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第50分のB話 影無しちゃんはエースに挑む……あはは、影無しですよぉ~

ハヤセ視点

 ヘールズ中尉が戻って来た。それを聞いた私は、直ぐさま準備してに取り掛かったよ。あはは……あはははははは。


「ケント、スパイの件は上に報告しておくけれど、ハヤセ達には内緒にしなさよ。これ以上角を立てるような事はしないで」


「分かっている。最上(もがみ)ダイに限らず、ハヤセとジャンの2人も疑惑が晴れた訳では無いからな。まだ疑惑が残っている内は情報を開示しない方がいい」


「あんたはもう……ちょっとはハヤセ達の気持ちも考えて―――って、どうしたのジャン!?」


 扉を開けて中に入ったヘールズ中尉とロウ少尉。しかし2人の目の前には、うつ伏せでぐったりと倒れている私と同じ訓練兵ジャン=クリストフ・モリエールの姿があった。


 それはまるで殺人現場の如く、室内は少し荒らされていて、ジャンが倒れている様子からもここで何かがあったとしか思えない惨状だった。


 問題は誰にやられたか、それが2人の疑問だったに違いない筈。まぁやったのは私だけどね、あはは。


「う……ヘールズ中尉……」


「ジャン!? よかった、生きてた。ケント、水っ! 水を持って来て! 早く!!」


 大慌てでジャンを介抱するヘールズ中尉と興味無さげに飲みかけのペットボトルの水を手渡すロウ少尉。この2人の温度差が中々凄い。


 ぐったりするジャンはヘールズ中尉から水を飲ませてもらうと意識は回復した。朦朧とした意識でヘールズ中尉の顔を確認すると、少し安心したみたい。


「へ、ヘールズ中尉……」


「ジャン、しっかりしなさい! 一体何があったの? それにハヤセは? あの子も一緒じゃないの?」


「は……ハヤセ…………ハヤセは……」


「―――私がやりましたよ」


 さぁ派手に登場だ。


 私はドンっと扉を蹴って、部屋の隅に備えてられているロッカーから勢いよく出た。ドドンと言う効果音付きで。


 突然堂々と登場した私にヘールズ中尉は絶句していた。言葉も出ないと言ったところかな。


「……何をやっているんだ、お前は?」


 しかし何故かロウ少尉は呆れた様子だった。あれ? ウケなかったのかな?


「リターンマッチのデモンストレーションですよ。ロウ少尉、もう一度私と勝負してもらいます!」


「ほぅ、再戦を挑んでくるだけの根性はあったか。しかし俺が聞きたいのはその格好だ。何をやってるんだ、お前は?」


「勝負服です!」


 気合い入れてタンクトップにカーゴパンツとブーツ、頭にはハチマキも巻いてランボースタイルにしてやりました。


「歩兵機戦がしたいならパイロットスーツを着ろ。それとも野戦がしたいのか?」


「気合いを入れたかったんです!」


 だって今度こそ勝ちたいんだもん!


「それでそのスタイルか。随分と趣味が悪いな」


「ええっ!? それ、あんたが言う!?」


 ビックリしてヘールズ中尉が指摘した。と言うより、ツッコんだと言うべきかな?


「言っている意味が分からんな、カミラ」


 ロウ少尉も十分悪趣味だって事ですよ。だってロウ少尉のイングリッド、虎柄だもん。


「それよりハヤセ、ジャンに何したの? こんなにぐったりさせて……」


「シミュレーターで歩兵機戦の相手をしてもらってたんです。でもジャンじゃ全然相手にならなくて、こんなになるまでやらせちゃいました。テヘッ」


「テヘッ、じゃないでしょ! あと露骨にジャンをディスらないの! ショック受けてるでしょうが!」


 あ、本当だ。なんかガーンみたいな感じでへこんでる。でも本当に相手にならなかったからなぁ。


「なるほど、俺達がいない間に必死で腕を磨いていた訳か。少しはキアスの心得が分かったようだな」


「なら勝負してくれますよね、ロウ少尉?」


「いいだろ、どれだけ腕を上げたか見てやる」


 やったー、再戦承諾だ!


