第60分のB話 影無しちゃんは考える……あはははははは、どうせ影無しですよ
ハヤセ視点
「三日月一閃!」
自慢の必殺技を炸裂した私だけど、それもあっさり躱されて、その上カウンターキックまで頂いてしまった。
衝撃に踏み止まって直ぐに反撃に出ようとするも、相手は既にライフルを私に向けていた。
『バン。はいハヤセ、あんたはまた死んだわよ』
「……はい、死にました。もう1回お願いします!」
懲りずに私はまた、歩兵機の模擬戦相手であるカミラ・ヘールズ中尉に再戦を挑む。このまま負けたままじゃいられないもの。
『次はジャンの番よ。と言うかハヤセ、あんたのその小恥ずかしい技の名前止めたら? それに勢いは良いけれど、予備動作が多いし技の後の隙も大きいし、実戦じゃあんまり役に立たないわよ』
ガーン!
『せめてもうちょっと見直しておきなさい。実戦で使い物にならないと意味が無いんだから。はい、次はジャンよ。来なさい』
『はい』
ショックを受ける私を余所に、ジャンのイングリッドが前に出てきてヘールズ中尉と模擬戦を始める。
私は邪魔にならないように離れながら、今のヘールズ中尉の指摘を思い返してみた。
打倒ロウ少尉の為に編み出した三日月一閃は突進、跳躍、居合いの三点セットで構成された必殺技なんだけど。何度か使って見て問題がある事にも気付いた。
これって、技そのものは単純な突進技だから簡単に見切られるって。
本音を言うと、ロウ少尉にはまだ敵わないと思ってたけどヘールズ中尉なら勝てるかもって思ってたんだよね。でも実際やってみたら同じように惨敗しちゃったよぉ。
技の見直しかぁ、あんまりブレードに拘らない方がいいのかなぁ。でもスーパーロボット系に剣は欠かせないし、何とかして対策をしたいなぁ。
ヘールズ中尉曰く、予備動作が多いのと後の隙が大きいのが問題。一撃必殺なら隙の大きさは問題にならないけど、そうなると乱戦では使えないなぁ。
よし、この必殺技はタイマン戦だけに心掛けよう。
問題は予備動作の多さかぁ。
私もそれは気になってたんだけど、予備動作を少なくすると勢いが出なかったから予備動作は少なくできないんだよね。
でも何とかして対策をしないと、このままじゃロウ少尉どころかヘールズ中尉にだって勝てないよ。
「ブーストでもあったら話は変わってくるだろうけど、歩兵機にそう言うのはなさそうだよね。せめて透明化できればいいんだけど」
リアルロボット系に定番のブーストとか透明化が、実際のロボットには備わっていないから私が考えていたロボット戦術プランが全てダメになっちゃうし。
そもそもブレード主体の接近戦って一番難易度が高いからやる人はあんまりいないって聞いたけど、せっかく必殺技まで編み出したのに止めるのもなぁ。
と、そんな時ジャンのイングリッドがグレネードランチャーを発射した。と言ってもペイント弾だけど。
ジャンはライフル銃に装着式のグレネードランチャーを装備してヘールズ中尉に挑んでいる。
私と違って銃撃戦を中心に味方のサポートを徹底するつもりでいるみたい。確かにジャンって気配り上手だから向いてると思うけど。
ただ模擬戦ではタイマンだからね、自力で戦えるようにするしかないんだけど。でも悔しい事にジャンは、私よりもヘールズ中尉と善戦していた。
システム補助はまだ0%にできていないと言うのに、戦闘では私よりも優秀なんて。ロウ少尉の言ってた通りだよ。
確かに、ジャンの戦い方は良いよ。アサルトライフルで銃撃しつつ相手が怯んだところでグレネードランチャーを使い、押されそうになったら手榴弾で爆撃しつつ距離を取る。
3つの武器を的確に使いこなした戦い方は教科書通りでもあるけれど、基本に忠実な戦い方は見習わないといけないよね。
「……そっか。何もブレードだけで戦う必要は無いんだ」
何気にブレードに拘っていたけど、他の武器も組み合わせたらいいんだ。
ネックになってるのは三日月一閃の予備動作、それをカバーする為に色々使えば……行ける!
