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第60分のA話 ポンコツちゃんは考える……ポンコツ言うなぁぁぁぁぁ!!

メアリー視点

 あれから2週間が過ぎてしまった。


 隊長のエリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタス大尉だけが帰ってこないまま2週間、虚しいばかりであっと言う間に過ぎてしまったなぁ。


 正直言って、今の27日分隊は壊滅寸前と言っていいかもしれない。隊長がいなくなったのもあるけど、それだけでも無い問題が幾つもの積み重なっているから。


 副隊長のセラフィナ・ハブタム少尉は帰って来て直ぐ本部へ出立して未だに帰ってきていない。


 隊長が抜けた穴が余程大きいのは分かるけど。本部もこの状況を相当重く見ているようだし、そこへ正体不明の敵も現れたものだから対処に手が回らないのよね。


 27日分隊を実質任された副隊長としては、この現状をどうするか本部と徹底的に話し合う必要があるから。それで未だに帰って来られない。


 ハブタム副隊長にはもう1度ストリボーグの搭乗を許可してもらうよう直談判する予定なのに、ずっと先延ばしになっている。それがどうにももどかしくてならなかった。


 本部に出立したのはジャネット・アーロン少尉も一緒だったけれど、アーロン少尉は3日前から勝手に戻って来ている。


 まぁ予想はしてたけど。上層部との綿密な会議にあのガサツなアーロン少尉がいつまでも留まるとは思えなかったから。


 負傷したリン・インシー軍曹は未だ絶対安静のままだ。帰って来た時は酷い重体で命の危険もあったと聞いたし。


 幸い一命は取り留めたものの、完治するまでまだまだ時間がかかるとの事。例え完治してもその後のリハビリが必要になるし、当面は歩兵機に乗れそうもない。


 主戦力の隊長に加えて、電子戦担当のリン軍曹まで実質失う事になるなんて。27日分隊の要が一気に失われた形だ。


 リン軍曹と同じく負傷したマギナ曹長は軽傷だったけど、あの人も安静の為に暫くは歩兵機に乗れないみたい。


 隊長がいなくなって、リン軍曹もマギナ曹長も戦えなくなった。これが壊滅寸前の27日分隊、その現状よ。


 27日分隊だけじゃない。クロステーゼの部隊は真夜中の争奪戦でたくさんの味方がやられ、死傷者多数に行方不明が更に多く出た。


 今となってはクロステーゼそのものが危機的状況に陥っているのよ。


 このままじゃ、(いず)れディガロの強襲を受けて壊滅するのは時間の問題かもしれない。


 そうならないようにハブタム副隊長が上層部と綿密に話し合って今後の方針を考えているのだけれど、打開策はあるのかしら?


 せめて隊長だけでも無事に戻って来てくれれば、何とかなるかもしれないのに。


 クロステーゼは非公的組織だ、それ故に組織としての規模は小さい。何をしても他国の関与が証明されないから割と自由に動けるのだけど、逆に言うと何かあれば簡単に切り捨てられる孤立無援の組織なのよ。


 アメリカ軍と言う強大な組織の枠組みにいるディガロと対等に渡り合えるのは、ひとえに隊長の存在が大きかったからに他ならない。


 つまるところクロステーゼは、隊長の能力に依存し過ぎていた。だから隊長を失って一気に壊滅の危機にまで追い詰めれてしまう。


 私達、これからどうなってしまうのだろう。


(考えても仕方ねぇだろ。お前じゃ何もできないんだからな)


「……分かってるわよ、そんな事」


 いくら考えても仕方が無いのは分かってる、今後の方針を決めるのは上層部であって下っ端の私が考えても仕方が無いと言うのは。


 分かってるけど、じゃあどうしたらいいのよ?


 その不安を考えないようにずっとシミュレーターに籠っていたけど、流石に少し疲れてしまった。それで休憩ついでにマギナ曹長の見舞いに足を運んでいたのだけれど、結局また考えてしまっている自分がいる。


 でもやっぱり考えるのは止めよう。マギナ曹長の様子を見たら少しは気が楽になると思うし。


 負傷した2人の病室は別々だ。リン軍曹は重体故に集中治療室にいて、面会は限定的となっている。


 軽傷のマギナ曹長は相部屋の病室だけど、今はマギナ曹長1人。他の兵士は皆重体で集中治療室にいるか、そうでなければ帰らぬ人となった。


 だから相部屋にマギナ曹長1人しかいない様子を見ると、それだけ酷い戦闘だった事を改めて思い知らされる。


 と、そんな憂鬱な気持ちでマギナ曹長の病室に来ると、開いたままの入口から先客がいる事に気が付いた。


 整備士長の御厨康次郎(みくりやこうじろう)中尉だ。


 現代に存在するドワーフそのものみたいな風貌の(いか)つい中年男性だが、整備士としての技術は右に出るものがいないと言われるほど優秀な人物。


 でも歩兵機にしか興味のなさそうな根っからの整備人間である御厨中尉がどうしてここに? 中尉も見舞いに来たのかしら?