「待ちなさいケント、あんたまさか―――」


「心配するな、余計な詮索はしない。軽く揉んでやるだけだ」


「それが心配なのよ。大体あんたは―――」


「大丈夫ですよ、ヘールズ中尉。だって私……勝ちますから」


 ビクッと、ヘールズ中尉がたじろいだ。あはは、だって今なら私、誰にでも勝てる自信があるもん。


 最上君を死なせたオベルタスとか言う人にも、勝てる自信があるもん。あはははははは。






 基地で初めて歩兵機に乗った訓練場で、私はまた練習用のイングリッドに乗った。その私の前には、ロウ少尉のイングリッドが仁王立ちで待ち構えいる。


 けどロウ少尉のイングリッドは虎柄じゃなかった。実戦用だけど、グレーの一般的なカラーで、専用機ではなさそう。


 虎柄のイングリッドは格納庫で修理されていた。歩兵機に乗る時チラッと見えたけど、どうやらエースのロウ少尉でも機体を壊されるくらい苦戦を強いられたみたいだね。


 でもだからって容赦はしないよ。やると言った以上は全力で叩き潰しに行くから。


『武器は、ブレードだけでいいのか? 制約は無いんだ、ライフルなり何なり使えばいいだろ』


「ロウ少尉こそ、専用機でも無いのに丸腰でいいんですか?」


『十分だ、素人に毛が生えた程度の小娘にはな』


 へぇ〜、言ってくれるじゃん。その高慢な鼻っ柱、へし折ってやるんだから。


『システム補助はもう0%に落とせたのか?』


「さぁ、それは戦ってみれば分かるんじゃないですか?」


 実はもう0%に落としている。これで歩兵機の操縦技術だけなら一流扱いされる筈だよ。


 あとはこれまでの練習で、如何に実力差を埋められたかだ。


『ふん、そうだな。いいだろ、かかって来い』


「言われなくても!」


 私は飛び出した。前回のように躊躇は見せない、思い切りを決めた全力突進だ。


 ロウ少尉もキックのモーションを見せる。その前に、私は大振りにブレードを思い切り振った。


「はぁあああああ!!」


 ブレードは小太刀くらいの短い剣だ。キックの間合いの外からだとブレードも届かないけど別に構わないもん。だって私の本命は……


「っ!?」


 かかった。これが私の本命の……フックランチャーだ。


 正確にはフックランチャーのワイヤー、これを斬撃と一緒に振ったんだよ。ワイヤーならリーチがいくらでもあるからね。


 ロウ少尉もまさかブレードの斬撃と一緒にワイヤーが来るとは思わなかったみたい。狙い通りにロウ少尉のイングリッドの脚に絡まった。


 片脚じゃない、両脚だ。これでキックはおろか、動く事もできないでしょ。


 だからこの隙に、叩っ斬ってやる!


