第65話 運命の決戦、ダイvs怪獣……そして戦いは幕を閉じた。やっとか。
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―――ズドンッ!
あと一歩と言うところで、ダイは敵イングリッドの直撃をもらってしまったんだ。
イングリッド改の左目にな。
「ぐぅ……!」
ダイの生死に関わるような直撃では無かったが、しかしこれはかなりの痛手だ。
イングリッド改の目は……いや、歩兵機の目はメインカメラであると同時に照準センサーも並列設置されている。銃の狙いを合わせる照準センサーが。
それらが1度に破壊されたと言う事は視界に制限がかかるし、照準も精度が落ちる。特に左側に。
イングリッド改は右腕が肘から先が無い。左腕はあっても左目を壊されてはライフルを撃っても碌に当たらなくなる。
敵イングリッドは、ダイの反撃手段を封じて来やがったんだ。
「くっ……そぉー!」
それでもダイはライフルで応戦、フルオートで乱射しまくる。いくら狙いが定まり難くなったとは言え、連射力で力押しすれば優位に立てる。
こっちは弾数と威力で上回っているんだ。敵イングリッドの決定打はナイフだけ、ハンドガンは決定打にはなり得ない。
現に目を撃ち抜いたのが、その証拠だ。決定打になり得るなら、目ではなくコックピットのある胴体を撃ち抜けば良かった。
そうしなかったのはハンドガンではイングリッド改の外装を撃ち抜けないからだ。故に耐久性の低い目を狙った。そこくらいしか撃ち抜けないから。
それに比べてこっちは何処に当てても撃ち抜けるライフルだ。間合いも広げたし、このまま接近させなければ勝てるかもしれない。
だが、ダイの射撃にはまだ躊躇いが残っていた。
ライフルを撃つ度に過ぎる眼帯野郎の破壊された頭のビジョンを必死に振り払ってはいるが、それでも本調子にはなれていない。
そしてそんなダイに接近するのは、敵イングリッドには容易い事だった。ジグザグの軌道でライフルの連射を躱し、軽々と接近を許してしまう。
ナイフが来る、と思ったら敵イングリッドは何故かスライディングを仕掛けてきた。
「っ!?」
思わぬスライディングでダイは咄嗟にジャンプで跳び越えたが、その時既に敵イングリッドはハンドガンで狙っていた。自身を跳び越えたイングリッド改の背中を。
背中? 何故背中を……あっ、
「ヤ、ヤバっ!」
ヤバい、敵イングリッドの狙いは―――手榴弾帯ベルトの残弾だ!
手榴弾帯ベルトにはまだ手榴弾が幾つか残っている。手元に近い正面側から使ってきたから、背中側に残弾が集中している。敵イングリッドはそれを狙ってるんだ。
残り少ないと言っても、これを撃ち抜かれて連鎖爆発を起こしたら……イングリッド改は木っ端微塵じゃないか!?
「ぐぅおおおおお!」
ダイはライフルを捨てて手榴弾帯ベルトを肩から外し、即座に捨てる。
その直後に手榴弾帯ベルトは撃ち抜かれ、爆発した。残弾全ての爆発力にダイは堪らず吹っ飛ばされる。
「うぎゃぁー!」
床に叩きつけられるも直ぐに受け身を取って立ち上がった。しかしそこへ敵イングリッドはまた発砲する、今度は右目を狙って。
それを頭を捻ってギリギリ回避、頭部を掠ったがイングリッド改の右目は死守できた。
しかしそれによってダイは敵イングリッドから目を離していた。奴はそれを見計らっていたらしく、逆手に構えたナイフが一閃される。
上体を仰け反らして躱すも、左脇腹から右肩にかけて浅く切られてしまった。
更に敵イングリッドは立て続けに右手でハンドガンを握ったまま、鉄鎚のように拳を振り落としてきた。所謂アームハンマーだ。
「がはっ!?」
銃撃に斬撃ときてアームハンマーの打撃。一連の動作に全く無駄が無く、最後は躱し切れずにダイはまたも床に叩きつけられてしまった。
しかも、吐いた。アームハンマーの衝撃はダイ自身にも襲ってきて、まるで巨大な鉄球でもぶつけられたかのようなダメージにダイは嘔吐してしまったんだ。
そして意識も朦朧とするが、ナイフを容赦なく突き立てようとする敵イングリッドを見て、すんでのところで持ち堪えた。
「うっ……がぁー!!」
ダイも収納ラックからナイフを抜き、振り落とされたナイフを受け止める。そして敵イングリッドを蹴り飛ばした。
後方に飛ばされた敵イングリッドは受け身を取って、再びハンドガンを構える。また撃ってくるつもりか?
いや、撃って来なかった。と言うより……撃てなかった?
