第64話 運命の決戦、ダイvs怪獣……第ニ形態があるのはボスキャラの常識。非常識だよ!
システム補助51%
波動砲。
青紫色の揺らめく光を灯した、実体の無い弾を撃ち出す兵器。かつてダイのイングリッドにも、それは搭載されていた。
はっきり言って原理とか構造とかは全く分からないんだけどな。分かってる事と言えば、波動砲は電気エネルギーさえあれば幾らでも撃つ事ができて、それでいて普通の銃火器よりも遥かに強力であると言う事。
最初の頃はイングリッドの波動砲に頼りっきりだったダイだが、波動砲を失ってからは怪獣を始めとした無人機に使われて受ける側となり、まぁ地獄を見たものさ。
その間、3ヶ月。ダイは波動砲を失ってから3ヶ月にして、遂に波動砲を取り戻したんだ。
もちろん、最初の砲腕に付いていた波動砲じゃない。あれは粉々に潰れてしまって、もう修理しようも無いからな。
だからダイは、別のところから波動砲を調達したんだ。
地下5階にいた恐竜。奴らの口の中にあった波動砲を、ダイは自らの整備技術で手持ち火器へと改造して、装備したのさ。
波動砲の仕組みは完全にブラックボックス化されていて、流石のダイでも波動砲そのものをいじる事は出来なかったが。
だから、恐竜の頭から波動砲を丸ごと取り出して、グリップとトリガーを取り付けて手持ち火器となるようにだけ改造したんだ。それだけでも相当な手間だったけどな。
そうして手に入れた新しい波動砲を、ダイはイングリッド改に装備させて、今まさにそれを撃ったんだ。
怪獣が胸の外装を開いて、クレイモア地雷を放つ直前。この瞬間を狙ってな。
外装が開いたと言う事は、そこは波動装甲で守られていないと言う事。ダイの波動砲を当てるなら、そこしかない。
あとは威力の問題。至近距離で放たれるクレイモア地雷の散弾と、恐竜仕様から改造した波動砲。両者がぶつかればどうなるか―――結果は言うまでもない。
―――ズドシャァアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
雨のように無数に降り注ぐ散弾に逃げ場は無かったが所詮は実弾、波動兵器には敵わないだろ。
ダイが放った波動砲の波動弾は、クレイモア地雷の散弾を蹴散らして一直線に飛び、開きっぱなしになった怪獣の胸に直撃して大爆発を起こしたんだ。
おそらくはクレイモア地雷の残弾が破裂して誘爆を引き起こしたのだろう。凄まじい爆煙に視界が覆い隠されてしまった。
煙が晴れると、ダイはまず最初にイングリッド改の様子を確認する。
イングリッド改は当然無事だ。散弾は波動弾に蹴散らされて、イングリッド改の周囲だけには降り注がれなかった。まるで台風の目の中にいるかのようにな。
しかし、ならば五体満足で無事だったかと問われれば、そうはいかない。残念ながらイングリッド改は右腕が無くなっていたんだ。
端的に言うと、外れたの悲劇だ。波動砲の反動に耐えられず、右腕が肘から先が外れてしまっていた。
「はぁ、はぁ、やっぱダメだったかぁ」
息を整えながら右腕の様子を確認する。幸い肩までは外れていない。四本脚の肩だからな、ジョイント機構から改造したから簡単には外れないさ。
だが肘はそうはいかなかった。肘は元のイングリッドのままだからな、外れても仕方ない。
それでも利き腕を失ったのは大きな痛手だ。これで怪獣が生きてるなんて事態だけは勘弁してくれよ。
「……やった?」
爆煙の中から見えてきたのは、完全に死骸と化した怪獣だった。
脚を破壊されて床に座り込んだ怪獣は、尻尾も左腕も無く、右腕はダランと垂れ下がっていて、そして頭も無い―――いや、頭どころじゃない。
胸を中心に大きく抉れていて、そこから上が丸々無くなっていたんだ。
頭も首も、鎖骨部位に至るまで抉り取られたかのように無くなっている。これはどう見ても大破だ、それ以外には考えられない。
やったんだ。ダイは、怪獣を倒したんだ。
「やった……本当にやったのか? 俺が……俺がやった?」
ああ、そうだ。やったんだよ、ダイ。
お前が、お前だけの能力だけで、やり遂げたんだ。
この馬鹿げた性能の歩兵機、怪獣をな。
「はは……はははは…………やったんだ……遂に……遂にやったぞぉぉぉぉぉ!!」
堪らずダイはその場でガッツポーズした。
余程怪獣を倒せた事が嬉しいんだろうな。分かるけども。
「やったぁー! やったやったやったやったやったぁぁぁぁぁ! 倒したぁー! 怪獣を倒したぞぉー!! 遂に倒したんだぞぉー!!! 見たかぁ、マックスゥー!!?」
ああ、見てた。ずっと見てたよ。
このプラントに来てからダイには驚かされてばかりだったけどな。しかし今日ほどビックリさせられた事は無かったぜ。
怪獣を倒したのもそうだが、しかしそこに至る経緯も凄い。
音速手榴弾に俊足ダッシュ、それを可能とする整備技術に操縦技術、他にも色々なものを身につけてダイはここまで来た。失ったものもあったけど……。
正直、俺もダイがここまでやるとは思わなかったな。
焚き付けた俺が言うのも何だが、ダイに勝ち目は無かった。最初から120%負ける戦いだったんだ。
だから、そんな負け戦で勝利を収めたのはダイの成長の証であり、同時に奇跡でもあったのだろう。
よくやったな、ダイ。
「俺はっ! 俺は怪獣を!! 倒したぞぉおおおおお―――」
―――プシュゥゥゥ。
「―――お?」
―――お?