 しかしロウ少尉も凄い。両脚が絡められた状態で後ろに飛び退き、空中にいる間に絡まったワイヤーを解いた。流石はエース、手際がいいね。


 でも飛び退いたと言う事は引き退ったとも言う事、この機を逃したりはしない。反撃される前に攻め込んでやる。


 なるべく小振りに高速連撃を目指して反撃の余地を与えない。丸腰のロウ少尉ならブレードの連撃で押し通せる筈。


「ちっ」


 しかしロウ少尉も押されてばかりじゃなかった。私の連撃をさばきつつ、足払いを仕掛けてくる。


 まるで銃弾のように速い足払いでした。私は避ける事もできずに、足払いをうけてバランスを崩してしまった。


 それを見計らっていたのか、ロウ少尉のキックが来る。これは……受けてはダメだ。


「見える!」


 散々苦しめられたキックだけど、今の私はそれをしっかり目で見て捉えていた。そして左手で払いのけ、体勢を崩しながらもギリギリで躱す。


『なにっ』


 私に避けられたのが意外だったのか、ロウ少尉は私の死角に回るように移動して距離を取った。


 バランスを崩した私に追撃はできなかったけど、しかしロウ少尉を退かせる事ができた。ベテランのエースパイロットであるロウ少尉を。


 これは、本当に勝てるかも。


『なるほど、どうやら本当に腕を上げたみたいだ。少しはできるようになったか』


「あはは。ロウ少尉、ひょっとして強がっているのかな? 結構危なかったように見えるし、私だってまだまだ本気じゃないんだよ」


『ほう、ならお前の本気がどれ程のものが、見せてもらおうか』


「言われなくても。はぁあああああ!!」


 もう一度全力突進する。しかし今度はただの突進じゃない、地面スレスレまで前のめりになった低姿勢での全力突進だ。


 この姿勢のまま全力突進して、右手に持ったブレードを左の腰元に来るよう構える。居合斬りの構えだ。


 そして距離を詰めたら跳躍、低姿勢からの跳躍はほぼ水平に跳ぶ。全力突進、水平跳躍、そして居合斬り。これらのトリプルコンボで決める必殺の一撃を見よ!


「三日月一閃!」


 中二病全開で命名したとっておきの必殺技、これで決めてやる!


 入った。必殺の一撃は僅かだけどロウ少尉のイングリッドに当たった。左肩を掠った程度だけど、その肩にはくっきりとインクが付いている。


 訓練用のブレードだから刃はインクの付いたゴム刃なんだけど、本物だったら肩のフレームまで達してたと思う。


 しかし本命はここからだ。この三日月一閃と名付けた痛々しい必殺技は単に居合斬りで終わるだけじゃない。居合で斬り上げた後に、同じ軌道で斬り落とす2連撃技なのだ!


「たぁあああああ!!」


 更に踏み込んだ斬り落とし、これは躱せないでしょ!


 けどロウ少尉は斬り落としたブレードを握る、私のイングリッドの腕を掴んで止めた。確かに、そこなら止められるよね。


「予想してましたとも!」


 止められた瞬間、膝蹴りを仕掛けた。至近距離でブレードを止められた時の対策はしていたんだよ。


 これも入った。しかも掠った程度とかじゃ無くまともな直撃、クリーンヒットだった。


 思い切り入ったからロウ少尉も後ろに飛ばされたけど、やっぱり直ぐに立て直して身構える。


『大したものだな。この僅かな期間でここまで腕を上げたとは、ついこの前まで素人同然だったとはとても思えん』


「お褒めに預かり光栄です。そんな事よりロウ少尉、どうして本気で来ないんですか?」


『なに?』


「だってさっきから防戦一方だし、全然反撃できて無いし。いくら私が強くなったからって、手心を加え過ぎですよー。それともまさか……その程度がロウ少尉の実力だった、なんて言わないですよねぇ?」


 ―――ピクッ


「あはは、まさかそんな筈無いですよねー。仮にもエースなんだから、この程度なんてつまらない事言いませんよね―――グエッ!?」


 蹴られた。物凄く素早い蹴りで、全く見えなかった。


 え? どうして? さっきはちゃんと見て捉えたのに。


「な、なんで―――ぎゃふっ! あだっ! きゃあっ!!」


 それから立て続けにキックをくらわされた。回し蹴り、前蹴り、刈り蹴りと、どれもこれも私の目では捉え切れない早技ばかりの猛攻で。


「ちょっ、ちゃんと待っ―――うぎゃぁあああああ!」


 更にはキックの連打。私の高速連撃とは比べ物にならない連打でフルボッコにされました。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ―――」


『……ライトネード』


 そしてトドメは宙に舞い上げられてからの踵落としエンドでした。


 前回と違って意識は失わなかったけど、それが返って私の細い身体に途轍もない痛みを教えてくれました。何これ、歩兵機の上からでも滅茶苦茶痛いよぉ。


「きゅぅ〜……」


『調子に乗るな、小娘が。俺が防戦に出ていたのは貴様の攻撃を見る為だ。自惚れるのも大概にしろ』


 そうだったんだ。ひょっとしたら勝てるかもしれないとか思ってた自分がとてもバカみたいだよぉ。


 ううぅ……私のバカ。


『確かにシステム補助は0%にできたようだな、歩兵機を自分の手足のように扱えているのは明らかだ。それにブレードを駆使した攻撃も悪くない、実戦でも十分通じるレベルだ』