「弾切れ!?」
弾切れか? いや、弾切れだ。
何度も撃つ素振りを見せているのに弾が出てこない。つまり、弾切れだ。
すると敵イングリッドはハンドガンを捨ててナイフだけで挑んできた。お互いナイフ1本の勝負に変わったが、しかし右腕が無いダイの方が不利な事に変わりはない。
それに技量も、ダイの技量では奴に太刀打ちできない―――
「だぁあああああああああああああああ!!」
いや、太刀打ちできた。ダイは敵イングリッドの近接格闘術に反応できていた。
防戦一方で、しかも全てを捌き切れてはいないが、致命傷になりそうな攻撃は的確に防ぎ、払っている。敵イングリッドの動きに、食らいついているんだ。
信じられない事だが、ダイはここに来てまた成長を遂げている。敵イングリッドの動きに、速さに、技量に、追いついていやがる。
なまじ同じ機種のイングリッドだからか、どう動くか、どう動けるか、とかが分かり易いんだ。今まで戦ってきた人外型の無人機と違って。
しかも、ダイは敵イングリッドの動きを真似てやがる。技量差は埋められないが、その独特の近接格闘術を真似ることで、相手の攻撃に対抗できているんだ。
本来不意打ちやら策やらで徹底していたダイが、ここに来て実力を見せやがった。やはり追い詰められた時がダイの真骨頂だぜ。
しかし、このままじゃ何れやられる。技量は向こうが上で、じりじりと追い詰められているんだからな。
何か、逆転の一手が必要だ。何かないか? 床に散らばってる武器か何かで―――床?
「……え?」
その時ダイも気付いた、足元の床にある紐のような何かに。
それは、ワイヤーだ。しかも何故か動いている、まるで生きた蛇のように。
いや、それは巻き取られているんだ。床のワイヤーは敵イングリッドが右腕のフックランチャーから伸ばした物で、奴は今それを戦いながら巻き取っていた。
そしてワイヤーが全て巻き取られると、先端のフックが掴んでいたハンドガンが手元に戻って来た。捨てた筈のハンドガンが。
「―――っ!?」
―――っ!?
まさか、フェイントだと!? 避けろ、ダイ!
いや、もう遅い。敵イングリッドは手に戻したハンドガンを発砲、放たれた弾丸がイングリッド改の胴体の傷跡に命中した。
ナイフで浅く切られた外装の、最も弱くなった傷跡に。
「――――――!!」
声にならない悲鳴が上がる。ハンドガンの弾丸は胴体を貫通し、中にいるダイの頭をギリギリ通り過ぎた。
弾丸が通り過ぎ、機体が内部まで破壊される衝撃に、ダイは意識を失いかけた。無理もない、と言うかフェイントまで使われるのか。
奴は弾切れを装ってわざとハンドガンを捨てたんだ。フックランチャーでいつでも回収できるようにしておいて。
そうして飛び道具が無くなったように見せかけてから隙をついて奇襲を仕掛ける。ダイの領分みたいな技を、まさか相手に使われる事になるとは。
それに奴もこれで決まるとは思っていない。続け様にナイフの斬撃を仕掛けてきた。
でもダイは意識を失いかけている。駄目だダイ、持ち堪えろ!
「―――っ」
持ち堪えた。気力を振り絞って後ろに飛び退いた。
しかしナイフの刃はイングリッド改の胴体を裂き、コックピットにまで達する。またもギリギリでダイ自身には達し無かったが、あと少し深く切られていたら終わっていただろう。
だが敵イングリッドは更に追撃を仕掛けてくる。飛び退いたダイにラガーマンばりのタックルを叩き込んで来やがった。
「ぐはっ!」
タックルをくらって再三に渡り床に叩きつけられるダイ。しかも今度は敵イングリッドがダイのイングリッド改に乗っかってきた。
膝でイングリッド改の胴体を抑え、今度こそハンドガンを捨てた右手でイングリッド改の左腕を押さえ付けて、完全に動けないように拘束する。
そして右手には、逆手に構えたナイフを振り下ろそうとしていた。
「うっ……うわぁあああああ!!」
咄嗟に鎖骨部位のレーザーCIWSを乱射したが、そんなものでイングリッドの外装は撃ち抜けない。
そして止めを刺そうとする敵イングリッドに躊躇は無かった。今まさに胸のコックピットにいるダイ目掛けて、ナイフを振り下ろしてきた。
ダメだ。今度こそ……今度こそ本当にダメだ。
すまねぇ……ダイ。
―――ズドォオオオオオン!!
「なっ!?」
なっ!?
爆発した!?
敵イングリッドが、奴の背中が爆発した!?