 気になったので入口の横に隠れて様子を見てみる。これは決して覗き見じゃないからね。


「―――こんな姿、コウジローさんには見られたくありませんでした」


 ……コウジローさん?


 え? 何? 何でマギナ曹長は御厨中尉をコウジローさんって呼んじゃってんの?


 え? ええ? まさか2人って……えええええええ!?


「お前さんは兵士だ。実戦に出りゃそう言う事も当然起こる。気にする事じゃねぇ、俺も気にしたりしねぇよ」


「こんな傷だらけの女なんか、そばにいても役得な事なんてありませんよ」


「兵士の傷ってのは勲章のようなものだろ? 俺は好きだぜ、傷だらけと言うのは立派な兵士の証だ」


「コウジローさん……」


 ……あ、うん。これは、間違い無いですね。


 そうでしたか。2人はそう言う間柄でしたか。そして私はどうしたらいいんですか?


 どうしよ〜、知りたくもない同僚の恋愛事情を知っちゃって気マズくなった。ただでさえ27日分隊の事で憂鬱な気分だって言うのに。


 とにかく見なかった事にしよう。見なかった事にして、見舞いはまた別の機会に―――


「―――何してんだ、ポンコツ?」


 と、不意に後ろから声をかけられて、しかも背中をドンッと叩かれた。お陰で私はそのまま病室の中に倒れ込んでしまう。


「あだっ! いったぁ……あ゛」


 顔を上げたらマギナ曹長と目が合ってしまった。気マズい、物凄く気マズいです。


 マギナは倒れ込んだ私を見てさっきまでのやり取りを見られてた事に気付いたらしく、顔を赤くして恥ずかしさ半分、恨めしさ半分の眼光で睨まれてしまった。


 柔和な笑みしか見た事が無いマギナ曹長からこんな風に睨まれるとは思いませんでした。超絶に気マズい……。


 でも御厨中尉はどこ吹く風と言った様子で全然気にしてなさそう。


 見られて恥ずかしい事は何も無いと言う事かしら? 何と言う堂々っぷり。感服です、中尉。


「お前さん、メイ二等兵じゃねぇか。そっちの姉ちゃんはジャネットだったな」


「よぉ、ダンナも来てたんだな」


 そう言って私の背後で気楽に挨拶するのはアーロン少尉だった。私をこの気マズい空間に放り込んでくれた張本人です。


「何だ何だ? 見舞いの建前で2人してイチャイチャしてたのか? そりゃ邪魔して悪かったな。遠慮しないで続けてくれていいぞ」


「ジャネットっ!」


 あ、マギナ曹長が怒鳴ったところも初めて見た。でも今のは普通にアーロン少尉が悪いけど。


 と言うかアーロン少尉、もうちょっと空気読んでください。


「ハハハハハ、冗談冗談。けど思ってたより元気そうで安心せたぜ、マム」


「もう、からかうのなら帰ってちょうだい。せっかくコウジローさんと……ぅぅぅぅ………………」


 乙女か!? マギナ曹長は乙女ですか!? なんか俯いて布団の裾をもじもじし出したし、どこの乙女ですか!?


 言いたく無いですけど、あなたは部隊の最年長者ですよ。そんな乙女みたいな事しないでくだ―――


「メアリー、あなた今何か失礼な事を思わなかった?」


「……え? あ、いえ、マギナ曹長は乙女だなぁって―――」


「何ですって?」


「へ? あ、あぎぁー!? な、何でもないです、忘れてください!」


 思わず本音が漏れちゃった。何やってるのよ、私。


 ああもう、マギナ曹長がジト目で睨んで来てる。適当に理由付けて早くここから退散しよう。


「その前にダンナ、邪魔して悪いけどあんたにも用があったんだ。ついでだしここで済ませておくぜ」


「おう、何だ?」


 悪びれてもいない様子のアーロン少尉だけど、今日は珍しく神妙な面持ちで、何故か結い上げたポニーテールを解いて見せた。


 アーロン少尉ってツンツンのライオンヘアーなのだけど、女の人はこうして髪を下ろして見せるとどこかしおらしく見えるから不思議ね。


 一体、何を頼むつもりなのかしら?