 当然だよ。それだけ必至になって練習したんだから。


 休憩時間や睡眠時間を削ってひたすら練習した必殺技なんだから、今度こそ勝てるように頑張ったのに。それなのに……。


『だが、それだけだ。防御も回避もなってないし、攻撃を仕掛ける見極め方も甘い。それではただ突進するしか能ない畜生と何も変わらないぞ』


 ガーン!


『はっきり言うが、貴様はまず戦術の基本から学ぶべきだ。技量はあれど戦い方が素人では話にならん。そう言う意味では、まだジャンの方が使い物になる』


 ガガーン!


 もう……心折れそう。


『威張るのはそれからにするんだな。だが俺に再戦を挑んできた度胸は買ってやろう。今日から徹底に鍛えてやるから覚悟しておくんだな』


「はい、ありがとうございます……ロウ少尉」


 結局私はまだまだ弱いんだぁ……。でもいいや、その内直ぐに強くなってやるんだから。


 強くなって、いっぱいいっぱい強くなって、そして……最上君の仇を―――


『―――ああ、いい雰囲気のところに水を差すようで申し訳ないね。2人とも、少しいいかな?』


 あれ、あそこにいるのは……Mr.ジーザス少佐?


 なんか身体中の至る所に包帯を巻いているけど、ひょっとして負傷して帰ってきたのかな?


『ケント、ハヤセを鍛えるのはカミラに任せてもらうよ。君には他にやる事があるからね』


『報告書ならヘリの中で書いた。後は提出するだけだ』


『始末書、そっちはまだだよね。あと今回も減俸だけでは済まないから、そのつもりでね』


『…………』


 その途端ロウ少尉は無言になって、そそくさと格納庫に戻ってしまった。


 始末書ってあれだよね? 悪い事をした時に書かされる反省文的な感じの。それを書かされるって事はつまり……そう言う事なの?


「Mr.ジーザス少佐、ロウ少尉って何か悪い事でもしたのですか?」


『まぁね、彼はエースと呼ぶに相応しい実力の持ち主だけど、そのせいか身勝手な行動も目立つところがあるんだ。割といつもの事なんだよ、これって』


 ええぇ……割といつもの事なの、これって?


『エースなのに少尉止まりなのも、それが一番の理由だね。彼はあまり模範になる兵士では無いから、反面教師と捉えておいた方がいいよ』


 反面教師かぁ。いいや、どうせロウ少尉も超える壁の1つに過ぎないんだし。背中を追うんじゃなくて、踏み台にしてやるくらいの気持ちでいかないと。


 だって私の目的は、まだまだ先にあるんだから。あはは。


『それじゃあ僕はもう行くけど、戦術訓練はカミラから教わってもらうといい。彼女は教官にも向いているからね』


「は〜い、了解です少佐」


 私は素直に答えておいた。


 教わるならロウ少尉の方が高等技術を教えてくれるだろうけど、やっぱり基礎から学ぶべきだと思うし、それに……もう焦る必要も無いからね。あはは。


 だって最上君はもういないんだもん。手遅れになったんなら、急いで強くなる必要は無いよね。あはははは。


 しっかりと実力を身に付けて、ちゃんと強くなろう。強くなって、そしていつか最上君の仇と相対した時には、滅茶苦茶にして殺してやるんだぁ。


 待っててね、最上君。私、必ず強くなるからね。あは、あはは、あはははははは!

一応言うけど、システム補助が0%って事は完璧に乗りこなせたって事で、地味これギネス記録ものだから。ケント・ロウでさえ1年近くかかってるから1ヶ月そこそこで乗りこなせたハヤセって何者なんだよ。そして未だ50%以上あるダイはどうなんだよ。てか何なんだよ、この差は?

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