『はい、もういいわよ、ジャン。基本はちゃんと覚えているようだけど、あんたは逆にもうちょっと大胆な攻め方も覚えるべきよ。実戦で腰が引けていたら真っ先にやられるわ』
『は、はいっ。了解です、中尉』
『オッケー。じゃあ次、もう一度ハヤセ……って、ハヤセ? あんた武器庫で何してるの?』
武器庫を漁ってる私を見て不思議そうに言うヘールズ中尉。ふふふ、そんな余裕を見せていられるのも今の内だよ。
だって私、思い付いちゃったんだもん。三日月一閃の弱点を補う方法を。
「もういいですよ、ヘールズ中尉。やりましょう、模擬戦。今度は私が勝ちますけど」
『あら、大した自信ね。何か秘策でも……あら?』
ヘールズ中尉が私の武器を見て気付いた。そう、私は今、サブマシンガンを装備していた。
『へぇ、アサルトライフルじゃなくサブマシンガンを選んだの。それがどこまで通用するのか、見せてもらおうかしら』
「言われなくても!」
私はまた突進した。突進して、サブマシンガンで銃撃した。と言っても、これもペイント弾だけど。
アサルトライフルより1発1発の威力は弱いけど、連射速度はずっと速い。高速連射で短時間に多くの弾を撃ち出せる。
これで突進しながら弾幕を張って、動きを封じつつ接近する。そして―――
「三日月一閃!」
一気に勢いをつけてブレードで斬撃。さしものヘールズ中尉も大きく飛び退いて回避するしかなかった。
距離を取って着地するヘールズ中尉も、私の新しい戦法に驚きを隠せないみたい。
『あんた、それって……』
そう、これが私の新しい戦法。右手にブレードで左手にマシンガン、これで突進中の予備動作を弾幕でカバーする攻撃重視の新スタイル。
「名付けてシュベルトゲベールっ! ブレードとマシンガンのコンビネーションスタイルだよ!」
しかもこのスタイルに必殺技の三日月一閃が加われば、最早私の向かうところ敵無し。ロウ少尉にも勝てる!
『……はぁ、随分自信満々に挑んできた割にそれだけ? もうちょっと他に無いの?』
あれ? あんまり評価が、良くない?
するとヘールズ中尉は、何故か手に持っていたライフルを捨てると―――
『いいわ、銃と剣のコンビネーションスタイル、その本物を見せてあげるわ』
ヘールズ中尉もブレードを抜いた。そして太腿の収納ラックから、ハンドガンを抜く。
右手にハンドガン、左手にブレード、私とは逆の構え方。それらの武器を手にした腕を交差する独特の構え方は、とても様になっていた。
『よーく見てなさい。これが本当のコンビネーションスタイル、ヘルズアーツよ』
すると今度はヘールズ中尉の方から突進してきた。しかも私よりずっと勢いのある突進で。
そして銃撃。的確な銃撃は3発、私のイングリッドの膝、腹、肩を命中させた。あまりに速くて的確で、全く反応できなかった。
しかもほぼその直後と言っていいくらい間の無さで、ヘールズ中尉のブレード斬撃が決まり、更にそこから容赦なくキックの打撃が炸裂した。
「ぎゃふっ!?」
それからまた銃撃、斬撃、打撃が怒涛の勢いで繰り出される。
距離があれば銃撃、近付けば斬撃、一度距離を取るなら打撃で蹴飛ばす。どれもこれもが見事なコンビネーションで組み上げられた凄まじい連撃の数々。目で追うのがやっとの事だったよ。
「きゅぅ〜……」
気が付けば、いつの間にか地面に突っ伏していた。これが本当のコンビネーションスタイルなんだね。
『分かった? 銃と剣の組み合わせって言うのはこうするの。銃は狙い撃つから利き手で持って、剣は振るだけだから利き手じゃなくてもいいの。特に歩兵機ではシステムが太刀筋を調整してくれるから、余計にね』