「ダンナ、あたしを抱いてくれ」


 前言撤回! 全然しおらしく見えませんでした!!


 って、マギナ曹長が目の前にいるのに何をほざいてるの、この人!? 止めてっ! こんなところで修羅場とか止めてぇぇぇぇぇ!


「ジャネット!?」


「アーロン少尉!」


「……遠慮しておく」


 よかったぁ。御厨中尉がまともな人で本当によかったぁ。いきなり修羅場になるとか絶対にゴメンだからね、私は。


 そもそもマギナ曹長と御厨中尉がイチャイチャしてたのに気付いていたなら、どうしてそんなキャットファイト沙汰になるような事を言うんですか!


 バカなんですか、少尉は!?


 御厨中尉が大人な対応してくれなかったらどうなっていたか。マギナ曹長、心の底から安堵してるし。


ギブ(渡す物)より先にテイク(欲しい物)を提示しな。何が望みだ、ジャネット・アーロン少尉?」


「へへ、話が早くて助かるぜ。……実はあたしのG3を、G5(ジーファイブ)に改修してもらおうと思ってな」


 G5? まさかセガールの強化改修型?


 旧式のセガールと言う機体は、その高い汎用性を切り詰める事で玄人向けの改修機が幅広く存在する。アーロン少尉の機体は強襲用の重武装型、通称G系列に分類した改修機だ。


 私が知る限り、G系列はG4までしか存在しないのだけれど、私が知らないだけかしら?


「……たくっ、どこで嗅ぎつけたんだか。G5はまだペーパープランの改修機だぞ」


 ペーパープランかぁ、なら知らなくて当然か。寧ろ知ってるアーロン少尉の方が変だもの。


「だがプランはほぼ出来上がってんだろ? 完成すれば例の新型にも匹敵すると聞いたぜ」


「当然だ、その新型のデータを参考にした改修プランだからな。口を滑らしたのは、シャムーンの小娘か」


 ライラが喋ったの? もう一番厄介な人に何をペラペラ喋ってるのよ、ライラは。


 でもこれでアーロン少尉の目的が分かった。


 アーロン少尉は、あの惨敗を気にして自機の強化改修をしようと御厨中尉に直談判しに来たんだ。


 歩兵機の改修には上層部への申請や細かな手続きとかが色々あるから、どこかで許可が下りないと改修作業には手が出せない。


 アーロン少尉はそれらを無視して作ってもらおうと、自分の身体で取り引きを持ちかけたんだ。マギナ曹長といい雰囲気になっていた最中だと言うのに。


 そうまでして強化改修を施したいアーロン少尉の気持ちも分からなく無いけどね。2週間前の惨敗が余程堪えたのだろうし。


 でも正規の手続きを行わないのは、上層部にそれだけの余裕が無いからかしら。それとも他に理由が?


「……いいだろう。セガールG5のモデルケースと言う形で試作品を作る予定だったからな、お前さんの半壊したG3を再利用する建前で試作しよう。その後でお前さんがどうしようと、いくらでも言い訳はできるな」


「マジか、じゃあ他にもあたし好みのカスタマイズも頼んでいいか?」


「たかりやがって。だがいいだろう、あんなG3のやられ方を見せられたら俺も不安になる。整備士として、やれる事は全てやっておきたいからな」


「へへへ、やっぱダンナは話が分かるじゃねぇか。礼は弾むぜ、このナイスバディな肢体を好きなだけ弄んでくれてよ」


「身体はいらん。だが、作業の手は借りるぞ。早速今からシャムーンの手伝いをしてもらおうか」


「うえっ、そっちの方がよっぽど大変だろ。まぁしゃーねぇか。行くぞ、ポンコツ」


「ポンコツと言わないでくだ―――って、私も!?」


 何でアーロン少尉が任された仕事を私が手伝わされなくちゃいけないんですか!? ちゃんと理由を説明してください!


