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第60分のC話 宿敵くんは考える……宿敵、なのか?

イトマ視点

 件名:最上(もがみ)ダイの居場所を知りたくないか?




 荒崎(あらさき)イトマ、3ヶ月前に最上ダイが連れ去られたのは、とあるテロリスト集団によるものだ。


 詳細はまだ教えられないが、奴らの脅威が如何程(いかほど)であるかは周知の事実だろ。お前も見た筈だ、学校の校舎にも達する巨大なロボット、歩兵機の姿を。


 今この世界で何が起こっているのか、知りたくはないか? 俺達は奴らに対抗する為に行動を起こしている。だからお前に連絡した。理由は分かるな?


 俺に協力しろ。見返りにお前の知りたい事、お前の望む物を与えてやる。


 勿論(もちろん)、何も見なかった事にするでもいい。それはお前の自由だ。だが、賢明なお前ならどうするかが正解か、分かるよな?


 最上ダイは今も戦っているぞ、歩兵機に乗って戦っている。実に勇敢な振る舞いだ。


 それに比べて、お前はどうだ? 親の決めた将来に沿って何不自由なくぬくぬくと生きている、そんなつまらない人生を送っていくつもりか?


 いい返事を期待している。俺達にはお前の力が必要だ、荒崎イトマ。決心が決まったら返信してくれ。



                                                ―――W.D






 それが今朝目覚めて目にしたメールの内容だった。


 最初はただの悪戯メールかと思ったが、しかしそこには悪戯ではあり得ない文字が含まれていた。


 歩兵機と言う名の文字が。


 歩兵機。俺がそれを目にしたのは確かに3ヶ月前の事だ。昼休みに学食で昼食を食べていた時、突然グラウンドの方で轟音が鳴り響いた。


 校舎が破壊されたかのような轟音だったが爆発音ではなかった。気になった学生の殆どが食堂を出てグラウンドの見に行った。俺もその1人だ。


 それでグラウンドを見てみると、そこには学校の三階建て校舎の高さ程もあるロボットが2体も立っていたんだ。


 そしてその1体の首元に、最上ダイがいた。


 俺のクラスメートが―――いや、クラスメートだった奴がロボットの首元にいて、そして中に乗り込んでもう1体のロボットと戦ったんだ。


 信じられない光景だった。あんな巨大ロボットが動いて戦っているなんて、夢でも見ているんじゃないかと自分を疑った。


 だが、それ以上に信じられなかったのは、そのロボットに乗って戦っているのが最上ダイだと言う事だ。


 あいつは学生カースト最底辺にいる生徒だ。そんな奴がロボットに乗って戦っている事の方が信じられなかった。


 しかも勝った。あのロボット戦で、最上ダイは勝ったんだ。まぁ、その後で新たに出てきたロボットには惨敗したけどな。


 そして最上はロボットごと連れ去られて行った。その後で警察が来て全校生徒に事情聴取が執り行われたんだ。


 更には警察の後で、自衛隊までもが出て来たんだ。かなりの規模の自衛隊で、その時自衛官の1人が言ったのを俺は聞いてしまった。


 歩兵機の名前を。


 ネットで調べてみたが、歩兵機の名前に該当するものはなかった。だから俺は、親父に聞いてみる事にしたんだ。防衛省事務次官の親父に。


 親父にはどこでそれを知ったのかと問い詰められたが、正直に現場へ来た自衛官が漏らしたのを聞いたと答えたら、絶対誰にも言うなと釘を刺された。


 親父の様子から、それが国家機密である事は容易に想像できたが、しかしそれ以上の詮索もできないと悟らされた。


 それが今になってこのメールだ。歩兵機と言う親父から釘を刺された単語が書いてあるだけに、到底無視できないものだが。


 しかし親父にこのメールの事を報告するには、少し抵抗があった。


 それだけの魅力が、このメールには記されていたからな。歩兵機、それを知る事ができると思うと、気持ちが昂っていた。親父に報告したら、それも叶わなくなる。


 俺は、あの時目にしたロボット、歩兵機にただならない魅力を感じていたんだ。






 ただ、歩兵機と言うものに興味はそそられたが最上の居場所がどうかとか、それに関してはどうでもいいんだがな。


 そもそも俺は最上の事が嫌いだった。何もできない癖にこの名門校に居座り続けるから教師に煙たがれるし、虐めの標的にされても見苦しく登校し続けるから虐める側もムキになって治まりがつかなくなる。


