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第60分のD話 百合っ子ちゃんは考える……百合ですが、何か?

ミサキ視点

 乗り物が好きだった私は、バイクの免許を取得した。原付だけど。


 50ccまでのバイクに乗る事を許された免許証には、宗谷(むねたに)美咲(みさき)と私の名前が記されている。これで漸く、バイクに乗る事ができるわ。


 学校が自習続きになって部活動も活動停止になった私は、やる事が無くてむしゃくしゃしていたから前々から取ろうと思っていた免許を思い切って取る事にしたのよ。


 でも私がむしゃくしゃしてたのには他に理由があるわ。3ヶ月前、私の通う学校で巨大なロボット同士が戦うと言うあり得ない事件が起きたのだからね。


 そしてそのロボットの片方に乗っていたのは、私の幼馴染でクラスメートの最上(もがみ)ダイ君だった。私の事が好きだったみたいだけど、私にとっては目の上のたんこぶでしかない男の子よ。


 昔から最底辺に陥って周りから虐められていたバカな男の子。小学生まではなるべく助けてあげたけれど、中学からはそれも止めるようにした。私にだって立場と言うのがあるもの、仕方が無いでしょ。


 だからもう関わらないようにしていたけど、それで暫く関わらないようにしていたら最上君がロボットに乗って戦っていた。


 その瞬間、私は雷に打たれたよな気分だったわ。私が見捨てた男の子がどこの主人公になってんのよって感じでね。


 しかもその最上君は事件を起こす一昨日の放課後、私が目をかけていた日向(ひなた)ハヤセと一緒に下校していたのよ。一体私の知らない所で何をしていたと言うの、最上君は?


 そしてその事件の後、最上君は連れ去れていったわ。その後で警察が来て事情聴取を受けて、結局最上君は失踪扱いとなってしまったのだけれど。


 しかも問い詰めた日向はその1週間後にハワイへ留学したって言うし。心のケアの為だとか言ってたけど、あれは絶対逃げただけよ。


 本当にむしゃくしゃするわ。最上君はいつの間にかロボットに乗っていたし、日向とも知らない内に親しくなっていたし、そして2人とも何も言わずにいなくなるし。私だけ蚊帳の外ってどう言う事よ!


 文句を言おうにも2人ともいないなってしまったし、私の苛立ちはどうにも治らないわ。


 父親が防衛省の事務次官だって言う荒崎君にも話を聞いてみたけれど、荒崎君は本当に何も知らないみたいね。それでも最上君を虐めてた主犯の沖野君は、未だに問い詰めているみたいだけど。


 あの事件以来、学校は居心地が悪くて堪らなくなったわ。警察が来て色々明るみに出てしまって、それで今は廃校寸前まで追い込まれているのよ。


 一体どれだけの悪事を働いたのかしら、この学校の大人たちは?


