ。
エレベーターの前まで来た。ちゃんと機能しているけど、歩兵機から見ても大きな扉は、しかし怪獣の巨体では到底入れない大きさだった。
怪獣は分解された状態でここで組み上げられたのだろうか。それからずっとここで怪獣として生きてきたのだろうか。
あの隊長は普通じゃない。おそらく怪獣からも、歩兵機からも出る事は叶わなかったんだろう。
一体いつから、ここで1人番人のように立ち尽くしていたのだろうか。一体彼らは、ここで何があってこんな事になったのだろうか。
「……いいさ、何れ分かる。取り敢えず地下2階かな」
意外な事にエレベーターは地上までの直通があった。でもマックスが見つかっていない以上、下から順に探して行かなきゃならない。
正直こんなプラントもう嫌だけど、マックスも見つけ出せず、それにまだ何も分かって無いのに出るのはもっと嫌だ。
だから、プラントを出る時は真相を明らかにしてからだ。そうしないと俺の気が済まない。まずは地下2階だ。
少なくとも前には進んでいる。必ず真相には辿り着いて行ける。このおかしなプラントや、マックス達の事、それに“敵”についても。
何れ明らかにしてやるさ。その後の事はその後で考えればいいんだ。
「どうせ、もう後には引けないんだし」
人殺しに手を出した俺に、今更家に帰るとかできやしないさ。だったらもう、行き着くところまで行ってやる。
その後はどんな転落人生になるのやら……いや、元々堕ちた人生だからな、割と歩兵機で成り上がれるかもしれない。何処かの勇者みたいに。
―――チィーン
地下2階に着いた。遂に怪獣より上の階層に来た。
ここから先、何が待ち受けているのか、マックスならワクワクするぜ、とでも言うのかな。
エレベーターの扉が開く。そしたら扉の先には、素晴らしい光景が広がっていた。
そこには見渡す限りの無人機、無人機、無人機、無人機、無人機、無人機、無人機、無人機、無人機、無人機、無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機無人機……無人機のオンパレードだぁ。
一目見ただけで数えるのも億劫になるような無人機の数々が、銃火器を構えて出迎えてくれた。マジかぁ……。
「ああくそっ、分かってたよ! こんな事になるだろうって最初から分かってたよ!! コンチクショー!!!」
「もうこのパターン慣れた……」
『慣れていいもんじゃない』