「はいぃ~……わかりました」
そっかぁ。銃と剣の組み合わせは銃の方がメインなんだ。
ガックリしてる私を駆けつけてくれたジャンが手を貸してくれた。本当に気配り上手だね、ジャン。
『ヘールズ中尉、今の技ってガン=カタと言うのでは? 映画で見たことがあります』
がんかた? 何それ? ガン○ムなら知ってるけど。
『ふふーん、ちょっと違うわ。私のはヘルズアーツって言うの』
鼻を鳴らして自慢げに言うヘールズ中尉。何気に見栄っ張りなんだよね、この人。
『私のヘルズアーツは独自に編み出したCQC、近接格闘術よ。ガン=カタを参考にはしてるけど、私のヘルズアーツは拳銃とブレードを組み合わせた近接格闘術なのよ』
だからガン=カタって何ですか? まぁ何かの近接格闘術だと言う事は分かりますけど。
『ベースにしてる格闘術は東洋武術を中心に盛り込んでいてね、多勢に無勢でも戦える高速対多数戦を目的とした、私だけのオンリースキルよ。一流の使い手になれば大部隊並みの殲滅力が期待できるわ。私以外に使える奴はいないけどね』
「ヘルズアーツ……それって地獄のヘルって意味ですか? それとも女神のヘルって意味ですか?」
『私の名前がヘールズだからよ。何か文句ある?』
無いです。私の三日月一閃を小恥ずかしいとか言ってたけど、別に文句なんて無いですよ。
『自慢じゃ無いけどね、私のヘルズアーツは負けた事が無いのよ。実戦で決まればケントだって下してしまえるんだから』
「へぇ〜……ええっ!? ロウ少尉にも勝てるんですか!?」
それは朗報、習得すれば私もロウ少尉に勝てる!
『決まればね。でも歩兵機戦はケントの方が上だから、技が決まる前にやられる事が殆どだけど』
ああ、やっぱりそう簡単にはいなかいか。あれ程の技でもロウ少尉に決まらないと負けてしまうんだもんね。
それにヘールズ中尉のヘルズアーツって私の突進技とは相性もよくないし、あの構え方だと先手を取り辛い感じでもあったしなぁ。
やっぱり私には別の戦い方が必要かな。もっと必殺技を活かせる方法を考えないと。
『何だったら教えてあげましょうか? 使い手は私しかいないし、教えられるのも私しかいないからね』
「ん〜……私はもっとブレードに拘りたいので結構です」
『あらそう……』
ヘールズ中尉、露骨に残念そうにしてる。自分以外に使い手はいないって言ってたけど、逆に言うと自分しか使う人がいないから寂しいのかも。
でもあんなアクロバティックな技は真似できないし、したいとも思わないよ。ヘールズ中尉の特権にしてください。
『……じゃあ次はジャンね。さっきのハヤセみたいにもっと大胆な攻め方をしてみなさい』
『はい、中尉』
再びジャンのイングリッドが前に出てきた。今度は小型のガトリングガンを装備している。色々試してみるつもりなんだ。
私も色々試して考えた方がいいかな? ブレードは接近するまでが難関だし、接近する為の術を考えないと始まらないけど。
『その前に、ちょっといいかな?』
そんな時、私達を呼び止めたのは前回と同じくデリック・フェルトン少佐―――通称Mr.ジーザスだった。
前回と同じく身体中の至る所に包帯を巻いた負傷者姿で模擬戦場に立っている。重傷なんだから安静にしてればいいのに。
『耳寄りな話があるんだ。全員降りてきてもらえるかい』
「合同演習? アラスカで?」
Mr.ジーザス少佐の耳寄りな話を聞いて不審にそう言ったのはヘールズ中尉だった。
つまり、えっと……どう言う事なんだろ?