 もう転校しちゃおうかしら。これ以上この学校に留まっても意味ないし、両親も転校を進めていたからその方がいいんだけども。


 しかしそれだと私まで逃げ出したみたいに思われるから、それは嫌だなぁとも思うし。


 だから私はむしゃくしゃした気分を抱えたまま早退したわ。午前中だけ出てれば出席日数なんて大丈夫だもの。今の廃校寸前になったこの学校ならね。


 それから家に帰って、お母さんの原付きバイクを借りて走りに出たわ。そうでもしないとむしゃくしゃしてどうにかなりそうなのよ。


 田舎町だと猛スピードで走ってもあまり困らないから嬉しいのよね。いくらでも走っていられるわ。


 走っていられれば目的地なんてどこでもよかったのだけど、一頻(ひとしき)り走っていたら自然と駅前の商店街に来ていた。


 商店街はこの田舎町で最も人通りが多くて活気にあふれているけれど、でも今は少し異様な光景に変わっていたわ。


 商店街の真ん中で、必死でビラを配りながら道行く人々に弟の事を聞いて回っている痛々しい人がいるからよ。


 最上(もがみ)高嶺(たかね)さん。失踪した最上君の姉で、最上君が失踪してからずっと行方を探しているの。とても弟想いの優しいお姉さんだわ。


 最上君が失踪した日も私に会いに来たわよ。最上君がどうなったのかを必死になって聞いてきて、まるで身を引き裂かれたかのような悲痛の表情は今でも忘れられない。


 それを思い出す度に、私は同情すると同時にむしゃくしゃしたわ。


 学校で被害にあったのは最上君だけじゃない、私だって被害者なのよ。なのに高嶺さんは私の事は何一つ聞かず、最上君の事ばかり聞いてくるのだもの。


 そんなに最上君の事が大事なの? 実の弟と言うだけで、私よりもそんなに心配する事なの?


 そんな私の苛立ちを余所に、それから高嶺さんは今のようにビラを作成しては毎日のように人に手渡して最上君の行方を探している。バイトも辞めて、大学も(おろそ)かにしてまで。


 私が同じように失踪したら、高嶺さんはあんな風に探してくれるのかしらと考えたけど、逆の立場になったら私はあそこまで探さないと思うわ。


 それが普通よ。だから高嶺さんがあそこまで必死になって最上君の事を探している姿が、とても痛々しくて苛立たしくて、見ていられなかったから。


 だから―――別れる事にしたわ。高嶺さんとの関係は、もう終わってしまったの。


 ……ええ。百合ですが、何か?


 高嶺さんとは昔から幼馴染以上の間柄だったもの。はっきりと交際し出したのは、私が高校1年の秋ぐらいからだけど。


 でもそれよずっと前から、私は高嶺さんの事を意識していたのだと思う。我ながらおかしな恋愛思考だとは思うけれども。


 中学の頃からはっきりと分かったわ。私が高嶺さんに惹かれていた事、私は男子に興味が持てないと言う事も。


 中学の頃に何度か男子から告白された経験がある私だけど、興味が持てない私はずっと断ってきたわ。中には女子の間で大人気の男子もいたみたいだけど、全然惜しいとも思わなかったわね。


 この高校に進学したのも高嶺さんがここにいたから。でも高嶺さんが入れ替わりに大学に行ってから会う機会も殆ど無くなって、それで私は思い切って高嶺さんに告白したの。


 人生初の大告白だったわ。しかも百合告白だもの。ただ断られるだけならまだしも、引かれたらもう死ぬしか無いと思ったわね。


 だから高嶺さんが私を受け入れてくれた時は本当に嬉しかった。私の人生は一気に薔薇色に変わったわ。


 学校の皆んなには恋人ができたとだけ言って相手が同じ女性である事は伏せておいた。そのせいか勝手に彼氏持ちみたいに持てはやされたけど、本当の事は言えないからそう言う事にしておいたの。


 それからは幸せな毎日を送っていたわ。学校の皆んなには内緒で恋人関係を満喫していたもの。


 ずっとこの時間が続けばいいと思ったわ。私が高嶺さんの大学に進学したら、より一層に幸せでいられると期待もしたわ。


 けれど、最上君が失踪して私の幸せはあっという間に打ち砕かれしまったのよ。


 高嶺さんは最上君の捜索に奮闘して、私の事は(ないがし)ろにするばかり。それを見て高嶺さんに対する私の存在価値がどれ程のものだったのかが分かった気がして、だからもう別れるしかなかった。