 結局あいつは迷惑なだけだった。学校にいても、学校からいなくなっても。


 そう、いなくなってもだ。この学校は今、最上のせいで学校の機能がほぼ停止していた。出席日数の為に登校しない訳にもいかず、かと言って授業は殆ど行われないまま、生徒は1日を過ごしている。


 最上が連れ去られて、それで警察が来て事情聴取が執り行われて、それで明るみに出たんだ。この学校の悪質な虐め問題が。


 この学校でおきた虐めは相当悪質なものだったらしく、最上の一件もほんの一部に過ぎなかったそうだ。


 その結果として虐めの被疑者は自主退学を迫られた。中には自殺されて問題にならないように教師が自主退学を促してもいたそうだ。


 それだけの事があって今まで問題に上がらなかったのは、学校側の徹底した隠蔽工作によるものだったらしい。


 被疑者家族に口止め料を払ったり、弁護士を使って脅迫じみた事もしたらしい。しかも理事長は文部省とパイプがあるからもみ消すのも容易だったそうだ。


 それが最上の一件で丸裸にされてしまったからこの有り様だ。理事長を含め教師の何人かが逮捕されて、学校はもう殆ど機能しなくなっている。


 お陰で全国的にも名高い名門校は、あっと言う間に不良校に格下げ。そこに通う生徒も虐めの関わりに問わず前科者のように後ろ指をさされる始末だ。


 かく言う俺もだが、親父が防衛省の役人である事が幸いして比較的マシだったな。


 それもこれも最上のせいでこうなった。せっかく築き上げてきた俺の経歴がガタ落ちだ。進学が決まっていた3年生の先輩も何人かが取り消されたと聞いている。


 全く、どこまでも迷惑な奴だ、最上は。潔く退学してれば良かったものを。


「―――おい、荒崎」


 随分と乱暴な言い草で呼び止めたのは、同じクラスメートの沖野(おきの)見浪(みなみ)だった。そして、最上を虐めていたグループの主犯だ。


 こいつは俗に言う不良だ。見た目こそ髪を茶色に染めて制服を着崩している程度だが、名門校だったここでは十分不良扱いできる。


 周りには同じ不良仲間が何人かいるが、別に沖野の取り巻きと言う訳じゃない。沖野は虐めの主犯だが、この不良グループのリーダー格と言う訳では無いからな。


「なんだ、沖野? 俺はお前らと違って忙しい身だと、何度も言った筈だが」


「だったらそろそろ教えろよ! あのロボットは何だ!? 何で最上がロボットに乗ってんだ!? その最上はどこに行きやがった!?」


 まくしたてるようなこの怒鳴り声、一体これで何度目になるか。


 あのロボット事件から沖野は何度となく俺に噛み付いてくる。俺の親父が防衛省の役人である事は割と知れ渡っているから、俺なら何か知っているだろうと問い詰めに来たんだ。


「俺は何も知らない、それももう何度となく答えた筈だ」


 この受け答えも何度目になるか。別にそれは沖野に限った話ではないが3ヶ月もすればそんな事も無くなりつつあったんだがな。


 しかし沖野のしつこさと言ったら異常だ。こう毎日のように飽きもせず噛み付いてくる。何度同じように答えても納得する素振りも見えない。


「いい加減白状したらどうなんだ!? あの後警察と一緒に自衛隊が来たのが何よりの証拠だろ! いつまでもしらばっくれてんじゃねぇぞ!」


「いい加減にするのはお前だ、沖野。仮に俺の親父が知っていたとして、俺に教える事は無いと何度言ったら分かる? これ以上貴重な時間を無駄にさせるな。お前らの仲間だと思われたら迷惑だ」


「んだと、ゴラァ―――」


「よせって、沖野。これ以上はヤベェよ」


 短気を起こして殴りかかろいとした沖野を、隣の不良仲間が抑えた。賢明な判断だ。


 学校は機能していないとは言っても教師が全くいない訳ではない。それに今は教育委員会事務局の職員が逮捕された教師に代わって学校や生徒の管理をしている。


 悪質な虐め問題があったせいか相当な数の職員が導入されて、今も直ぐそこで見張っているものだから、こいつらも好き勝手できない。


「ちっ!」


 沖野は悪態をついて他の仲間達と一緒に教室とは反対の方向に行ってしまった。出席日数を気にするような連中ではないからな、このまま早退する気だろう。


 全く沖野も迷惑な奴だ。と言うよりも、あいつがそもそもの元凶なのだろうが。


 虐めの被害者だった最上にも問題はあったろうが、何より問題なのは加害者である沖野の方だ。それがよりによって、この学校のカースト最上位にいる俺に喧嘩を売ってくるとはな。