え? 何だ? 何がプシュゥゥゥ、なんだ?
「お、おえ、え? ええ? いや、まさか……」
まさか……いやでも、まさかそんな事って……ええ? ええええええ!?
「腹が開いてる!?」
腹が、怪獣の唯一無事だった腹部が、開いてるだと!?
「まさか、まさかまさか……怪獣はっ―――」
……そうだ、思い返してみれば不自然なところはあった。でも怪獣とまともに戦ったのは、実質これが初めてだったから。
だから、気付けなかった。怪獣の違和感に。
怪獣は凶悪的な武装の数々で一方的な戦いを強いてきたが、しかしその戦いの端々で得体の知れない違和感を、俺もダイもずっと感じ取っていたんだ。
四本脚や大頭無し、恐竜と戦ってきた時とは違う明らかな、しかし実体の掴めないような、そんな感じの違和感が、今にして漸く分かってしまった。
怪獣には完全さが無い。無人機独自の徹底したマニュアル通りの戦い方に、怪獣はそんな完全さを欠いた隙があったんだ。
無人機としての、完全さが。それが怪獣には、無い。
つまり―――
「怪獣はっ―――有人機だったのか!?」
それが答えだ。目の前で開いた腹の中から出てきた歩兵機を見て、その推理が正解であると証明していた。
目の前に出てきた歩兵機、イングリッドが。
イングリッドだ。紛れもなく、それはイングリッドだった。怪獣の腹の中から出て来て、悠然と現れたそれは、ごく普通のイングリッドに他ならなかったんだ。
ただし、プラント内にあるグレーのメタリックカラーではない。白銀をベースに紫のアクセントをあしらったサイキックカラーの、イングリッドだ。
それは即ち、ダイのイングリッドの最初のカラーリングと全く一緒だったと言う事。
右肩に波動砲の砲腕こそ無かったが、でも何故だか確信がある。これはダイのイングリッドと、同じ系統の歩兵機なのだと。
そして同じ系統だからと言って、仲良くなれる筈も無い。そもそもコイツとは、今さっきまで仁義なき殺し合いを繰り広げていたんだ。
それで戦い合った末に友情が生まれるとか、そんなドラマチックな展開は無い。現に眼前のイングリッドは、武器を手にしたんだからな。
背中や腰に懸架した武装は何も無く、パッと見は丸腰状態だったが、しかし敵イングリッドは左右の大腿部にある収納ラックから武器を取り出して、それを両手に装備しやがったんだ。
[PX320 25mmハンドガン]
[ペインNo.3 ハードナイフ]
ダイが持ってるのと同じナイフに、四本脚のガトリングガンと同口径のハンドガン。決して強力な武器では無い。寧ろ心許ないくらいだろう。
だが、そんな装備だけでも敵イングリッドには十分なのだと、ダイは察していた。
右手にハンドガン、左手にナイフを装備して、中腰の姿勢で両腕を交差した独特の構え方は、ダイの素人目にも様になっていたからだ。
そして俺は、そこ独特な構え方を知っていた。信じ難いことだが、もしかしたらあの敵イングリッドは―――
「……来る!?」
俺の苦悩を他所に、敵イングリッドは仕掛けて来た。それも物凄い勢いで。
しかも敵イングリッドから発せられる並々ならないプレッシャーに、ダイは完全に引け腰となっていたし。
「うわっ!」
何とか最初のナイフ斬撃を躱したが、敵イングリッドはそのまま独特の近接格闘術で接近戦に持ち込もうとする。
あの近接格闘術はダイでは対処できない。距離を取って銃撃戦に挑むのが賢明だ。取り敢えずライフルを手に取ろうとしたが、
「っ!? しまった!」
うっかり利き腕の右手で取ろうとしてしまった。右手はもう無いと言うのに。
そして敵イングリッドはそんな隙を見逃さなかった。更に接近して拳銃を発砲、躱す事はできたが怯みはして、その隙を突くようにナイフの斬撃を仕掛けてくる。
胴体を掠めたが、これも何とか躱した。とんでもない戦闘技術だ、ダイが手も足も出ないぞ。
目で追うのがやっとな程の俊敏な動きに、一切の無駄が無い超効率的な戦術の型、やはり無人機とは違う。
敵イングリッドは怪獣の時とは打って変わって性能差で攻めるのではなく、パイロットの技術と戦術でダイを圧倒していやがった。
「くそっ!」
ダイは手榴弾を1つ転がし、レーザーを当てて起爆させる。