 結局、高嶺さんは私に気を遣って付き合ってくれていただけなんだって、そう分かってしまったから。


 そりゃそうよね。ずっと交流があった高嶺さんだけど、同性恋愛趣味がある様子なんて全く無かったもの。


 でも本当はそれでもよかった。気を遣ってくれてるだけだと分かっていても、高嶺さんと一緒にいられるならそれでいいと思っていたわ。


 高嶺さんが、あそこまで最上君に固執していなかったら、別れようなんて思わなかったもの。


 でも、もう止めましょう。未練がましく付きまとうなんて私らしくないわ。


 高嶺さんの事は、今日限り忘れるのよ。今日限り……本当に今日限り、忘れるの。






 それからどこへともなくバイクを走らせていたけれど、頭の中では未だ高嶺さんの事を忘れられないでいる。


 自分がこんなにも未練がましい女だったと思うと嫌になるわ。それでもあの日見た高嶺さんの顔は脳裏に焼き付いて離れられないのだけれど。


 あの日、最上君が失踪した日、私の所へ来て最上君に何があったのか必死に聞いてくる高嶺さんの顔は、今にも泣き崩れそうで、とても弱々しく儚げに見えた。


 普段はとても凛々しくて自信に満ち溢れた高嶺さんが、あんなに脆い一面を見せたのは後にも先にもその時だけだったわ。


 普段は見る事が出来ない高嶺さんの一面を見られた事に優越感みたいなものはあったのだけれど、高嶺さんの口から吐き出されるのは最上君の事ばかり。それがどうしても許せなくて、むしゃくしゃしたわ。


 ああ、でもそう言えば高嶺さん、日向の事も言ってたわね。最上君が失踪した日の翌日の事だったけれど、久しぶりに日向から連絡があったって。


 その日は日向の事も話題に出たけど、殆どは最上君の事ばかりで私は聞き流してばかりだったわ。


 日向かぁ。私が問い詰める前に逃げたけど、それもハワイに逃げたみたいだけど、結局日向は最上君とどう言う関係だったのかしら?


 あの2人はクラスの美化委員で、誰もやりたがらない仕事を押し付けられた最底辺の生徒だけども。でもそれ以上の関係は無いと思っていたのよ


 普段一緒にいる日向からそんな素振りは見られなかったし、何よりテニス部の私はいつも2人が別々で帰る姿を練習の最中に見ていたわ。


 日向と最上君が一緒に帰ったのは、後にも先にもあの事件が起こる2日前の時だけ。でもそれは、日向が失踪する前日でもあったけれど。


 考えてみれば日向も失踪していたのよね。直ぐに戻って来たから、プチ家出した程度の事だと思っていたのだけど。


 でも最上君がロボット事件を起こして失踪して、それで日向もあのロボット絡みで失踪したんじゃないかと思い至ったわ。もしそうなら、2人はあのロボットで繋がっていた筈よね。


 一体いつからそう言う関係になってたのかしら? 割と最近だとは思うけど、それにしたってむしゃくしゃするわ。


 日向は地味な子だけど、実は結構可愛いのよ。


 周りは誰も気付いていないけど、特に男子は皆んな地味だからって敬遠していたわ。本当にバカよね、男子って。


 でもその事は敢えて伏せておいて、日向には地味なままでいさせたわ。日向の可愛さを他の誰かに知られるのは何となく嫌だったもの。


 もちろん私には高嶺さんがいたけれど、浮ついた気持ちの1つや2つくらい誰にでもあるでしょ。


 でも最上君はどうだったのかしら? 一緒に美化清掃してたから気付いていたのかもしれないけど。でも日向は、女子として致命的な欠点があったのよね。


 日向は極度のロボットオタクだったの。それを知った時はゾッとするくらい引いたわ。


 いくら止めるように言っても全然止めないし、それが巨大ロボットに乗っていた最上君と何か通じるものがあったのかもしれない。


 つまるところ、私は日向まで最上君に取られてしまった訳よ。そう思うと尚更むしゃくしゃする……。


 あああああ、もうっ! 何なのよ、最上君は!!


 私の事が好きだったくせに私の好きなものを奪い取って、一体どう言うつもりなのよ! 新手の嫌がらせのつもりなの!?


 考えたら考える程むしゃくしゃするわ。気分転換に走りに出たけど、もうさっさと帰ろうかしら?


「……あっ、ヤバァー!」


 うっかりポケットからスマホが落ちてしまったわ。むしゃくしゃして身じろぎしてたら出てしまったのかしら?