 あいつら虐める側もカーストは低い方だ、標的にするのは決まって自分達より下にいるものだけ。上にいる相手には決して手を出さない。


 特に俺の場合、親父が防衛省の役人と言うのは強みだ。下手にちょっかいを出せばどうなるかも分からない筈が無い。周りのグループがおどおどしていたのも、それが理由の1つだろう。


 にも関わらず沖野は噛み付いてくる。余程最上がロボットに乗っていた事がショックだったんだな。


 あんな勉強も出来ない、運動も出来ない、取り柄も何もないポンコツ。周囲からは子豚と揶揄され教師からも煙たがれた、分かり易い負け犬の最上だ。


 そんな奴がある日突然、巨大なロボットに乗って戦っていた。まるで漫画かアニメに出てくる主人公みたいに。


 そしたら俺達はどうだ? 最上が主人公なら俺達は名前すら出てこないモブキャラだった事だろう。


 俺達がずっと見下してきた負け犬が、実際は俺達が見下されていた。俺達はそれに気付かないまま、虚しい優越感に浸っていたんだ。


 そう思うと沖野では無いが、腹の虫がおさまらないのも頷ける。だからと言って、あそこまで露骨なのもどうかと思うが。


「はぁ、教室に行くか」


 憂鬱な事ばかりでどうにも気が重い。経歴に傷は付くしプライドも傷付く。こんな学校(ところ)、入学するんじゃ無かった。


 わざわざ最上を追って入学したと言うのに。






 変な話だが、俺は最上が嫌いだったにも関わらず最上を追ってこの学校を受験した。


 名門校だったからな、自宅から少し遠いだけで親父も別段反対はしなかった。もちろん本当の理由は伏せておいたが。


 それに最上が嫌いだったと言っても最初から嫌いだった訳じゃない。そもそも最上とは高校に入学するまで顔も合わした事が無い、赤の他人だったからな。


 そんな最上を追って来たのには、ある特別な理由があったからだ。


 中学3年の頃、いくつかの学校説明会に参加した時期があって、この学校にも説明会に参加していた。


 そこで俺はその人に出会ったんだ。月並みの言葉で言うなら、運命を感じた相手だった。


 最上(もがみ)高嶺(たかね)さん。最上ダイの姉で当時の生徒会会長。説明会にもサポートとして参加していた。


 初めて会った時は綺麗な人だと思ったが、彼女はそれだけじゃなかった。


 生徒会のサポートも要領良くこなし生徒会メンバーを的確に指示していた。教師顔負けの有能な生徒だったんだ。


 それに人当たりも良い。生徒会の参加者1人1人に気を配り、参加者の間でトラブルが起きないよう徹底した配慮が伺えた。


 本当に素晴らしい人だ。あんな人とお付き合いできればどんなにいいだろうと言う思いで、説明会の内容なんかまるで頭に入らなかったが。


 しかし例え俺がこの学校に入学しても、高嶺さんは入れ替わりに卒業する。共に学校生活を送る事はできない。


 それでも諦めきれなかった俺は高嶺さんについて、当時の生徒会メンバーや同級生の先輩方に話を伺う事にした。今思えばストーカーすれすれの行為だったかもしれない。


 それでも成果はあった。色々話を聞いた末に、高嶺さんには俺と同い年の弟がいる事が分かったんだ。それが最上ダイだ。


 最上は姉と同じ高校を受験するつもりでいると知って、それで俺も最上を追うようにこの学校を受験した。


 安易な考えだが弟の最上と仲良くなれば、高嶺さんとも親しくなれるだろうと、そう期待したからだ。


 高嶺さんの弟であればそれなりにできた人間だろうと高を括っていたから、同じ学校に通えばそれなりに仲良くなれるだろうと、その時は愚かにもそう思っていたんだ。


 ところが、実際にあってみた最上ダイと言う奴は、高嶺さんとは比べようも無いポンコツだった。それこそ高嶺さんの顔に泥を塗る程に。


 俺が嫌いな理由もそこにあったのかもしれない。だからだろう、俺は最上とは仲良くなれなかった。


 しかしそれでは困る。高嶺さんと親しくなるのには、他に妙案は無かったからな。かと言って、入学当初から最底辺に位置付いたあいつと関わり合いになるきっかけも無かったがな。