流石に敵イングリッドも意表をつかれたか、今の爆撃で怯みやがった。ダイはこの隙に距離を取って今度こそライフルを、左手に取った。
「よし、これで……う、うわぁー!?」
ライフルを取ったはいいが、しかし敵イングリッドは距離を離さなかった。爆撃に怯みがらも、即座にダイの懐へ潜り込もうとする。
離れようにもピッタリくっついて来て離れようとしない。ダイのイングリッド改の俊足ダッシュを以ってしてもだ。
それで漸く気付いた。この敵イングリッドの性能は普通では無い。ダイのイングリッド改に匹敵するポテンシャルを秘めているんだ。
機体の性能差はほぼ互角、だとしたらパイロットの力量差で勝敗は決まる。
無理だ、ダイでは奴に勝てない。
かと言って今更逃げる事もできない。やはりどうにかして距離をとって、それから銃撃戦に徹底するしかないだろ。
「コ、コイツ! 滅茶苦茶速い……っ!?」
そんな敵イングリッドの攻撃を躱す中でダイの目に、足元に転がる武器が映ってしまった。
武器だ。ゲッコーバイクに持って来させた武器が、床の至る所に散らばっている。怪獣を倒す為にダイが使うつもりで床にばら撒いたんだ。怪獣にはこんな武器、使いようが無いから。
だが今は違う。怪獣の着ぐるみを脱ぎ去った敵イングリッドなら、何ら制限無く使う事ができる。寧ろ武装に乏しい奴に大きなアドバンテージを与えてしまうんじゃないか。
怪獣を倒す為に弄した策が、ここに来て仇となりやがっただと。
「うっ……うがぁー!」
ダイは前に出た。前に出て、ライフルで応戦する。
距離を取ってはダメだ。距離を取っては、敵イングリッドに武器を拾う隙を与えてしまう。そんな事になれば詰みだ。
そうならないように、今は奴の戦闘スタイルに乗って接近戦で戦うしか無い。あの近接格闘術に張り合うのは骨が折れるが、四の五の言ってられねぇー。
だが、反撃する隙もねぇー。敵イングリッドはハンドガンにナイフ、威力に乏しいとは言え接近戦には御誂え向きの装備だ。
対するダイは長銃のライフル、フルオート連射できると言っても接近戦では使い難い。距離は取らないにしても、何とか間合いを広げたいところか。
「くっ!」
ここで再びハンドガンが火を吹く。これも躱したが右脚を掠めてしまい、ダイはたじろいでしまった。
それを狙ってたとばかりにナイフが迫る。これは……躱せない!?
「まだだ!」
ダイは迫り来るナイフを腕の籠手でガードした。出っ腹の外装を流用した籠手だ、そんなナイフでは通らないさ。
敵イングリッドもこれは予想外だったらしく、ガードしてナイフが弾かれた事に僅かな動揺を見せた。
それは確かな隙だ。ダイはスッと跳び退いて間合いを広げ、同時にライフルの照準を定めて撃―――
「―――うっ」
撃てなかった。直前になってダイは敵イングリッドを撃つ事を、躊躇ってしまった。
撃とうとした直前、眼帯野郎の破壊された頭が脳裏を過ぎったからだ。
相手は無人機じゃない、人が乗っている。敵を倒すと言う事は、即ち相手を殺すと言う事。あの眼帯野郎みたいに命を奪う事になるんだ。
長く実戦を経験してきたダイは、その事を重く受け止めていた。結果として眼帯野郎を死に追いやってしまったから、その意味を良く分かっているんだ。
だから撃てなかった。眼帯野郎は間接的にだが、今度は違う。今撃てば直接ダイの手で、あの敵イングリッドの命を奪う事になるから、だから撃てなかった。
そして、ダイの躊躇を敵イングリッドも見逃さない。
すかさずハンドガンを向け、即座に発砲。躊躇していたダイに回避するだけの精神的余裕は無く、ハンドガンの銃弾はダイのイングリッド改に呆気なく命中した。
あと一歩と言うところで、ダイは敵イングリッドの直撃をもらってしまったんだ。
怪獣観察日記その9
遂に怪獣を倒しました。
でも怪獣の腹の中から、本体の歩兵機が出てきました。
それも人が乗っているイングリッドでした。
波動砲は無かったけど、イングリッド改に匹敵する性能でした。
右手にハンドガンと左手にナイフを持った独特の構え方は、とても様になってました。
技量で圧倒されて、また死にそうです。
あとマックスは、敵のパイロットの事を知ってるようでした。
お終い。
『……俺は知らないぞ。何にも知らないぞ。………………嘘だけど』