 直ぐにバイクを停めて拾いに戻ったけど、時速50kmも出ていたバイクから落ちた割にスマホはほぼ無傷で済んでる。落ちた場所が草むらで助かったわ。


 ここは海岸沿いの崖の上。もうちょっと遠くに行ってたら崖の下に落ちていた事でしょうね。本当に助かったわ。


「―――あれ? こんなところに傘が落ちてるわ。誰のかしら?」


 見た感じ捨ててあるようには見えないけど。崖の(ふち)の老木に立て掛けてあるし、誰かが置いて行ったようね。


 でも何で傘なのかしら? 今日は雲一つない晴天の青空なのに。


 気になって拾って見ると、まあビックリしたわ。傘には名札が付いていて、それも私が知ってる名前だったから。


 [最上ダイ]


 それを見て大体予想はできた。この老木のある崖の下には小さな浜辺があって、隠れスポットとして地元では有名な場所だもの。


 遠回りすれば向こうから下に降りられるし、地元の人間ならよく下に降りたりするわ。


 特にうちの学校の不良グループは誰かをサンドバッグにするのによくこの場所を使っているし、最上君がこの下でそうなっていた様子も何度か見た事があるのよね。常に見なかった事にしてきたけど。


 多分この傘も、最上君がこの下でサンドバッグにされて、なんやかんやで忘れて行ったのね。最上君、結構抜けてたもの。


 でもこの傘はどうしようかしら? 拾ってしまった手前、元の場所に戻しておくのも気が引けるけど。でもわざわざ届けると言うのもねぇ。


 今は高嶺さんに会いたくないし、高嶺さんのお母さんは仕事に行ってるだろうから家には誰もいないでしょうけど、家の前に置いておこうかしら。


 でもこれ最上君のだから、案外その内に取りに戻ってくるかもしれないし……やっぱり元の場所に戻しておこうかしら。


 そうね、そうしましょ。ひょっとしたらもう取りに来てるかもしれないわ。それこそ、この崖の下からひょっこりと―――って、何あり得ない事言ってるのよ、私。


「でも、もしも戻って来る事があったら、流石にその時は優しくしてあげようかしら。むしゃくしゃするから1回くらいはひっぱたくけど……え?」


 何気なく崖の下を覗いて見たら、丁度真下の砂浜に―――いた!?


 え? うそっ! 本当に……いやでも、最上君じゃない!?


 ちょっと遠目で分かりにくいけど砂浜に、最上君じゃない誰かが倒れている。


 人が、人が倒れている!? それも打ち上げられたように!


「た、大変!」


 私は急いで迂回路を通って下に降りた。駆け寄ってみるとその人は全身がずぶ濡れになっていて、うつ伏せに倒れている。もしかしたら死んでるかも!?


 顔は見えないけど女の人だ。全身をバイク用のレザースーツみたいな服装で包んでいる。バイクで走っている最中に崖から落ちたの?


 何にしても早く何とかしないと。こう言う時って、直ぐに救急車を呼ぶべきかしら?


 それとも先に意識があるかどうかの確認? ええっと……取り敢えず、呼びかけてみないと。


「あの、大丈夫です……っ!」


 仰向けに寝かせて意識の確認をしようとした私だけれど、その女性の顔を見て言葉を無くしてしまったわ。


 だってその女性、すっごく美人だったんだもの。


 水に濡れて滴る綺麗なプラチナブロンドのサラサラ髪に、シミそばかす1つ無いきめ細かな白い肌、完全に調和された鼻梁(びりょう)に艶のある唇、頬から顎のラインまで見事に完成され尽くした、言葉にならない超絶美人の女性(ひと)


 まるでこの世のものとは思えない美しさは、どこか神々しくて神秘的ですらあったの。その美しさに見惚れてしまって私は暫く、頭の中が真っ白になってしまったわ。


 まるで眠り姫のように目を閉じた寝顔に、私は思わずときめいてしまったのだから。

まさかのカミングアウトにまぁまぁ驚かされたけどな。


でも番外編続きで不安になっている読者の為にもここで予告しておきたい。


次回からは本編に戻るから安心してくれ。


                                         ―――by MAX.

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