 それが半年くらい経った頃に転機が訪れた。最上が虐めの標的にされ出したんだ。


 最上の立場を考えれば、(いず)れそうなるだろう事は分かっていたが。しかし実際に虐められてる様子を見て、これはチャンスではないかと悟った。


 俺がここで最上を助けてやれば奴は俺に借りができる。貸しを作って繋がりを持っておけば、高嶺さんとの関係を築く事もできる。そう考えたら、またと無いチャンスに違いなかった。


 だが直ぐには助けない。ある程度追い詰めておいた方が、最上に売る恩も大きくなる。


 そうなれば最上も俺を裏切れなくなるだろう。高嶺さんとの関係を築く上でしっかり働いてもらわないと困るからな。


 それで暫く放っておいたんだが、意外だったのは最上が追い詰められる様子を見せなかったと言う事だった。


 中学の頃から虐め慣れしていたのか割と根性はある方で、助けに入るのは随分の先延ばしになってしまい、そうしてチャンスを棒に振ってしまった。


 何故なら、高嶺さんに交際相手ができてしまったからだ。呑気に構えていたせいで俺は―――


 ―――キーンコーンカーンコーン


 ―――と、唐突にチャイムが鳴った。と言っても授業は殆どなく、自習で時間を潰してばかりだが。


「……ああ、もうこんな時間か」


 気が付けばもう放課後だ。考え込んでしまったせいか全然気付かなかったな。


 帰り支度を整えて、俺は徒歩で帰路につく。本来登下校はバスを利用する俺だが、ここ最近はずっと帰りだけ徒歩で帰るようにしている。


 この帰路の先には駅前商店街がある。この田舎町では数少ない繫華街で、俺は毎日そこを通る為に徒歩で帰るようにしていた。


 そこにいる高嶺さんを、遠目に見る為だけに。


 商店街の真ん中で、高嶺さんは毎日のように弟の顔がプリントされたビラを配っていた。最上の行方を、彼女なりに必死で捜しているんだ。


 彼女の人間性は理解してるつもりだが、しかしそこまでする程の事があるだろうか。


 国立の大学に進んで、交際相手もいると言うのに、自分の時間を割いてまで最上の事を捜す必要なんて無いだろ。


 そんなに最上の事が大事なのか? 実の弟とは言えあんな出来損ないな奴など、いなくなって清々するとは思わないのだろうか?


「……俺は最上に嫉妬していたのかもしれないな」


 弟と言うだけで、高嶺さんの側にいられる最上が羨ましかったのかもしれない。結局俺はまだ高嶺さんの事が好きなのだ。


 例え彼氏ができたとしても、俺にはあの人の事を諦める事は出来ない。あんな痛々しい姿を見せられて、知らん振りなど出来るものか。


 なら俺はどうしたらいい? 高嶺さんの為に何をしたらいいんだ?


 もし、俺が高嶺さんに出来る事があるとしたら、それは……


「……っ」


 俺はその場を立ち去った。立ち去って、帰路につきながら、スマホのメールに返信を書く。


 まるで見透かされていたようで癪だが、それでも今は気にしないでおこう。親父に知れたら勘当ものだが、それでもいいと今は思えた。


 俺は高嶺さんが好きだ。好きだからこそ、最上に拘っている。それに歩兵機にも。


 同じ(あやま)ちは犯さない。呑気に構えてチャンスを棒に振ったら、また元の木阿弥だ。


 俺は今のままで終わるつもりは無い。最上、お前が先に行くと言うのなら、俺はお前の先へ行くぞ。お前の先に行って、高嶺さんに認めてもらうとしよう。


 高嶺さんも歩兵機も、お前なんかより俺の方がずっと相応しい。そう決まっているんだ。


 だから、俺はメールの返信にこう書いた。歩兵機をよこせ、と。最上よりも強力な歩兵機を俺によこせと、そう書いて送ってやった。


 望むものを与えてくれると書いてあったからな、足元は見させてもらうぞ。さぁ、どう答える、W.D?











 件名:Re:歩兵機をよこせ



 期待以上の返答に感謝するぜ。やはりお前を選んで正解だった。


 約束通りお前が望む歩兵機をくれてやろう。そして最上ダイの居場所も教えてやろう。


 その代わり、お前にも俺の協力はしていただくぜ。これから忙しくなるから、そのつもりでいてくれよ。


 だが、まずは挨拶をしようじゃないか。名前も明かさないのはフェアじゃないからな。


 初めまして、荒崎イトマ。


 俺はヴィルフリート・ダオスロード、お前の良き隣人さ。

 P.S.


第61話 運命の決戦、ダイvs怪獣……と来ると思ってたらまさかの第60分のC話。


この意表をついた変化球に驚かされた読者は何人いるだろうな?






「……何だ、これは?」

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