「ならメイ二等兵には6番倉庫の片付けをしてもらおうか。あそこは相当に散らかっているからな。ほれ、倉庫の鍵だ」


「御厨中尉!?」


 御厨中尉が裏切った! やっぱり見られてた事を根に持ってたの!?


「ってな訳だからよろしく頼むぜ、ポンコツ」


「だから何で私が!? あとポンコツと言わないで!」


 どうしてこうなった? 私はただ見舞いに来ただけなのに。見舞いに来ただけなのに!


「用向きは済んだのならさっさと出てってくれる、ポンコツちゃん? あんまり病室で騒がれると迷惑なのよ」


 でもマギナ曹長が少しドスの効いた声で言うものだから何も言い返せませんでした。しかもポンコツちゃんと言われて反論できませんでした。


 本当にどうしてこうなった?


「おい、メイ二等兵。片付けもいいが、程々にしな」


 だったらどうして鍵を渡すのですか、御厨中尉。言ってる事とやってる事が支離滅裂ですよ。


 でもマギナ曹長の圧が恐いので、私は渋々病室を後にするしかなかった。


 しょうがないわ、どうせ私は下っ端の身だもの。言われた通りに倉庫の片付けをしよう。これも(れき)とした兵士の仕事だもの。






「……どうしよう」


 目的の6番倉庫に来た私だけど、ここって本館から少し離れた別館の倉庫で、しかも来させられましたのは私1人だけでした。


 おまけに来てみたら、倉庫の中は埃まみれで最近使われた様子の無い見事な物置き場の倉庫でした。


 古い資材やら機材やらが乱雑に置かれたこの倉庫を1人で片付けなきゃならないと思うと憂鬱極まりなかったと思う。


 ここにストリボーグが無ければ、だけれど。


 ストリボーグ。ハブタム副隊長やアーロン少尉から取り上げられた(くだん)の名機。“真珠の悪魔”の名で知られる曰く付きのイレギュラー。


 ハブタム副隊長から絶対にもう搭乗するなと散々念を押されたけど、それが何故だかここにあった。


 いや、何故だかじゃない。ストリボーグをここに仕舞い込んだのも、私をここに連れてきたのも、全て御厨中尉が意図した事だ。


 ―――片付けもいいが、程々にしな。


 あれは、あの支離滅裂な発言は……つまり、そういう事なの?


 ここでこっそりストリボーグに乗れと、そう言う事なの? 御厨中尉、意外と粋な事をするのね。


 でも、どうしよう。乗っていいのかしら、これ? ……いい訳、無いわよね。


 御厨中尉には悪いけど、もしもこの事がバレたら厳罰ものだから。そう言う危ない橋を渡れるほど、私は器用じゃないし。


(いいじゃねぇか。乗れよ、乗っちまえって)


「ダメよ。ハブタム副隊長から厳命されているのだから―――」


(噓をつけよ。本当は乗ってもいいって、自分でも分かってんだろ)


「そんな事、でも……ああ、でもやっぱり―――」


(後悔するぜ。今ここで乗っとかなかったら、お前はこれから先何もできないままだぞ)


「……そうなの? 本当にそうなの?」


(そりゃあ、お前が1番良く分かってる事だ。今更何を怖気づく? これからどうなるかも分からないんだろ。いつまでも良い子ちゃんぶってたら、何も変わらないままだぜ)


「……そうね。そうよね。分かったわ、乗ってやるわよ。隊長がいない今、私が強くならなきゃいけないんだもの」


 そうよ、今更くよくよしたってしたって仕方ないもの。だったら目の前のチャンスを活かして見せる。このストリボーグを、モノにして見せるわ。


 いなくなった隊長の代わりになる為にも、そして……あの最上ダイ(イエローピッグ)を捌く為にも、ねっ!


(へっ、そうこなくっちゃな)

(にしてもイエローピッグ、イエローピッグってお前そればっかだな)


「だって、絶対に捌いてやるって決めてるんだもの。私にポンコツなって仇名を付けた報いを受けさせてやるんだから」


(本当に執念深いな。よっぽどその豚が好きなのか?)


「そんな訳無いでしょ!」


(そうか? 傍から見てると恋焦がれる乙女にしか見えねぇぜ)


「あってたまるかぁ!!」


(ひょっとして毎回毎回、捌いて料理して食ってやると言うのは愛情表現の裏返しとかか?)


「出鱈目を言うなぁぁぁぁぁ!!! そもそもっ!」


(そもそも?)


「そもそも―――あなた誰?」


(え、今更?)

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