「つまりね、うちのピオネス基地配属部隊とアラスカの配属部隊とで模擬戦をするんだ。チーム戦と言う形でね」
おお、ついに本格的な戦闘ができるのかな。ちょっと期待しちゃう。
「でもMr.ジーザス、アラスカって言ったらエルメンドルフ空軍基地でしょ? 歩兵機なんて配備してたかしら?」
「ああ、最近配備されたばかりなんだけどね。設備も増築中で実戦経験も乏しいから、新人2人をスカウトした僕らに合同演習をお願いしたいそうだ」
「ふぅん、まぁいいけど。チーム戦なら4人1チームという事でいいのよね?」
「いや、向こうに歩兵機乗りは3人しかいないから3人1チーム戦になるよ。どの道ケントは出られないからね、まだかかりそうだから」
ちなみにロウ少尉のまだかかると言うのは始末書の事じゃないよ。
あれは私とジャンも手伝わされて1度は直ぐに終わったけど、手伝わした事がバレて10倍の量の始末書を1人で書く羽目になったけど、それもちゃんと終わらせたよ。
それでロウ少尉は今、国防高等研究計画局で新型歩兵機の様子見に出立しているんだよね。前に言ってたヴィンデルバンドって名前の。
でもそっかぁ。ロウ少尉抜きで私達3人のチーム戦になるのか。
「向こうはベテラン2人だけど歩兵機乗りとしては日が浅い。後の1人は若手だが、サーパストだ。今の君達でも十分太刀打ちできるだろうけど、どうする? やるかどうかは君達で決めていいよ」
「だ、そうよ。どうする、あんた達は?」
「やります!」
「うわっ、0.1秒で即答したわね、ハヤセ。でもあんたならそう言うと思ってたわ。ジャン、あんたはどう?」
そりゃもちろんやるでしょ。だよね、ジャン。
「えっと、僕は……」
だよね、ジャン。
「…………」
だよね、ジャン!
「……やります」
やったぁー!
「なんか言わされたみたいに答えたけど、本当に大丈夫?」
「はい、自分の実力を知るいい機会……だと思うので」
なんか最後の方がしどろもどろになってたけど大丈夫かなぁ、ジャン? やるんならどうしても勝ちたいけどなぁ。
「じゃあ決まりだね。僕の方で先方に了解しておくから、そのつもりでね」
「ラージャ。それじゃあ模擬戦に戻りましょうか。ジャンから、だったわね」
「はい、お願いします中尉」
ヘールズ中尉とジャンが歩兵機に戻って行く。私も戻ろうっと。
けどそんな折、Mr.ジーザス少佐が私の前に来て白いUSBを差し出してきた。
「……Mr.ジーザス少佐、これは?」
「僕からのプレゼント。ディガロが集めるだけ集められたクロステーゼ最強の兵士、エリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタスの戦闘記録さ」
「っ!?」
オベルタス、それって最上君を死に追いやった女の名前。
「彼女の戦闘スタイルはブレードを使った近接格闘戦主体だ。ブレード戦に拘ってるみたいだったからね、参考になると思うよ」
最上君を死に追いやった女の戦い方を参考にしようって言うの? ぶっちゃけ癪だけど……でも、手段は選んでいられないよね。
1日も早く強くなるんだもの。誰であっても取り入れるものがあるなら取り入れてやらないと。
その女の戦い方だって、盗んでやろう。
「ありがとうございます、少佐。私、必ずオベルタスを倒せるくらいに強くなってみせますね」
「期待してるよ、未来のエースさん」
そう言ってMr.ジーザス少佐も行ってしまった。
未来のエースか、いい響きだね。
いいよ、なってあげる。オベルタスを倒して嬲り殺しにして、最強の座から引きずり下ろしてやろう。そして私が新しいエースになるんだ。
そしたら最上君だって、きっと喜んでくれるよね。あは、あはは、あはははははは!
「ブレードって小太刀くらいの長さしかないんですよねぇ。地味に短いですねぇ、ヘールズ中尉」
「これでも長いくらいよ。銃撃戦主体の歩兵機戦で近接格闘術は接近する事態になった時だけ使うとのだから、そんな長い得物はいらないでしょ」
「ええ〜、リーチがあったら広い間合いから攻撃できるじゃないですか」
「そんな間合いがあったら銃撃した方がいいでしょ。ブレードは接近した時だけ使えばいいの」
「ぶぅ〜、本当に無いんですか? もっと勇者の剣みたいな感じのやつ」
「そうね。エースになれば希望する武器をDARPAに申請できるわ。欲しいなら実力を磨くことね、そしたら作ってもらえるわよ」
「やったぁー! じゃあ天空剣とか断空剣とか作ってもらって……いやいっそ二刀流にするのもありかな? それか斬艦刀とかも……」
「現実的な範疇でしなさい」