銃やミサイルで撃たれたとかじゃ無い、あれは歩兵機自体が爆発したんだ。
アクシデントか、それとも高機能の代償だったのか、何れにしてもこの機を逃してはならない。
敵イングリッドは爆発してナイフを振り下ろす手も止まり、更にはダイを押さえ付ける拘束も緩めてしまう。
この瞬間にダイは全力で敵イングリッドに頭突きをくらわせ、体勢が崩れたところで思いっ切り蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた敵イングリッドは受け身も取らず吹っ飛ばされてしまい、機体から炎を上げたまま倒れてしまう。
立ち上がろうとするも突然と足元がおぼつかなくなり、まるで生まれたての小鹿みたいに立ち上がるのもままならない様子だ。
今なら勝てる。例え中の人間を殺さずとも、機体の手足を破壊して戦闘不能状態にできる。
人殺しに躊躇いがあるダイでも、今ならば。
「……いや、殺す」
しかしダイは、もう躊躇いを捨てていた。
あの瞬間、殺されそうになったあの瞬間で、おそらくダイは1度死んだんだ。
精神的にも、肉体的にも、ダイは1度死んだ。実際あの時のショックで1度心臓が止まっていたし、髪の色も全て抜け落ちて真っ白になってるしな。
そして蘇った。死地の中から復活したダイは最早一端の兵士では無く、正真正銘の兵士として生まれ変わったんだ。
もう今のダイに躊躇いも無い。闘志を秘めた鋭い眼光には、青い炎が燃え盛っているようでもあった。
まるで歴戦の兵士のように、生まれ変わったダイは己の闘志を以って、奴を殺す覚悟を決めたんだ。
「もう俺は躊躇わない。堂々と生きると、そう決めた。だから……お前を殺す!」
そしてダイはナイフを捨て、床に散らばる武器の中からショットガンを見つけ、フックランチャーで掴み引き寄せて手に取った。
そして撃つ。漸く立ち上がった敵イングリッドに、一切の躊躇いを捨てたダイが容赦の無い一撃を放つ。
左目を破壊されて照準がおぼつかないイングリッド改だが、ショットガンの散弾なら多少狙いがずれても問題無い。弾は広範囲に広がるんだからな。
しかし距離があった。この距離でショットガンの散弾ではダメージが弱く、敵イングリッドは仰け反っただけで致命傷には至っていない。
ならばと、ダイは左手をグリップからポンプアクションのハンドグリップに持ち替えて、腕のスナップでリロードする同時にグリップに持ち直して発砲した。
今度は大きく一歩前に出て、距離を詰めてな。それでもまだ距離があると再び持ち替えリロードで一歩前に出て発砲する。
まるで大道芸だ。この持ち替えリロードはシステム補助の範囲外にある、完全にダイだけの技術で行われていた。
右腕が無いイングリッド改でショットガンは無謀だというのに、ダイはそれを物ともせず己の技術だけで連射を可能としているんだ。
それが何度も繰り返されて、遂に破壊できるかと言う距離まで差し迫ったところで―――敵イングリッドは動いた。
バッと右手の掌を突き出して、まるで『待て』と言うジェスチャーを送るように。
「何?」
ダイもそこで銃撃を止めた。敵イングリッドが何故掌を突き出したのかが分からなかったからだ。
まさか本当に『待て』と言う訳ではないだろうと思っていたんだが、どうやらそれは当たりみたいだ。敵イングリッドは『待て』のジェスチャーのまま、腹部から何かを取り出したからな。
それはジェネレーターだ。イングリッドの動力源であるジェネレーターを取り出したんだ。
敵イングリッドは取り出したジェネレーターを床に置くと、ダイの元へ滑らせた。
何のつもりか? ダイに受け取ってくれとでも言うつもりか?
突然に敵イングリッドの奇行にダイも戸惑いを隠せなかった。このジェネレーターに何の意味があるのだと言うのか。
分からない。ダイは敵イングリッドの行動の意味が分からず、ジェネレーターから再び敵イングリッドに目を向けると―――奴は手榴弾を手に取っていた。
「っ!? しまった!」
いつの間にか拾っていた手榴弾は、既に安全装置は取り払われていた。完全に不意をつかれた形だ。
しかしそれでもダイの方が速い。ショットガンの銃口はずっと向けたままだし、リロードも終わってる。
あとはトリガーを引くだけ。近距離まで近付いたショットガンの散弾は敵イングリッドを襲い、更に後方へと吹っ飛ばした。
手に持っていた手榴弾が爆発したのは、その直後だ。
手元で爆発した手榴弾は敵イングリッドを飲み込み、その機体を跡形も無く破壊した。
倒したんだ、怪獣―――もとい敵イングリッドを。そして殺したんだ、初めて人を。
しかし最後のあの瞬間、敵イングリッドに敵意は見られなかった。何故だろうか、凄く穏やかに見えた気がした。
きっとあの手榴弾は自害する為の物なのだろう。ダイを攻撃するのではなく、自らを破壊する為に使おうとしたんだ。
死に際は潔く散る。それが奴の……いや、あの人の流儀だったからな。
最後の最期で、あの人は兵士の信念を取り戻そうとしたんだ。だから自らの手で決着をつけた。
自らが掲げてきた信念を、せめて最期だけは護り通そうとした。その信念の偉大さを、改めて思い知らされたぜ。
やっぱあんたはスゲェーよ、ヘールズ隊長。
怪獣観察日記その10
遂に敵イングリッドを倒しました。
滅茶苦茶強かったけど、何とか倒しました。
そして、初めて人を殺しました。
お終い。
『……最後なのに後味の悪いなぁ』




